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エピローグ2ー8【皇女、背水2】



◇皇女、背水2◇ミオ視点


 翌朝、見事……というまでではないが、ゼクスさんは自分で立てるようにまで回復した。この部屋には三人。フレイは俺の中に入って眠っている。


「魔力はどうっすか?」


「ああ……全快ではないが、ミオの【転移(てんい)】には耐えられると思うぞ。凄いな、あの漢方薬。クソ不味いけど」


「でも良かったわ。不味いだけで済むなら、これから(・・・・)も欲しい所ね……不味いだろうけど」


「そうだな、不味いけど」


 明るくも、セリスの発言は今後の戦いに対してのものだ。

 帝国が銃を手に入れた……つまり、今回のゼクスさんのような症状を見せる怪我人が増えると想定しているんだ。

 実際、俺も思う。ダメージを完全に防ぐのは無理だ……【魔蟲(まちゅう)】の影響であんな風になるなら、この漢方薬は必需品になる。


「ミオ、【複写(ふくしゃ)】で増やせなかったのか?」


「出来ないことはなけど、くれた先生が先生でさ……不義理だと思った」


「良いお医者様だったのね」


 そうだな、口は悪いけど俺のやる事にも口出ししなかったし。

 良い医者だと思う。


「ああ、なんだか【アルテア】に興味があるらしいから、もしかしたら来るかもな」


 現時点での最高の医療施設が【アルテア】にはある。

 何せ回復の術が使える精霊のフレイに、その力を凝縮した【ヌル】まで量産できるからな。


「それは心強いわね」


「そうですね!殿下!」


 俺も、この漢方薬はありがたいと思っている。

 セリスの考えは、きっと俺の考えと同じはず……アリベルディ・ライグザールとダンドルフ・クロスヴァーデン。この二人が最大の敵なのは間違いない。

 そこに、セリスの父である皇帝が加わったと見るべきだ。


 直接的な関わりがあるかはまだ不明だが、銃器を提供した事実がある。

 だから敵だと思ったほうがやりやすい……それに。

 俺はセリスを見る。


 くすんで見える白金髪(プラチナブロンド)

 疲れで(やつ)れ、寝不足でクマもある……だけど、その瞳には宿っている。

 戦うつもりなんだな、父親――皇帝と。


「なに?」


「いや。なんでもないさ……さ、帰ろうぜ、【アルテア】に」


 そうして俺たちは、この帝国中央部――【アーゼルの都】から脱する。

 聖女の協力、アレックス・ライグザールとの一応の決着。

 だが、帝国自体があの男たちに通じている可能性。少なくとも、銃器を得て過剰な戦力を手に入れたことは間違いない。


 皇女セリスを排してまで、この国は何を求めているのか。

 残されたユキナリの安否もそうだし……これは予感だ。

 次の敵は――【サディオーラス帝国】だ。





 【アルテア】に戻って、二日間の休みを貰った。

 そして休み明け、俺はセシリーさんを呼び、その報告をした。

 正直、見つけるまでは良かった。その後の展開が想定していない……その結果で彼女が納得してくれるかは分からなかったが、セシリーさんは喜んでくれた。

 内心、死んでいると思っていたらしい……でもって、アリベルディ・ライグザールの秘密を話してくれると言う事だが、それはまたの機会にしてもらった。


 これは俺からの提案だ。

 とりあえずの依頼達成という事で、保留にしてもらったんだ。

 今度、彼女をアレックス・ライグザールが向かった西に連れていく。

 その時こそ、本当の依頼達成と言う事だ……甘いかな?


「……ふぅ。本当は、直ぐにでも聞き出せばいいんだけどな」


 管理者室の椅子に仰け反り、書類をまとめる。

 俺がいない間の報告書だ。数日なのに結構あった……【アルテア】から離れられないぞ、これ。

 もちろん、信頼できる人たちは多い。だから任せる事も多くなるさ、だけど……それだけでは駄目なんだとも思う。


 それこそ、三国のリーダー。

 公国のルーファウス、女王国のシャーロット、そして帝国の……


 コンコン――


「はい、開いてるよ」


「失礼するわね」


 おお、名を出そうとしたら登場した。

 帝国の……セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス皇女殿下。


「よっ、ゼクスさんはどうだ?」


「もう完全回復。皆にからかわれてるわ……」


 肩を(すく)めて、セリスは笑う。

 今日はまた、ドレスのような豪華さを見せているな……どうした?


「国の事も、話し合ったんだろ?」


「ええ。【アルテア】に協力している帝国の部隊……私に力を貸してくれる者たちは、全員一致で――抵抗するわ」


「そっか」


 それなら話は早い。

 俺も、セリスの言葉次第で動くつもりでいたからな。


「私たちは戦う。父と、国と……そして負けない。私は、世界には必ず、【アルテア】が必要になると信じているから」


 だから戦う。

 俺たちが向かう未来を信じてくれている。例え自分の国が敵になろうとも、最善を選んで、最終的な未来に幸福を運ぶために。


「ああ、俺もだよ……俺も同じさ」


「そう……嬉しいわ、私も――【帝国反抗組織(アニマ)】の皆もね」


「アニマ?ああ……【帝国精鋭部隊・カルマ】ではないからか」


 近いうちにも、帝国を相手にする為の準備が必要だ。

 そのリーダーはセリス。そして【帝国精鋭部隊・カルマ】……いや、確か名を改めて、【帝国反抗組織(アニマ)】。


「そう。その皆の意思だから……だから」


「ん?」


 セリスは俺の席に近付き、鼻先が触れるような距離まで詰め。


「――私と、結婚してくれる?」


「……は?」


 帝国皇女、セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス。

 背水の策。誰よりも国を愛し、誰よりも民を思う皇女の……最後の策。

 この皇女の背水の陣は、未来に、そして俺にも不穏を招く事になるのだった。




~ 第2章【故に至る者は救われない】編・エピソードEND~


青年編・第2章、終幕です。

更新が1日1話になり、随分とペースが遅くなってしまいましたが、なんとか終わりました。聖女レフィルと皇女セリスに焦点を置いた2章ですが、3章までセリス関連は引っ張る事に……レフィルも、味方になって格上げです。

それにしても、セリスが爆弾を投下して終わりました……怖いですね。

最近は新作の方も書いているので、1日1話のペースを守りつつ、なんとか更新を続けていきたいと思っております。

それでは、3章もよろしくお願い致します!!


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