1ー8【成長を見せて1】
◇成長を見せて1◇
この二年。当たり前のように【アルテア】の発展を中心に行ってきた俺たちだが、勿論の事、鍛錬や訓練は怠っていない。
転生者は転生の特典の練度上げ、現地人は【Aキューブ】で覚醒した能力に慣れる訓練。
そして【オリジン・オーブ】の所持者たち。
ミーティアやセリスも、二年で劇的に強くなっていた。
「そろそろ本気で怒らないと駄目みたいね、セリス」
「あら?いつも怒ってるように見えるけど?」
訓練場にやってきた二人は、にこやかにしているようで全然そうじゃない。
セリスはミーティアのストレスを解消する為に一芝居打っているし、ミーティアもきっとそれに気付いている。
けど、二人の中での取り決めなのか……それをとやかく言いはしない。
え?俺はどこかって?それは――
「ミオ!審判よろしくお願いねっ!!」
「公平にね!」
「……おう、まぁ気ままにやればいいよ」
俺は訓練場の入口にいる。
壁に寄りかかり、二人が暴走しないように管理しなくてはならない。
二人の気迫に気圧されるように遅れたが、決して怖い訳ではない……いや本当に。
「先週は私が勝ったのよねぇ」
「先々週は私が勝ったけれどね!」
この塔の内部にある訓練場は、地上に作ってある訓練場よりも遥かに頑丈だ。
転生者や実力者が使用し、多少無理をしても壊れない設定にしてある。
だから【オリジン・オーブ】を全力で使用しても安心……のはずだ。
不安になるのは、この二人が【オリジン・オーブ】を使い熟しすぎて、俺の想定を軽々と超えていく事、だな。
「今日は私が勝つわ」
「今日は私が勝つけど」
ギロリ。
「「……」」
まぁ毎回、空気感もこうなる。
セリスはなんでこんなまどろっこしいやり方にしたんだろうか。
黙って、“ミーティアのストレスをフリーにしようの会”でいいじゃないか……そう提案したが、「だめ」と被せ気味に却下されたんだよなぁ。
「ほ、程々になぁ〜?」
なぜだか不安になって、変なふうに声が出る。
「分かってるわ」
「分かってる」
あくまでも、二人の仲が悪いんじゃない。
セリスがわざとミーティアを怒らせている理由は定かではないが、確かに二人が訓練をした後、ミーティアの色々な安定感は無下には出来ないんだ。
それが分かっているから、セリスもわざわざこんな手段を取っているのだとも思うし……
「それじゃあ始めましょうか――【ケツァルコアトル】!!」
セリスが権限するのは、俺が与えた転生の特典だ。
地球で言われるのは、空を飛ぶ蛇みたいな、農耕の神だ。風の神様だったりもするな。
この世界では、水や火を使用することも可能な万能武器だ。しかも空まで飛べる。
【ケツァルコアトル】は、俺の持つ【シヴァ】のような槍だ。
セリスが使っていた【オリジン・オーブ】の具現化の剣槍のように、長剣を槍に付けたような、剣身の長い得物だ。
「来て――【アヴァランチ】!」
右足から発せられる魔力が、氷のボーガンを形作る。
これは、二年前にミーティアがウィズの助言で手に入れた力。
それが【アヴァランチ・クロスボウ】だ。ミーティアは長いから【アヴァランチ】と省略して呼んでいるが。
「私がミオから愛情たっぷりに授かった、この【ケツァルコアトル】の方が上よね」
セリスが白金髪のポニーテールを振り回して自画自賛。
変な愛情はないです。煽らないで!!
「私の【オリジン・オーブ】はミオの魔力そのものだから、絶対に私の方が凄いわ」
それはまぁそうなんだけども……今は張り合わないで!!
「は?」
「なに?」
(い、いや〜……空気が。毎回コレだよ、勘弁してくれ)
二人の準備は万全のようだ。心も身体も。
バトルフィールドのように線が引かれた訓練後で、向かい合って構える。
剣槍と氷弩。そして風と氷。
互いに目的があり訓練を重ねた二人の女性。
俺にとっての最愛の女性と最良の友人。
ミーティアとセリス、二年の努力の成果を見せる時だ。




