エピローグ2−2【魔女の目覚めた日2】
◇魔女の目覚めた日2◇ミオ視点
えっと〜、なんて説明すれば言いんだ?
この鬼詰、前世で職質受けたとき並なんだけど、怖いです爺さん先生。
それにしても、レフィルがこんな早く行動を移すとは思わなかったな。
万が一、レフィルの傷が回復し、それで心変わりをしたら……そんな想定もしていたが、まさか俺の考えを汲んで行動をしてくれるとは。
そのレフィルは、黒いヴェールを被り、先生の奥さんに笑顔をみせていた。
ぱっと見、シスター見たいだな。でも、早くに隠されて正解だった……なにせ、新しくなった左目の色が変わっていたからな。
しかもあれは、完全に【破壊】の魔力を示した色……オウロヴェリアの色だ。
「……」
「おい聞いているのか坊主、どうやったらあそこまでの成形技術を持てる!」
「いや〜……魔法みたいな?」
多分この人誤魔化せない!!すんげぇしつこいし!
年寄り相手に乱暴は出来ないしなぁ。
「んな訳……ん、いや、まぁいい。後は勝手にしろ」
「へ?また急に切り替えを……」
爺さん先生は部屋を出ていった。
どうしたんだ急にと思ったが、それはレフィル、そしてアレックスの様子を見ての事だったらしい。
「――今、なんと言ったんだ!!レフィル!!」
なんだ?俺が爺さん先生に鬼詰されてる間に、一体何が。
「言葉の通りよ、アタシは完全回復をした……だから貴方は必要ない。そう言ったの」
蔑むような視線で、レフィルはアレックスに向き合っていた。
その後ろにはカルカ……だったか、その子もいる。
しかしだ、カルカって子はアレックス側じゃないんだな……意外だ。
「なぜだ!!僕は君が回復するために、ミオ・スクルーズに勝ったんだぞ!」
おい、いつお前が勝ったんだよ。
俺が負けた宣言しただけで、勝者はお前じゃねぇんだよ。
「情けない男ね。いつまでも子供みたいに、叫べば解決すると、泣けば許されるとでも思っているのかしら。貴方がミオ・スクルーズの思惑に乗せられて、情けない姿を晒した結果……愛を向けていたカルカでさえ、今はアタシの後ろだっていうのに」
それは、確かに。
やっぱりレフィルは、俺の考えが分かってこうした行動に出たのか。
つまり、そういう事だ。悪女をやっているんだよ……意図的に。
「……何を、何を言って……」
「貴方は自分のことしか考えていないのよ。それは別に悪い事じゃない、アタシだって他人を利用して、聖女の立場を利用して悪事を働いたもの」
「なら!僕とおな――」
違う。
「違うわ」
決定的に違う。
現在と過去。敢えて魔女へと変わろうとした聖女と、未だに変わる気配を見せない、騎士団長。
むしろ悪くなっている気がするな、再会してからのこの男は。
「同じなんかじゃないのよ、アタシとお前では」
レフィルの纏う空気は、異質だ。
誰も口出し出来ない状況、しかし、部下だった女性はレフィルに、もう一人の男も、考えは似たようなものだろう。
しかし、これが悪女の本質か。
アレックスへの数年の感謝は、きっとあるはず。それを全部捨てて、今気付かせようとしている。自分を悪女として、魔女として。
「アタシが何のためにお前のような馬鹿な男を利用したと、身体を重ねたと思っているの?【奇跡】の効果はまだ反映されているのよ?そんなお前は、この男に勝てなかった……それが答え」
【奇跡】の超強化か。
あれ、それなのにワンパンで気絶するのか?
外で気絶してる【死葬兵】との戦いも、俺の一撃も……流石に弱すぎないか?
「なん……だって?」
「【奇跡】は薬とは違うのよ。一度掛けたら解除はされない……記憶の方は別だけれど、身体強化は掛ければ掛けるほど、強さが増すわ」
そうか、だから【死葬兵】は……意識を失う。
ドーピングで身体を壊すのと同じだ。
操り人形という言葉がしっくり来ていたが、それがその答えか。
【奇跡】は、レフィル本人の魔力……もしくは【奇跡】専用の力を、分け与える力なんだ。
「でも、強力な【奇跡】を掛けるには条件がある。それこそが、肌を触れ合わせること……つまりそういう事よ」
な、なるほど。
単に【奇跡】を掛けるのは簡単だが、より強力なものは、粘膜接触的な行為が必要という事だ。恐ろしいな。
「でも……お前は駄目だったぁ」
下衆な笑みを浮かべて、レフィルは表情を壊した。
高価な物品を選んでそれ以外は捨てる、悪役令嬢のような悪さを感じたね、俺は。
でも本質だろ、これがお前の……本当の笑顔だ。
凄いよ、隠そうとすれば隠せるはずなのに、一転性質が変わってしまえば、それを武器に出来る。
「……レフィル……ぼ、僕は」
嫌でも気付けるだろう。
【奇跡】を強く掛ける為に、自分は選ばれたんだと。
そして、きっと更に種明かしがあるはずだ。
「【奇跡】はねぇ……掛ける対象のスペックに応じて、掛けられる総量が決められる。肌を重ねれば、それだけ多くなるわぁ……」
「なら、僕は!」
「――限界が早かったのよねぇ……言ってしまえば、神が決めたお前のスペックは……一般人、以下……だったのよねぇぇ!!」
「……なん、で」
自分が選ばれたと、父が決めた道以外を歩けたと思っていたんだろう。
でも違う。アレックス・ライグザールという男の限度は……一般人と変わらない。
それはつまり、【奇跡】を何度掛けたとしても、この男は【死葬兵】にすらならないという事。
なんだか、可哀想に見えてきた……