エピローグ2−3【魔女の目覚めた日3】
◇魔女の目覚めた日3◇ミオ視点
俺が掛ける言葉はない。
それにアレックス・ライグザールも、今はもう俺どころじゃないだろうしな、自分の限界を依存していた人に見定められて、それが一般人以下という現実。
自意識が無かった時が一番輝いてたよ、あんた。
「今まではねぇ、お前が大人だったから、ミオ・スクルーズに勝った気がしていただけぇ!勘違い、最高に滑稽だわぁ!あは、あはははははっ!彼が大人になった事で、ぜぇんぶ逆転されてるものねぇ!」
見下し続けるレフィル。
演技でやっているのが分かるとは言え、ノリノリじゃないか。
でも、それは魔女の道のスタートとしては、辛いものになるはず……俺が指定したとは言え、なんだかな。
「……なら、ならなんで!僕を選んだんだ!!僕は必死に、必死に君を守ると、全てを捨てて……君だけの為にぃぃ!!」
さっき言われただろ。
お前は、自分の為にしか行動してこなかったんだよ。
笑いを止め、レフィルは冷たい視線で。
「違う。それはアタシの為じゃないもの……お前の行動は全て、お前自身の為じゃない。恩着せがましいわね……愚か者」
刺さる刺さる、言葉の刃が。
しかも全部的確なんだろうな、アレックス・ライグザールにとっては。
俺が知らない事も当然知っているだろうし、スペックがどうとか言ってたし、深くまで繋がった証拠なんだ。
「僕は……僕は……」
言葉に力がない。覇気もない。
逆転したと思ったんだよな、レフィルが復活して。
始めから対等じゃないんだよ、人間関係ってのはさ。
「――ねぇミオ。これなに?茶番?」
俺の隣にやってきたフレイ。
さっきはフォロー助かったよ。
「まぁそうだな。茶番っちゃあ、茶番だ」
俺とフレイの声はあの男にも届いていない。
結構な大きさの会話だが、もうそれどころではないんだろう。
周りが見えない人間は、こういった結構なチャンスも簡単に逃がすんだよ。
「あの人間、凄いね。多分、魔力の操作でいえば、ミオより上かも」
フレイはレフィルの後ろ姿を見ながら言う。
レフィルの事をそんなに高評価しているのか、精霊目線でも。
「お、マジか。凄いな」
言い訳を言わせてもらえば、俺はもとより魔法が使えないんですが?
でも能力を使うのにも魔力操作はあるしな……納得しておこう。
それに、レフィルも前に戦ったときは魔法をバンバン使ってたし。これからは魔女だしな。
「――何故なんだぁぁぁ!?」
「おっと、少し目を逸らした隙に」
アレックス・ライグザールが叫んだ。
レフィルに対して、飼い主に裏切られた犬のような、泣きそうな視線で。
普通、裏切られるのは飼い主の方な気がするけどなぁ。
だからこの場合、飼い主に捨てられた……かな。
「……もう誰にも関わるのはよしたほうがいいわねぇ。貴方のようなクズで!愚かで!情けなくて!自分の事しか考えられない自己中男は!……海沿いの景色のいい場所で、今から老後を過ごせばいいわ」
いわゆる引退勧告だな。
この若さで見限られ、失った物以上にショックだろう。
これで間違いに気付けなければ、本当に最低最悪だけど……どうかな。
「……」
「……ん?」
目が合った。俺と。
あー……そうか、そうだったな。
「――貴様の……」
この男は、最初からそうだ。
「貴様のせいだ!!ミオ・スクルーズゥゥゥゥ!!」
元々俺のせいにして、生きてきた数年。
その標的が間近にいれば、当たり前のように矛先は向く。
「それでいいよ?」
だから言ってやる。
勝手にしろと。同じ土俵には立てないんだと、宣言してやらねば。
「な……んで、なんでだ!!どいつもこいつも!僕を……馬鹿に、しやがっ……て」
一度は立ち向かおうと、力を込めたが。
膝から崩れたアレックス。心も折れたか……
「相手にされないのが、一番堪えるからね、人間は」
スゲェ分かりやすい事言うじゃん俺の精霊ちゃん。
しかし正論だ。嫌な相手は無視をする。相手にしなければ、そもそも一人で叫んでいるだけだ。
俺は休んでいた身体を動かし、レフィルの後ろから声を掛ける。
アレックスを見ながら、だ。
「……レフィル、あんたは始めから、このアレックスという男を利用していたんだな。この状況が来るかも知れないと想定して、出会いの頃から」
半分は正解なはずだ。
だけど、俺に負けてからレフィルの世話をしてきたのは事実。
数年間、廃人寸前になっていた自分を救ったのは……間違いなくこの男と、その部下なんだから。
だが、結局は自分の為。
それが全てなんだ。
「ええ。この男は大臣の息子……権力と金だけはあったから」
ピクンと、肩が動いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ……この、このぉ……クソ女がぁぁぁぁぁ!!」
「……!?」
「おいっ!」
「レフィル様っ」
「だ、団長!!」
ガタン――!!
アレックスは豹変して、レフィルに組みついた。
両肩を力一杯掴み、力任せに押していく。
壁にぶつかり、大きな音を鳴らした。
俺も部下二人も、直ぐに助けようと思ったが、レフィルが手で制した。
「……それが本性なの?」
「そうだ!!これが僕の本質だ……怖いだろ、男に襲われて!恐怖で身が竦んでいるじゃないか!!」
見る限りでは、そうだ。
レフィルは少し震えている。
だけど、それは恐怖じゃない……お前はさっきまでのレフィルをもう忘れたのかよ。
数年間の傷、その影響は計り知れない。
痩せこけた身体も、失った体力や筋力も、体内の栄養素すらも欠如した状態なんだ。
生きていただけでも奇跡のような身体の相手に……なぜそんな言葉を掛けられるんだよ、あんたは。