1ー3【行方知れずの相棒3】
◇行方知れずの相棒3◇
二年前のあの日、【ステラダ】で対峙した害意。
ミーティアの父ダンドルフ・クロスヴァーデン……彼と、ザルヴィネ・レイモーンという【死葬兵】によって、ウィズと赤メッシュはこの大陸へと追いやられたのです。
現在の位置は【ラウ大陸】の中央部。
【テンデスウォーク】と呼ばれる草原に、ウィズと赤メッシュは居ます。
この大陸に来た直後は最南端に居たので、二年で中央まで到達出来たのは、これでも早い方だと言う事ですが……
「おい、そろそろ休憩にすっぞ」
「――まだ行けますが」
赤メッシュが無遠慮に言う。
ウィズはまだまだ行動できるというのに。
「けっ。俺が疲れたんだよ馬鹿が、テント張るからお前は結界を張れ、いいな」
「……いいでしょう」
言動に納得は行きませんが、仕方が無い。
「紋章展開……【霊気対策放出】」
この術は、紋章術と言います。
ウィズが新たに開発した、魔法とは違う術式です。
紋章を身体に刻むことで、魔力がない人でも魔法に似た力を行使できるようになるのですが、実際に使用できるのは今のところウィズだけ。
実験もなにもしていませんからね。【アルテア】に居られたら、もう実践していてもおかしくはないのですが。
「相変わらず便利だなそれ。俺にも教えろよ」
赤メッシュが物欲しそうに言う。
「お断りです。ご主人様……ミオの敵になる可能性のある赤メッシュに、教える義理はありません」
ウィズは水色の髪を掻き上げ、毅然とした態度で宣言する。
「あっそ、じゃあいいや」
「……」
テキパキと作業をする赤メッシュ。
名はレイモンド・コーサル……ミオやミーティアと一度は敵対していた、転生者。
二年間共に行動をしてはいますが、気を許したことはありません。
それに、この赤メッシュはミオと戦うことが目的です。
負けた腹いせにウィズを襲わないのは意外ですが、この修羅の【ラウ大陸】での戦闘で戦力になるのは事実でしょう。
「終わったぞ。おら入れ、番は俺がする」
「ちょっ……」
赤メッシュは無理矢理テントの中にウィズを押し込める。
何が番ですか、結界は万全ですよ……しかし。
「まぁいいでしょう。それでは休ませていただきます」
赤メッシュの背中に向けて言う。
手だけでこちらに返事をし、赤メッシュは外へ。
「……ふぅ。本当に、身体というのは厄介ですね」
ズキズキと痛む身体を押さえる。
触れるだけで壊れてしまうのではないかと思う程に、痛みで気を失わないようにするので、手一杯だった。
情けない話ですが、強がりと言うのでしょうね、こういうのは。
恥ずかしながら、赤メッシュにもきっと気付かれていたのでしょう。
「ミオ……」
もう二年も、会話も出来ずにこうしているなんて。
ウィズは彼の一能力であり、彼のために全てを尽くす事こそが……本質。
そのはずなのに、この体たらく。
ダンドルフ・クロスヴァーデン。
ミーティアの実父。そしてあの力……聖女の【奇跡】にも近い、【死葬兵】を自由に操る力。
それにザルヴィネ・レイモーンも、赤メッシュとの戦いで口を利いていた……意志があるのだと、操られている訳では無い可能性まで出てきた。
思い出す、あの日の出来事を。
◇
『――逃したか。まぁいい……最後には、必ずミーティアは私のもとへ戻る。それまでは謳歌するが良い。ザルヴィネ!!』
『ショウチ』
『な!?しゃ、喋れんのかよザルヴィネさん!!』
既にボロボロだった赤メッシュが驚愕するのも無理はない。
到底人体とは思えない巨体、変形して原型を留めない四肢。そして人間離れした、圧倒的な存在感。
今までの【死葬兵】とは比べられない、その力を。
『スマン、イマノオレハ……ダンドルフ・クロスヴァーデンノサンドウシャダ』
『んだと!!あんた一体何されっ――ぐぁっ……!!』
いとも簡単に、巨腕に吹き飛ばされる赤メッシュ。
『させません!魔力をっ!!』
この時はまだ、紋章術は完成していませんでした。
だからウィズは、魔力を放出するだけの牽制を行いました。
『ふむ……やはり邪魔だな。ザルヴィネよ、その女を排除しろ!』
『ウォォォォォォォォォォ!!』
咆哮を上げる【死葬兵】。
それと同時に、背中から触手が生えだし、ウィズと赤メッシュを拘束したのです。
『なっ!これは……まさか魔力を吸収して!』
『ぐっ、おいザルヴィネさん!そんなヤツの言いなりになってんじゃねぇよ!!正気に戻れ!!』
『イッタゾコーサル。オレハサンドウシャ……ダト』
そして、背中の触手は変形して翼へと変わる。
そのままウィズと赤メッシュを持ち上げ……
『――まさか!』
地上のダンドルフ・クロスヴァーデンは笑い。
『そのまさかだ。殺せば根に残るし面倒も残る。ならば……』
ウィズたちを……物理的に引き離すと、そういう事だ。
『世界の最果てにでも行って来い。帰りは、そうだな……二年もあればいいだろう』
『んだとゴラァァ!』
『くっ、こんな……何も、出来ないっ!』
そうして、ウィズは【ラウ大陸】の最南端まで連れて行かれたのです。
不思議な力は【死葬兵】の身体を包み、空間を超えて、一瞬でウィズたちは魔大陸へと追いやられたのでした。
とても呆気なく、敗北という形で。