シグレ
「...知らない天井だ」
某ヒト型決戦兵器のアニメを知っている人なら行ってみたい言葉ランキング、恐らく結構上位なその言葉を呟いた俺は、軽く辺りを見回す。
と言っても、さっき確認した時には俺の身体は赤子程度まで縮んでいたので、見渡せる視界はさして広くないのだが。もしかしたらこういう五感に関係することを発達させる魔法もあるのかもしれないのだが、生憎俺は知らないし知っていたとしても恐らくは魔力と思われる魔法を発動させる力が殆どない現状使えないだろう。その割に恐らく相当力...魔力を使う時魔法と思しき魔法を使えたとか、そういうことは気にしてはならない。
俺がそのまましばらく待っていると扉が開く気配がして、そちらを見ると白い髪の...しかし『イア』とは一味違った顔つきの少女が現れた。この世界、少女は疫病神か何かなのか?
「おお、おはよう。魔力枯渇の上低体温症、しかも栄養失調と気絶のデバフオンパレードで丸二日寝てたけど、調子はどう?」
朗らかに笑いかけながら聞かれたそれは、意外なことに心配の言葉だった。...確かに、黒い髪の少女も俺を心配してくれていた気がする。もしかしたら、疫病神なのは『イア』っていう名前の奴だけなのかもしれない。
「...まあ、問題ない」
俺が喋ったと言う事実に驚いたか目の前の少女は( ゜д゜)ポカーンとなっていたが、頭を強く振るうことで現状を認識できたようだ。再び俺を見て、「?」と首を傾げて、もう一回息を大きく吸うと。
「えぇっぇぇぇえええええ!?」
再び、しかし今度は驚いて悲鳴のような声を上げた。
「...で、異世界から来てここにいると?」
「うん、まあ。だからこんだけ喋れるし、意識もある」
俺が答えると、少女はうんうんと首を振り始めた。こういうGB素材なかったっけ?
「確かにね。見た目的には1歳に行くかどうかだし、その頃の子供がこんなに喋られるわけないもんね。...そうだよねー、普通こんな子は最下級で一瞬とはいえ魔力消費が異常な時魔術なんて使えないもんねー?」
俺は、知らんぷりを決め込むことにした。
しばらくたって。目算20㎝くらい伸ばされている俺の頬は気にせず、俺は目の前の少女と会話している。
...ちょっと、頬が痛くなってきたな。
「それで、此処はどこなんだ?」
「ん?魔の森だよ。この大陸一帯で一番魔物が強くて賢いところ。別名だと、『ヴァルカリアの森』だね」
「...ヴァルカリア?」
俺が頭を傾げていると、
「ヴァルカリア、って言うのは大昔に此処に住んでいた『聖龍王』、グレン・ヴァルホリア...当時はグレン・ヴァルカリアと、その娘の『迅龍王』アリシャ・ヴァルディリア...勿論、当時はアリシャ・ヴァルカリアの二人の家名だね。転じて、この森を監視している人、もしくはしていた人にもヴァルカリアって言う家名が付くんだ。因みに、この監視人の交代は監視人が死んだ時だけだから、基本的に子供を創ってからここの職に志願しろー、なんて言われてるね」
「お、おぅ...」
熱弁はありがたいが、MMOに嵌る前に推していたVの人に似てるんで、ちょっと避けてもらってよろしいか。とはいえ所詮俺は赤子の姿、勝てる筈も無く。
嘗ての俺の思い出、『幻想議会』の『天月吹雪』に似た、その少女に俺は抱き締められて眠った...。
「...んぅ」
「あ、おはよう。ずいぶんとご快眠だったようで」
「...そりゃ、俺の身体は赤子だからね。俺の精神的な中身は疲れて居なくても、肉体的な中身が妄言かいってことなんだろ」
「おーけーはあく」
眼を開けると、俺の頬を口にくわえて引き延ばしているシグレの姿が。それでよく喋れんな、とかそう言う突っ込みはノーコメントで。ちなみに、シグレというのは横にいる昔の推し似の少女の事だ。昨日寝落ちする直前に聞いた。それと、一応少女じゃないらしい。いわゆる合法ロリだ。まあ、本人にはロリが何たるかを理解できず、言ったせいで「明日の朝はイアの顔で遊んでやるー!」となり今の状態があるのだが...というか俺名前言った覚えないぞ?
...まあ、それはいい。昔の推しから猫耳猫尻尾を抜いてたまに出る黒い翼も抜き、最後に現実慣れした魅せるあざとさを抜いたようなシグレの天然はさておき、俺は目の前にある何かのステーキをみてシグレを睨んだ。
「...これを赤子の俺に喰えと?」
「うん。ボアの肉、しかもここのグレートボアの肉は魔力保持量がとっても多いからね。魔力量貧弱なイアにはちょうどいいかもしれないよ?だって、そもそも魔力保持量が少なければ魔術なんて放てないもん。...なお、一部例外あり」
「おい」
...結果。
俺はグレートボアの肉を食って、喰って、喰った。そして限界まで腹の中に詰め込み、腹がはちきれかけている現状だ。今は消化のために横になって呻いており、魔力変換を待っている現状である。
「腹がいてえ...!」
「がんばれー!子供のころに無理やり増やした魔力保持量は永遠に小さくなんないし、何なら3歳から増える前の魔力保持総量が多ければ多いほど増える魔力保持量は大きくなるからね!」
魔力保持総量とは何ぞや、と聞こうとした直前。脳内に、突如紫雷が響くような感覚がして、視界が暗転した。