エピローグ2ー7【皇女、背水1】
◇皇女、背水1◇ミオ視点
診療所から去った俺は、肩に【死葬兵】の男を担いで歩きで宿に戻った。
爺さん先生から頂いた薬……漢方を片手に。
「悪い、遅くなった」
「……誰?」
セリスからの当然の質問だった。
しかし俺も知らない。
「――【死葬兵】だよ、それも、精霊が憑いてる特別製だ」
「は、はぁ!?」
なんだか久し振りにセリスの大きな声を聞いた気がした。
「ちょっと色々あってな、聖女とか【魔蟲】とか……情報が多くてだな」
正直、今のセリスに聞かせるべきなのか悩む所だ。
短期間に色々起きすぎたからな、こちらとしても整理する時間が欲しいが……まぁそうだ、説明求む。だよな。
「分かってるって、そんな目をしなくても話すから。まずは飯……そんでこの漢方をゼクスさんに飲まそう。今は、寝てるみたいだけどな」
机に置いた紙袋を見せて、光明があると示す。
弾丸のダメージの後遺症が、この【魔蟲】の影響だとも話そう。
そうすれば、素直に漢方を飲んでくれるだろうし、ゼクスさんが回復すれば安心もするはずだ。
そうなれば、【転移】で一気に【アルテア】に帰る事も出来るさ。
遅めの夕食となったが、起きたゼクスさんに甲斐甲斐しく食べさせるセリス。
俺はそんな二人を見ながら今日あった事を説明した。
聖女レフィル・ブリストラーダ、そしてアレックス・ライグザールとの再会。
モレノ・バラバ医師と奥方、パメラさんのおかげで知る事が出来た【魔蟲】について。
そして襲ってきた【死葬兵】……それがアリベルディ・ライグザールの手先であると確信しての報告。
「ってな感じ」
「どうすればこの短時間にそれだけの事柄が起こるのよ……」
セリスは呆れたように、ジト目で俺を見る。
いやいや、俺もそう思うって。疲れたもん。
「そうだけど、得られた事の方が大きい。【魔蟲】もだし、聖女が味方……というか、協力者だな。そういう関係になれた事は、【アルテア】にとっても重要な一日になった思うよ」
「聖女か……よく自分の故郷を襲った人間を許せたわね、凄いわ」
半分は呆れているだろう。
セリスはレフィルの事を知らないし、深く追求はしないだろう。
それでも、感心してくれてるのは伝わった。
「クラウ姉さんを含む……村の少数は許さないだろうから、単独で行動して貰う事にはしたけど……予備の【AROSSA】も渡したし、【ヌル】も複数与えた。逐一連絡を取ることは出来ないだろうけど、聞かれれば答えるし、こちらからコンタクトをとる事も考えてる。ま、心強い味方……だと思うよ?」
「アレックスだったかしら……アリベルディ・ライグザールの息子、保護したほうがいいんじゃないの?いくら貴方を敵視しているとはいえ、その方がいいと思うけど」
「ん〜……まぁなぁ。それだけは考えものなんだよ、アイツ……面倒くさいから」
保護も確かに考えた。
セシリーさんからの依頼の件もあるし、迷ったんだよ俺も。
「そう……貴方がいいなら、それでもいいわ。私に口を出す権利もないしね」
セリスは笑う。
疲労からか、少し儚げだった。
「……殿下、この漢方……マジで飲むんですか?」
「おっとゼクスさん、飲まなきゃ治らんぞ?」
食事を終えたゼクスさん、手元に置かれた丸薬……漢方の臭いに鼻を押さえて言う。俺もセリスも臭いには気付いてたけど、言ったら飲もうとしないだろ?
「そうよゼクス、しっかり飲んで。すっごい臭いだけど……」
セリスも口で息をしている。
袋から取り出した瞬間、この臭いだからなぁ。
「考えても見てくれ、【魔蟲】……つまり虫の影響で不調をきたしてるんだぜ?嫌じゃない?」
「……それは嫌だな」
「普通に気持ちが悪いわ」
「じゃあ手っ取り早く飲もう、はい!」
「くっ……分かった、分かったから!」
寄生虫はどこにでもいるんだけどな。
口にされるとやっぱり、嫌だよな。
だけどゼクスさんは、俺とセリスの言葉で覚悟を決めたらしく、物凄い顔面で口に運んだ。
ぱく。
「――んぐっ!!うげっ……うえええええええ!まっず!!不味い不味い!!」
ゼクスさんは吐き出そうとしやがった。
「【無限永劫】」
俺はゼクスさんの唇をくっつけて塞いだ。
「んぐぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅうぅっ!」
「ほら飲みなさい!そのまま飲み込むのよ、ゼクス!!」
顔青いな。あ、息できないからか。はははっ。
「――っ」
ごくん。ガクッ――
「ゼクス!?」
白目を剥いて崩れたゼクスさん。
いや……うん、大丈夫……だよな?
あの爺さん先生、変なもん渡したんじゃない、よな??
「大丈夫、あまりの不味さに気絶しただけだよ、多分」
「……(じぃ〜)」
めっちゃ見られている。
「さ、さて……効き始めるのは朝かな。それまでどうすっか」
「……」
いや〜……ここまで見られると、俺も自信なくすよ?
良薬口に苦しとか言うじゃん。薬も毒も紙一重だし、もし【酔薬】とかでぼやかして、効能が消えたら悪いしさぁ。