5. 顔合わせ
花織たちは玄関の近くに集まると、12人で円になって座った。
上級生が1人__先ほど前に立っていた6年生が立ち上がって言った。
「水晶組、12人いるね。それじゃあ、自己紹介しよっか。名前と学年だけ言ってもらえる?」
他のメンバーはこくりとうなずいた。
その上級生は微笑んで、言葉を続けた。
「私からするね。6年の長谷川 沙夜です、よろしく。次どうぞ。」
「はい、5年の櫻井 美咲です。」
「あ、5年の安田 由梨ですっ。」
「4年の齋藤 萌佳です。」
こんな調子で自己紹介が続いた。
上級生は背も高く、とても大人っぽく見えた。
花織たち3年生も上級生の真似をして自己紹介を終えた。
自己紹介が終わると、沙夜はプリントを配り、シンシア会と今後の活動について説明した。
一通り読み終わると、沙夜は顔をあげて3年生の方を見て言った。
「さて、3年生は評価課題が出されました。みんなの評価は上級生の評価にも関わるからね。4.5年生は全力でサポートしないとね。頑張ろうね!」
3年生が「なんの事だかわからない」という表情をしたので、沙夜はさらに説明を続けた。
「評価課題っていうのはねー、簡単に言うと、テストみたいなもんかなー…。んー、さっき配ったプリント見てほしいんだけど_」
花織はプリントを読んだ。
"ドッジボール、いけん文、めんせつ"
と書かれている。
これがテスト?と疑問に思った花織。
花織が知っているテストとは、国語や算数などでやるアレであるから、評価課題がどういうテストなのか全く想像できない。
沙夜は全体を見ながら説明を続けた。
「評価課題は2週間後ね。課題のコツは上級生が教えるから。あんまり心配しなくていいよ。」
沙夜が優しい表情を見せたので、花織たちは安心した。
気持ちが緩んだ瞬間、5年生の1人がスっと手をあげた。
「言いたいことあるんだけど。」
「うん、どうぞ。」
その5年生は続けた。
「まあ、シンシア会に本気じゃない人、いらないから。」
沙夜とは雰囲気の違う上級生の姿に、花織はびっくりした。何もしていないのに怒られている気分だ。
きつい言葉に圧倒されている3年生に対して、その上級生は話を続けた。
「シンシアの規定では土曜だけ来るように言われてるだろうけど、他の曜日だって授業あるし。」
早口で話す5年生をなだめるように、沙夜は彼女の手を引いた。
「美咲ちゃん、いいよいいよ、追々伝えていけば…」
「でも、沙夜ちゃん、沙夜ちゃんが中学に上がる時に送られる大事な重要な書類の評価に関わるんだよ?本気でやろうよ、最初から!」
「うーん……だって、強制はできないよ?」
「そうかもしれないけどっ…」
沙夜は落ち着いた表情で、美咲の顔を見つめた。
美咲は足元に視線を落とした。
悔しそうな、何か言いたげな顔をしていた。
沙夜は表情を変えずに、そのまま3年生の方を向き、評価課題についてひと通り説明した。
「説明は以上。では、また来週ね。私がお疲れ様でしたって言ったら、続けてお疲れ様でしたって言ってね。はい、お疲れ様でした。」
『お疲れ様でした!』
花織たちは一番はじめに終わったので、早々に教室に戻った。
教室にいる同じ組の6人は一言も話さなかった。
花織は誰かと話したいと思っていたが、勇気が出なかったのだ。
結局誰とも話さないまま、智佳子が戻ってくるのを待っていた。