後編
読んでいただけると幸いです
ジャンル別日間ランキングで2位になっていました。
皆様のおかげです。
ありがとうございます。
4人で昼食を食べ、東屋へ向かう。他愛ない話をしていると、砂を踏みしめる音がして、皆が顔を上げるとダットンが近づいてきていた。
「ジョアンナ、2人で話せないか?」
私は丁寧にお断りした。
するとダットンはショックを受けた顔をした。
その顔を見て私の方が驚いた。
ダットンは私以外の3人を気にしながらも口を開く。
「昨日、父から話を聞いたよ。私はそんなつもりはないんだが・・・」
人目を気にしているのか肝心な言葉は口にせず会話しようとする。
「そんなつもりとはどんなつもりでしょうか?」
「・・・・・・」
暫く待っても返事がないので私達は「失礼します」と言い、教室へ戻った。
その日の夜、アルフィーノ侯爵が我が家へやって来た。
15分程するとその席に呼ばれる。
「息子は婚約破棄する意志はないと言っているんだが」
「え?どういうことでしょう?」
意味がわからなくて私は困り果てる。
暫く待っても父も侯爵も口を開かなかったので仕方なく私が口を開く。
「ダットン様は婚約破棄をしたくてああいう態度なのだとばかり思っておりました」
「ああいう態度とは?」
侯爵は何も知らないのか私に訊ねる。
「夜会実習のエスコートはカリーナ様を選び、ダットン様を見かける時にはカリーナ様といつもご一緒でした」
「それは・・・二人が幼馴染だから・・・」
「わたくし、学園が始まって一ヶ月ほどで婚約破棄されることになるかもしれないと父に伝えたくらいなんですが・・・」
侯爵が父の顔を見て私に視線を戻す。
「そう、勘違いさせるようなことをダットンがしていたというのか?」
「あの勘違いではないと思うのですが・・・侯爵様は一度ダットン様とお話をされた方がよろしいのではないでしょうか?できれば調査もしていただければどのような学園生活をダットン様と私が送っていたのか分かると思うのです」
侯爵が口を開く前に父に「おまえはもう下がりなさい」と言われ席を辞した。
父は侯爵様に何を伝えに行ったのかしら?
会話が成り立たない不思議さに首を傾げた。
婚約破棄届けを提出して1週間後、調査の結果、婚約破棄を認めると認められた書類が王宮より送られてきた。
サイファー達3人に破棄が認められたことを伝えると、とても喜んでくれた。
なかでもサイファーは飛び上がって喜んだ。
「思った以上に早く認められて良かったわね」
「ええ。私も嬉しいわ」嬉しくてシシリーと抱きしめ合った。
その時初めてサイファーの手が私の肩に触れた。
授業を終え、サイファーが自宅まで送ってくれるという。
申し訳なくて遠慮していると笑顔でサイファーが私の手を取った。
「もう、なんの遠慮も要らないし、今日は伯爵と面会の約束があるんだ」
「父とですか?」
いつの間に面会予約をしたのか。
「そう、婚約の申込みをしなくてはならないからね。休憩時間に使者を送ったんだ」
私は恥ずかしくて俯く。
サイファーに頬に手を当てられそっと上向かせられる。
「ジョアンナ、君が好きだ。僕と結婚してもらえるかな?」
サイファーの瞳に嘘はないか見極めようと見つめ合う。
アイスブルーの瞳は揺らがなかった。
「はい。わたくしを幸せにしてください」
サイファーの顔が私の顔に近づき耳元でそっと「約束するよ」と囁かれ、そう言って頬に口付けられた。
自宅に到着して馬車が止まる。
エスコートされ馬車を降りる。
サイファーの肘に手をかけ、二人の時間を楽しむようにゆっくりと歩く。
屋敷の中に入ると、家令が私に寄って来て耳打ちをする。
「ダットン様が?」
「ダットンがどうかしたのかい?」
「来られているそうです」
「そう。伯爵にお会いできるかな?」
サイファーが家令にそう伝えた。
「伝えてまいります。申し訳ありませんが、第一応接室でお待ちいただけますでしょうか?」
「わかりました」
第一応接室へサイファーを案内する。
家令が戻るのを待つ間にメイドがお茶を入れてくれて、一口口をつけると父がやって来た。
「お初にお目にかかります。サイファー・フェルベイトと申します」
「よく来てくださいました。急な来客でお待たせしてしまって申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず。もう、お帰りになったのですか?」
「いや、待つと言われて、お待ちいただいているところです」
「こちらの話が終わったらご一緒させていただきましょう」
「先程、ジョアンナ嬢にこの思いを告げた所、快諾頂いた」
「ジョアンナ嬢との結婚を許していただけるだろうか?」
