2ー59【悪女な魔女7】
◇悪女な魔女7◇レフィル視点
一つの国の歴史、それを壊した聖女。
それの更に上を行く……世界から反感を買う魔女、アタシはそれに、成れるのだろうか。
彼の言う意図を汲み取れば、アタシはこれから、きっと聖女として生きた数年よりも、過酷で苛烈な人生を歩む事になるだろう。
「さて……始めるか。フレイ、サポート頼むぞ?」
着々と準備を進めるミオだけど、診察台の上からだと見えない動きが沢山あるわね。ミオがどんな動きをしているか、予想しか出来ない。
前世で言う外科手術……そんな大掛かりな事じゃないと思いたいけれど。
「いいけど。ミオ、魔力は平気なの?さっきも外で【精霊心通】のモンスターと戦ってたじゃない?」
モンスター……魔物、いえ、【死葬兵】の事ね。
アタシが手を加えていた、王国の民たち……その生き残りを、一体誰が。
「平気だ。一般人の野郎ならともかく、俺は対処にも慣れてるし、魔力はほぼ使ってないよ。適当に殴っただけだしな」
【死葬兵】を殴って倒した。それだけでも、その能力を使用した本人から言わせれば、凄いことなのよ。
でも、このミオと言う少年……いえ、もう立派な青年ね。
彼のこの異様な空気感、威圧感、風貌もそうだけど、数年前とは比較にならないわ。
【死葬兵】を殴って倒す、それが可能かも知れないと思わせる程に、強くなっているのが分かってしまう。
「どした?やっぱり止めるか?」
アタシの様子を見てミオが言う。
そうね、そう取られてもおかしくはない。アタシは現に、彼に怯えたのだから。
「いいえ。アタシがキミを信じなければ、キミはアタシを信じないでしょう。だから、全て任せるわ……例えこのまま死す可能性があろうとも、キミを恨みはしない。それが本当に受けるべき罰だったと心に刻んで、死んでいくわ」
彼にはその権利がある。
助けると称して命を奪われても、何も文句はないわ。
「へっ……俺はそこまで捻くれてねぇっての!」
アタシの半面の笑みを受けて、ミオは表情を崩す破顔を見せた。
ここだけはまるで少年のような笑顔で、数年前の戦いでは見られるものでは無かったはず……いいのよね、これで。
「それじゃあ始めるぞ。撃ち込まれた【破壊】の破片を、取り除く!昔の俺じゃあ絶対に不可能だったであろう……【女神オウロヴェリア】と戦って真髄を得た、この力で!!」
ミオの右手が薄っすらと輝く。
薄い黒のオーラ、その奥底に滲む、神秘の脈動……嗚呼……そう、そうなのね。
この力、見間違うはずもない。
彼の立つその位置は、もうアタシたちとは全く違う。
アタシが見てきた神とは決定的に違う、これが……本物だ。
彼、ミオ・スクルーズこそが、この世界の本当の――神なんだ。