2ー65【悪女な魔女13】
◇悪女な魔女13◇ミオ視点
「――はっ!ゆ、夢か……」
「夢じゃないよ」
戻ってきた俺に、現実逃避は許されなかった。
眼の前でジト目を向けてくるフレイに、俺は視線を逸しながら言う。
「レフィルの様子はどうだ?」
「安定してる。空間はまだあるけど、ミオ……制御ができるようになったの?」
うお、マジじゃん。
黒いバグはそのままだが、チリチリとした異空間のような存在では無くなっている。でもこれなら、この黒い傷を消滅させられるな。
「ああ、完璧だ。このまま試しても良いんだが……」
ちらりと見るのは爺さん先生だ。
「――坊主、お前さんはなにもんだ?こりゃあ医療じゃねぇ……神の御業だ」
「うーん。自分では普通の人だと思ってますけどね」
「そんな訳ないじゃん」
「嘘こけ」
「そうは見えないわねぇ」
「あれ?」
フレイどころか、老夫婦にも言われてしまった。
そして。
「――そいつは、化け物ですよ……外で寝ている刺客と同じだ」
「……お前……」
固定されているアレックス。
顔を沈めたまま、そんな事を言い出す。
そしてその言葉の意味に気付いていたであろう、外の二人は。
「――だ、団長!!流石に、流石にそれはないっすよ!この青年は、聖女さまを助けてくれたんすよ!?」
「アレックスさん、今のは恩人に対して失礼です……例え不可抗力、想定外でも、思慮をお持ちください」
いや、いいさ。多分もう、何を言っても無駄なんだ。
こいつが受け入れない限り――
「こんの……若造がぁっ!!」
「え……」
ズドム――!!
「えぇ?そっちぃ?」
「おいおい、爺さん先生!?」
ツカツカと歩き、アレックスのみぞおちを一撃。
ズドムと拳が沈んだ。アレックスは目を剥いて驚愕……いや俺もフレイも驚いたって。あなた医者だよね?
「お前さんが拘るのは、この坊主への執着か!それともこの嬢ちゃんへの忠義か!どっちだ、ばかもんがぁ!」
「……くっ、ジジイが知ったような口を――」
ズドム。
「はぉう!!」
うわぁ……これキレてるだろ、絶対。
いいんですか?奥さん?
「うふふ、久しぶりに怒ってるわねぇおじいさん」
笑ってる……いいんだ、それで。
でもそうだな。そのおかげかどうか分からないが、俺の心はスッキリしている。
結論を言えば、もう怒ってない。興味がない。相手をしても無駄だと、そういう判断が出来たんだ。
だから言ってやろう。
「――なぁアレックス・ライグザール。俺が悪党ならそれでもいいよ。いくらでも恨めばいいさ」
爺さん先生の肩に触れ、退いてもらう。
スンマセンね、個人のゴタゴタで騒がしくして。
「でもな。場をわきまえない、状況を見定められない阿呆にはうんざりなんだよ……爺さん先生が殴ってなかったら、俺はお前に何をしたか分かんねぇよ」
「……わきまえないのは、どちらだ」
それはそうかもな。約束破ったのは俺だし。
だけど、場をかき乱す道化師……そんな役目、お前には向いてないんだよ。
「聖女レフィル・ブリストラーダの怪我は完治した。もともと俺が与えた怪我だしな……それに、こっちにも収穫があったし。もうそれでいいよ、お前が馬鹿やってるのも見逃すし、俺に喧嘩を売るのも勝手にすれば良い」
「……」
目も合わせない。
少し自分でも気付いてるんだろ?どれだけ、今回のこの短期間で愚かな事をしているのかを。
「聖女を守るのが使命……とかさ、勝手に思ってたんだろうけど、その荷物は俺が変わってやるよ」
「きっ……さまぁ!!」
矜持か、それとも見境のない暴挙か。
こいつもどこか、聖女と似ていたんだ。
何も出来ない自分が許せない。だから全て他人のせいにして、聖女を守ることも、俺への八つ当たりも、自分を守るための免罪符にしている。
「――すまなかった」
お前を負かすには、これしかない。
俺が大人になったように、お前も自分の足で立て……アレックス・ライグザール。