「娘が快諾したのなら、私共に否やはございません」
「ありがとうございます。両親がお会いしたいと申しておりました」
「私共もお会いする日を楽しみにしております」
婚約成立の書類にサイファーと私、父の署名がされた。
サイファーの父の署名は既にされていた。
家令を呼び、急ぎ王家へ提出してくるように伝える。
お茶を一杯ゆっくりと飲み、約束のない来客の元へ三人で向かった。
父が先に入室し、サイファーに続いて私がダットンの待つ、第二応接室に入った。
サイファーを見てダットンは驚いていた。
「大事な話があるんだ。ジョアンナと二人で話がしたい」
「婚約者でもない方と密室で二人でいるような愚かな真似は致しかねます」
「その婚約についての話がしたいんだ」
「わたくしには話すことなどないのですが・・・」
何かございましたっけ?という雰囲気を出し首を傾げた。
「私はジョアンナと婚約解消など望んでいなかった!」
ことさら驚いた顔をしてダットンを見た。
「それは存じませんでした」
サイファーを見るとサイファーも驚いていた。
「婚約解消など口にしたこともないだろう?!」
「確かに口にされたことはありませんでしたね」
「そうだろう?!」
「ですがずっと態度で示してらっしゃったでしょう?」
「それは違う。カリーナは人見知りでっ・・・」
「ものには限度というものがあります。わたくし学園が始まってから二度しか口を利いたことがないのですが・・・」
「私の態度が悪かったかもしれないが、婚約破棄はやりすぎだろう!」
「あの、既に婚約破棄は王家が認めたものとなっております。今更話す必要はないと思うのですが」
「話すことはあるだろう!一方的に婚約破棄などっありえない」
「先程も申しましたが王家が認めたのですよ。ダットン様の態度があまりに酷いために」
「なっ!」
「わたくし、委細を日付入りでレポートにして王家へ提出致しました。そして、王家が調査されてこの婚約は続けさせられないと判断されたのです。一方的な婚約破棄だとは私は思っておりません」
「こちらは認めていないのだから一方的だろう?!」
「婚約破棄になにか問題がありましたか?ダットン様とカリーナ様のお望みの通りになったと思うのですが・・・」
「カリーナとは兄妹のようなものでっ」
「ご兄妹が、夜会実習で婚約者が居るのにも関わらず、入学から今までずっとパートナーを務めることなどありえません」
「それは・・・カリーナが・・・」
「ダットン様はダットン様と同じことを誰かがしていてもありえないことだと思われないということでしょうか?」
「・・・・・・」
「ダットン様だけが特別ではないと思われますが・・・私がカリーナ様達になんて言われていたかご存知でないのですか?」
「いや、噂は噂だし・・・」
「いえ、噂ではなくわたくし、夜会実習には婚約者以外と出席してはならないという決まりがありましたので、一人で参加しておりましたらカリーナ様のご友人達に、「これみよがしに一人で参加していやらしい人」と言われました。それに学園では聞き捨てならないほど、わたくしの酷い噂が流れておりますでしょう?」
「酷い噂は私も聞き及んでいるよ」
今まで黙っていたサイファーが口を開いた。
「酷い噂にも毅然とした態度で居られたジョアンナをとても素晴らしい人だと思っていたけどね」
「サイファー様・・・ありがとうございます」
うっとりと見つめ合う。
「ダットン様、もうよろしいですか?私共今日はお約束があるのでこれ以上無意味な時間を作れないのですが・・・」
「無意味というのか?!」
「ええ。婚約破棄が済んでいる以上、無意味でしょう?」
「くっ・・・」
「お引取りいただいてもよろしいでしょうか?お父様、後はお願いしてもよろしいですか?」
「ああ」
「では、失礼いたします」
サイファーが立ち止まり、ダットンの方を向いて「あっ、そうだ。ダットン、私のジョアンナのことを呼び捨てにしないでいただきたい。ちゃんと伝えたからね」
私の手を取り、指先にキスを落としエスコートをされて応接室を出た。
ダットンが帰るまでは一緒に居たいとサイファーに言われ、逡巡して温室に足を運ぶ。
「お母様自慢の温室なのです」
「私の花は目の前にある」と私を見つめて言う。
言われ慣れてなくて恥ずかしいので止めて欲しいです。
「少しこれからの話をしてもいいかい?」
「はい」
「婚約発表は社交デビューの少し前が良いと思っている」
「私もそのようにするのが良いかと思います」
「結婚なんだが、卒業式後の最初の吉日でどうだろうか」
少し驚いた。
「最初のですか?」
「ああ、それ以上私は待てない」
「サイファー様・・・」
