エピローグ2−1【魔女の目覚めた日1】
※エピローグは8Partで終わりです。
◇魔女の目覚めた日1◇レフィル視点
おそらく彼の、ミオの思惑はアタシなんだ。
今はアタシの動きを待っている。だからこそ、ここで無理をしてでも動かなければならない。
彼がアレックスに価値を見出せないと決めて、ここまで敗者を演じようとするのなら、乗せなくてはならないんだ。
その為には、まずはアタシ自身の回復をしなければならないわ。
「ミオ・スクルーズ、この黒い破片……今すぐにでも取り除いて、前のアタシの美しい顔を作り出しなさい。それが、この勝者……アレックスの要求よ?」
「……ああ。その通りだ!」
そこで従ってしまうのが、今まで犬に成り下がっていた……犬の人生を歩んでいた者の習性なのかしらね。飼い主が父親からアタシに代わっただけの、可哀想な人。
「!?……あ、ああ……そうだな。それが妥当か」
目を見開いて、アタシを見る。
もしかして、想定外だったかしら?
アタシがここで立ちあがる事も、この条件を提示する事も。
「アレックス。二人を連れて後ろへ」
「な、何を言うんだレフィル!この男が隙をついて、君に愚かな事をする可能性が否めない、僕は傍に――」
「後ろへ。それでも不安なら、カルカ……こちらに来なさい。彼の監視をして」
「え……あ、はい!」
アレックスへは右目だけで威圧する。
それだけで、思い出すのでしょう……【奇跡】で意思がなかった時の自分を、負け犬根性を。
カルカは素直にアタシの隣へ。アレックスも文句を言わなかった。
「あ……ああ、りょ、了解した」
ゾッとした顔で、下がっていく。
そこで下がってしまうから、貴方は……
「では、ミオ・スクルーズ……」
(ごめんなさいね)
「分かった」
(苦労するな、お前も)
口パクの会話で、確認をする。
その短い会話だけでも、アタシの考えは伝わったわね。
なら、これは先程の彼の……アレックスの発言の謝罪と思って欲しいわね。
「あ、あの……すみませんでした」
「ん、ああ。君も苦労してんだな」
開口一番に、カルカはミオへ謝罪をした。
やっぱり、この子は状況判断が出来ている。
もしかしたらアタシの意図にも気付いているかも知れないわね。
カルカの事ならアレックスも信用しているだろうし、都合がいい。
だけど。
「カルカ、いいのね?」
「!」
アタシの視線に、少しだけ考える素振りをみせ。
そしてカルカは言う。
「……はい。これが、あの方の為になるのなら」
視線はアレックスの背に注がれている。
アタシが言うのもおかしな話だが、ここまで見てくれている人がいるのに、どうして彼はここまで……
「そう……じゃあミオ、よろしく頼むわ。貴方の為にも、ね」
「……了解だ」
(まさか、ここまでになるとはな。予想外だった)
ミオは、アタシの顔に……黒い影に触れる。
元に戻る、あの抉れた顔が。
でも、本当にそれだけでいいの?アタシは、元に戻ってしまったら、思考や性質まで元に戻ってしまうかもしれない。
それは駄目なのよ……だったら、残すべきは。
「ミオ」
「ん?どした」
「……修復はお願いしたいけど、視力は戻さないで」
「は?」
「レフィル様!?」
そうしよう。
あの敗北を、罪の重さを忘れないように。
せめて失った物を残そう。
「アタシの罪が、それだけで許されないことは分かっているわ。だから、左目は要らない」
「本当に、いいんだな?」
「ええ、決断が鈍る前に……よろしく」
アワアワするカルカを尻目に、ミオは魔力を発する。
これがミオの能力の光。優しくも強い、王の光。
「【無限永劫】。【創作】。【複写】。【反転】――そして【零無】だな」
次々と出てくる言葉。
能力の名なのだろうが、そんな数の能力を所持していたの?
アタシもイエシアスに少し借りたけど、これ以上は大量のキャパがないと無理だと言われたわ。
ミオは、どれだけのキャパシティを秘めているというの?
「凄い……」
もう感覚すら分からない。
あの痛みも無い。右目に薄っすらと見える情報だけで、ただただ綺麗だと、そう思う事しか出来ない。
「レフィルの遺伝子情報はチェック完了。それを元に、顔の成形……そしてそれをコピー、後は細かい操作は要らない。このまま、移すだけだ」
ミオは触れていた手を離す。
それと同時に光は治まり……
「レフィル……様」
「いいぜ、触ってみな」
「ええ」
左手で、そっと触れる。
触れる事すら出来なかった、届かなかった箇所。
何もかもを失ったと思っていた。でも、触れられる。
「……これが、アタシの」
涙は出ない。泣く事は許されない。
代わりに泣いてくれる人がいる、それだけでいい。
「どうだ?視力は……無くしたけど、本当に良かったんだな?」
「ええ。見えないわ……でも、それでいいの」
アタシは立ち上がり、先生の奥さん……パメラさんに。
「このヴェールがあるから」
黒のヴェールは、顔を隠すにはうってつけだ。
「それに、魔女っぽいでしょ?」
顛末を見守っていた先生は、ミオに話し掛けている。
それはそうね、顔を作り出したんだから。当たり前よ、こっち見ないで。
「さて……」
ここからが、アタシの魔女としての初仕事。
慣れているなんて言いたくはないけれど、これが変わらないのよね、聖女のときにやってきた……悪行と。
さぁ、聖女と魔女と悪女が、同じ者だと言う事を、証明しましょうか。