2ー66【悪女な魔女14】
◇悪女な魔女14◇レフィル視点
目を覚ますと、ミオ・スクルーズがアレックスに頭を下げていた。
深々と、真剣に、思いを込めた言葉を掛けて。
「ふ……ふふふ、はははっ!そうだ、そうだよ!負けを認めたか、ミオ・スクルーズ!」
「……ああ、俺の負けでいい」
嗚呼……なんて惨めなのか。なんて情けないのか。なんて滑稽なのか。
この状況、物理的に動けないのはどちらなのか……心象的に動かされている事も気付けず、相手を下に見続けた結果、自分を貶める行為だと、自殺行為だと気付かない。
「ふはははっ!聞いたか二人共、この僕の……このアレックス・ライグザールの勝ちだ!」
床から生えでた何かに固定されたまま、アレックスはミオを見下している。
そんな見下されている青年、ミオの横顔を……アタシは見えている。
なんて感情のない顔なのだろう。彼は、この謝罪という……敗北宣言という行為自体に、なんの価値も見出していないんだ。
「そうだ。貴方の勝ちだ……これまでの件も、先程までの暴言も謝罪するよ」
外での内容を知る事は出来ないけれど、想像はできる。
ミオはこき下ろしたんだ、アレックスを。
だからそれまでの怒りに加えて、今回新たに追加された怒りと屈辱で、ここまで愚かになれる。
だけど、ミオはどうしてそこまでの事をしたのに……謝罪なんて、火に油を。
「そうだ!これで分かっただろう、君のような男が、なんの価値もない男が!ミーティア・クロスヴァーデンも男のセンスが悪い!黙って父の、いいや……僕を選んでいれば、今頃!」
ピクリ――と、ミオの眉が動いた。
気付いたのは、アタシと白い子だけ。
白い子はアタシが横になる診察台の傍で小声で。
「あ〜あ、せっかくミオが負けで終わらせようとしたのに……」
と、言う。
言わずもがな、禁句レベルなのだろう。
でも耐えている。その怒りのレベルを耐えるだけの物が、どこに。
「……?」
ミオがこちらを見た。
横目で、確認をするように。
……そういう事、アタシに、こんなアタシに価値を。
なら、答えなくては。
グ、ググ……
「――ま、ちなさい……アレックス」
なんて痛み。
あの黒い破片が、完全に取り除かれた訳じゃないのね。
でも、それでも。
「レフィル……そうか、そうか!うぉぉぉ!」
アレックスは最大の力を込めて、固定されていた拘束具を破った。
でも分かる。これはミオが弱めたんだ、拘束具の硬度を。
「さぁ、立てるかいレフィル」
「ええ」
なんて愚か。まるで前の自分を見ているよう……あ。そうか、そうなんだわ。
彼とアタシは、鏡なんだ。
だから気付けた。自分の愚かさに気付けたからこそ、今の彼の無謀で幼稚な考えが透けて見える。
「負けを認めたのなら、今すぐにアタシの顔をもとに戻しなさい……ミオ・スクルーズ」
ミオ・スクルーズ……貴方の思惑に、悪女な魔女に。
【破壊の魔女】――レフィル・ブリストラーダの初陣、見せてあげるわ。