「いやかい?」
「いえ、驚きましたが嫌ではありません」
「では、準備を始めてくれるかい?」
「喜んで」
父と何を話したのか、ダットンが帰ったのは1時間も経った頃だった。
三年生になり、三度目の吉日の日にサイファーとの婚約が発表された。
それまでもサイファーに婚約者として扱われていたので当然のことと受け入れられると思っていたのだが、大きな衝撃が走った。
今まで私の悪口を言わなかった人はとても少なく、公爵夫人となる私に女の子達は怯えたようだった。
婚約発表後はフェルベイト公爵夫人にあちこちのお茶会へ連れて行かれた。
社交デビューの日、互いの衣装を見て恥ずかしくなった。
サイファーの衣装は黒の燕尾服に、私の瞳の色の薄紫で縁取られていて、釦とカフスは私の髪色の濃い紫で飾られていた。
私の衣装は白いドレスに襟元だけではなく全身をアイスブルーの細かなレースで飾った。
白のレースで注文していたため、後からアイスブルーに染めてもらったのだ。
靴もアイスブルーだ。
そして、サイファーから贈られた婚約指輪も勿論アイスブルーダイヤで、存在を主張する。胸元にはパープルダイヤとアイスブルーダイヤの石が付いたネックレスを着けていた。
サイファーにエスコートされ、陛下の前に3年生皆が並ぶ。
最初に、サイファーと私の名前が紹介され、陛下へ挨拶をして下がる。
ダットンはカリーナではなく、白一色のドレスを着た知らない人と一緒に陛下へ挨拶をしていた。
学年が違っても婚約者なら名前を呼ばれるが、相手の方は名前を呼ばれなかったので婚約者でもなく3年生でもないのだろう。
カリーナは10歳くらいの男の子と出席していた。
その襟元はグリーンのレースで飾られていたが、相手の男の子は茶色い瞳と黒い髪だった。
何故二人が一緒に出席していないのか不思議に思ったけれど、チラと頭の中をかすめただけですぐに忘れてしまった。
サイファーにホールドされ、曲が始まるのを待つ。
音楽が流れ始め、ステップを踏む。
私達は見つめ合い無意識に笑顔が出る。
「サイファー様、わたくしこんなに誇らしい気持ちで社交デビューに出席出来るとは思っていませんでした。全てサイファー様のおかげです」
「私の方こそジョアンナのおかげだよ。幸せにするからね」
「はい。幸せにしてください。私もサイファー様を幸せにできるよう尽くさせてください」
曲が終わり、互いに礼を尽くして社交デビューが終わった。
デビューの興奮が冷めない学園の中でダットンとカリーナの距離はなぜか開いていた。
カリーナはダットンへ近づこうとするのだが、ダットンが追い払う、そんな姿を度々見かけるようになった。
聞きかじった話だが、ダットンのデビュタントの相手は2歳下の従妹で、カリーナの相手は弟だったそうだ。
何故そうなったのかは私は知らない。
サイファーとの婚約以降、私はとても忙しい。
学園の傍ら、昼は公爵夫人にお茶会に連れて行かれ、夜はサイファーと共に夜会に出席していた。
公爵家が私の地位を確固たるものにしようとしてくれているのが分かったので笑顔で必死にこなしていた。
学園卒業間近、ウエディングドレスが出来上がってきた。
その姿を見た母が「とても綺麗よ」と言い、父が「学園入学直後に婚約破棄されるかもしれないと言われた時にはどうなるかと心配したが、いい結果になって良かった」と言った。
私はただ、頷いた。
卒業式が行われ、私の周りには沢山の人が居た。
シシリー以外には一線を引いた距離感しか認めなかったが、公爵夫人となる私に聞こえるように何かを言う人は居なかった。
カリーナとその友人達も私に近づこうとしてきたが、サイファーが許さなかった。
自室の持ち物を粗方公爵家へ送り、後はトランク一つとなった時、両親に挨拶をした。
「お父様、お母様。今まで育ててくださってありがとうございます。お父様達の思うような子に育たなかったかもしれませんが、明日、サイファー様の元へまいります」
「幸せになるのよ」
「駄目だと思ったら何時でも帰ってきなさい」
「は、い、・・・」
教会の赤い絨毯の上を父と二人で歩く。
私の視線の先には私を待つサイファーが居る。
彼の手が私の方に伸ばされ、父が私の手を彼に渡し席へと下がる。
私とサイファーは見つめ合い、助け合い、幸せになると神と約束をした。
Fin
婚約破棄されると思っていたら、私から婚約破棄してしまいました。ダットンの想い
別枠で書いてみました。
気持ち悪い話なのであまりお勧めできないのですが、興味のある方は読んでくださると嬉しいです。
https://ncode.syosetu.com/n1086if/
後字報告ありがとうございます。
感謝しかありません。