エピローグ2ー5【懺悔の道へ】
◇懺悔の道へ◇ミオ視点
アレックス・ライグザールの物語は、これで終焉だろう。
戦う事もなく、大きな転機となる物語でもない……それでも、一人の男が抗った結果の、終着。
「何でしょうか、ミオ・スクルーズさん」
カルカという女性が少し警戒する。
まぁまぁ、俺とレフィルの考えは理解しているんだろう?なら、聞いてくれ。
「帝国にも、港町は沢山ある……そうだな、ここから南西にある【ギャパレ】とい港町には、西大陸へ渡る船が出てるとか」
「に、西大陸……ですか?」
「ああ、ちょっとこっちでも考えがあってね。出来れば、俺たちの目の届かない場所に……って違う、邪魔だからとかじゃないって」
ジト目で見られた。
きっちり訂正しておかないと、アレックスに気付かれたら面倒だし。
「――父親ね」
「そ。まさしくそれだ」
レフィルが的確に当てる。
「この男の強さについては、さっきレフィルが説明……というか現実を見せてたけど、それには理由がある」
多分、レフィルは左目から情報を得たな。
【破壊】の影響で生まれた……神の力で。
「アタシは言ったわね。【奇跡】の効果について」
「え、ええ。アレックスさんは、その……強さの限界が、と」
そうだ。アレックスは、何も努力をしても弱いままって訳じゃない。
意図的に、成長できないようにされていたんだよ。
「アレックスの限度は、ストッパーが付けられた状態なんだ。つまり、誰かに成長を止められていたと言う事だな」
「「!」」
「……やっぱり」
レフィルは気付いている。
おそらく、そのストッパーを付けたのが誰かも。
「どんな目的があるかは知らんが、父親……アリベルディ・ライグザールが、自分の息子にひでぇ仕打ちをしたんだよ」
成長の限界を、止められている。
それは心の成長も同じだ。だからアレックスは、自分の為にしか行動できなかった。誰かの為と自意識を抱いても、それは結局……自分の為にしかなっていない事に直結してしまう。
「どういう考えがあれば、息子にそんな真似できるのかしらね……」
怖いって顔!!
なんだか凄みが出てるな……前に戦った時よりも、絶対強いだろ。
よ、よかった。絶対の味方と言う訳じゃないが、それでも協力出来るのなら。
「さぁな。でも、だからこそ少しでも離れて欲しいんだよ……あの男は、俺の敵だ。もし、アレックスに付けたストッパーが何かの策に繋がっているなら、それは除外しておきたい」
非道になるのなら、俺がアレックスを殺せばいい。
だけど、それじゃあ何も変わらない。
非情になる覚悟はあるし、実際色々やってきたが……せっかくレフィルが魔女の一歩を踏み出した結果だからな。
「本当は俺の傍にいてもらうのが一番だ。でも、それはアレックス自身が拒否するだろ?」
「で、でしょうね」
「だろうなぁ」
「……ま、そうね」
だから遠くに置く。
「愛しいものは遠ざける、じゃないけどさ。流石に西大陸に息子がいるとは思わないだろうしな」
問題は、南の【ラウ大陸】には行けているって事だ。
正解は不明だが、ウィズと赤メッシュを【ラウ大陸】にぶっ飛ばしたのはアリベルディ・ライグザールだろうし。
こうなれば、あの男が更に遠い西大陸まで手を広げる前に、なんとかするしかない。
「大臣がどこにいるか、判明しているの?」
「……さっぱりだ」
両手を上げて降参のポーズ。
これだけは、数年探しているが見つからない。ミーティアの父、ダンドルフ・クロスヴァーデンも同じだ。
「あーそれと、カルカさん、あんたには少し残酷な事を言わなきゃならない」
「構いません」
カルカさんは真剣に、受け入れる覚悟を決めているようだ。
「そっか。じゃあ言うが……今回、偶然とは言えアレックスを見つけたのはラッキーだったんだよ、俺に取っては」
「あ、外で言ってたやつか……」
男が言う。
「そうだ、嘘を言った訳じゃないんだっての。依頼をされたのは、その男のメイドさんからで、どうやら乳母だったらしいけど……」
「あ……」
カルカがハッとする。
どうやら存じているようだ、セシリーさんの事を。
そんでもって、レフィルが最後にアレックスに投げた言葉……本当に大切な人、ってのは、セシリーさんの事だな。
「あんたらが西大陸に行く事、彼女に伝えなきゃならない。そしてあの人が望むなら、俺はあの人をその男のもとへ送り届ける……それでも、いいか?」
カルカさんにとっての恋敵となる訳だからな、セシリーさんは。
しかも恐らく、二人の関係性は恋人以上……カルカさんに勝ち目は、ないかもしれない。
「……はい。構いません」
カルカさんは、悲しそうに笑った。
そうか……知ってたんだもんな。だから、始めから受け入れていたんだ。
それでも好きだから、愛していたから。
「そっか。分かった」
これ以上は何も言うまい、野暮だからな。
「それじゃあ後は……」
「――アタシね」
そうだな、よく分かってる。
レフィル・ブリストラーダが進む、懺悔の道。
自ら定めた荊棘の道に、レフィルは覚悟を決めた眼差しを向ける。
そして俺はその言葉を聞き、彼女と握手をして別れた。
彼女が何を考え、何を思って……魔女の道を受け入れたのか、それを聞いて。
いつか再会する時が来るだろう。その時は、同じ志で、同じ方向を見ていたいものだと、俺は思った。