追放聖女、組織に改造され怪人となる――この世界に変身ヒーローはいないし命乞いしても駄目――
私、フィーネ・ソーンは余命幾許もない。
生まれつき病弱だった私は、もう長くないのだと幼いながらに悟っていた。
それでも、誰かの役に立ちたいと……癒しの魔法で人を助けて来た。
いつからか、私は聖女と呼ばれるようになった。
自分の命すら伸ばせない魔法だけど、他人を助ける事は出来た。だから、私はそれで満足していた。
「君が儚い命でもかまわない。諦めない。王国の威信をかけて助けてみせる。愛している、フィーネ」
だから、王子エリク様からのプロポーズも断らなかった。
王子様との結婚が決まった時、私の心には不安しか無かった。
きっと、すぐに死ぬ私が結婚しても幸せになれないだろうと。
「おめでとうございます!フィーネ様!」
だけど、そんな不安をよそに周りの人はみんな祝福してくれた。みんな笑顔だった。私は嬉しかった。
結婚式まで残りわずかというある日、私は体調を崩した。
いつもの事だと思ったけど、その日は少しだけ違かった。
いつもなら、少し寝れば治るはずなのに一向に良くならないのだ。
むしろ、どんどん悪くなっていくような気がした。
そして、ついに医者からも見放された。
どうやら私はこのまま死んでしまうらしい。
それでもいいと思った。私は幸せだったから。
だけど。
そんな時に、王宮に彼女が現れた。
もう一人の聖女。私よりも――健康な。彼女の名前はクロエと言った。
彼女は私とは正反対だった。
私と違って、毎日元気いっぱいに動き回っていた。
それだけじゃない。
彼女は誰に対しても優しかった。
困っている人がいれば助けに行ったし、落ち込んでいる人が居たら励ましていた。
それから、とても可愛くて美しかった。
私なんかとは違って、まるで天使みたいだった。
そしてクロエは私にも優しく、私の病を治そうとした――だけど、できなかった。
どんな重病人も癒し、失われた四肢を再生する力を持つ彼女も、私の病だけは治らなかった。
そして――王宮に噂が流れる。
病ではない。
呪いだ、と。
聖女の力を封じる呪われた血を持つ者が居るのだと。
それが私であると。
私の存在は国にとって害悪でしかないと。
そうして私は追放されることになった。
それは当然の結果だと思う。だって私はこの国の役に立っていないどころか、国に迷惑をかけてしまったんだもの。
そう、当然だ。
当然の……
……だというのに。
「……ふざけないでッ!!」
どうしてこんな事を言われないといけないのか!!
『君が儚い命でもかまわない。諦めない。王国の威信をかけて助けてみせる。愛している、フィーネ』
そう言った王子は、あっさりと私を棄ててクロエと婚約した。
用済みのゴミを見るような目が忘れられない。
嘲るようなあの女の目が焼き付いて離れない。
なぜ? どうして? 訳がわからなかった。
納得出来なかった。
だけど、何もかもが手遅れだった。
私は国外追放された。
もう二度とこの国に戻ることは出来ないだろう。
「ふっ……うぅ……」
涙が止まらない。悔しい。悲しい。苦しい。寂しい。
辛い。死にたい。消えてしまいたい。
今までの人生は何だったんだろうか。
私が何をしたというのだろうか。
何一つ報われないまま終わってしまった。
雨が降る。体に打ち付けられる水滴が鞭のように感じられた。
いっそ打たれたまま死んでしまいたかった。
ああ、神様お願いします。どうか次の人生では幸せになりますように……。
そして意識が途切れた――はずだった。
誰かが近づいてくる気配を感じた。
顔を上げるとそこには一人の女性が立っていた。
年齢は十代前半ぐらいだろうか。美しい少女だ。
白い衣服に身を包み、モノクルをつけていた。
そして――大雨の中、彼女は濡れていなかった。
彼女は、漆黒の男たちを傍に連れていた。
彼女は言った。
「おめでとう! フィーネ・ソーン、貴女は栄えある異世界よりの秘密組織【グランナハト】の一員に選ばれました!」
***
「……え?」
気がつくと目の前には見知らぬ景色が広がっていた。
身体は冷たいベッドに縛り付けられている。ベッドというより、石畳……いや、金属の板?
天井の明かりは、見た事のないものだった。とても眩しい。ランタンや松明、シャンデリアとも違う。
そして私の手足は、革のベルトで固定されていた。
「おはよう」
私に話しかける少女。彼女は――一体誰なんだろう。
「あの……ここはどこですか?
あなたは誰ですか?……それに……どうして私はここにいるんですか?」
「質問が多いわね。まあいいわ。
順番に答えてあげる。
まずはこの場所について教えましょう。
ここの名前は【牢獄迷宮】と呼ばれている場所よ。聞いたことないかしら?」
「いえ、ありませんけど……」
「そうよね。知らないわよね。
じゃあ次は私の名前を教えてあげようかしら。
私の名は大幹部アリア・ヴァレィ。
この世界とは別の次元にある、【地球】という星で生まれた人間なの。
ちなみに、この子たちは私の部下たちよ」
そう言って、後ろに立つ黒服の男達を見渡す。男達は無言のままこちらを見た。
「……別の……次元……?そんな……まさか……!?」
「あら、信じてくれるの?嬉しいわ。
それなら、もっと早く貴方に話せば良かったわ。さっきも言ったけど、貴女は秘密組織の構成員に選ばれたの。
そして、その組織の目的は――全ての世界の秩序を守る事。そのために私は来たの。わかるかなぁ? つまり、今から貴女は私たちの組織の一員として働いてもらうってわけ」
「組織……? でも、私は」
「命の……余命の心配はいらないわ。
本当ならしっかり説得して意思確認してから改造するんだけど、貴女ほっといたら死んでたもの。緊急措置ね。
ああ、彼の紹介がなかったら本当に間に合わなかったわ」
そう言いながら、部屋の隅に居た少年を見る。
歳は私と同じぐらいだろうか。背丈は高い。髪の色は銀色だ。
彼は私を見ると、目を背けた。
「ああ、彼ってシャイだからねー。貴女の上司になる男、現地調達怪人8号にして、幹部……邪竜騎士リューグ。私の恋人なの。仲良くしてあげてね♪」
「なった覚えはない。過去を捏造するな」
「また照れちゃって~可愛いんだから。
ほら、ご挨拶なさい?」
そう言われて、渋々といった様子でこちらに近づき、頭を下げる。
「……よろしく頼む」
ぶっきらぼうな態度だった。あまり歓迎されていないようだ。
「はあ……もうせっかくの再会なのにー。リューくん本当に面倒な子。まあいいわ」
再会……?
「とにかく、あなたの改造は無事成功。
健康な肉体、頑強な生命力、そして強大な魔力を手に入れた。これでもう大丈夫。貴女に危害を加える者はいなくなった。
安心していいわ。それに、私たちの世界の知識もちゃんと与えたつもりだし、必要な物は用意してある。
さて、ここで問題です。貴女はこれからどうしたい?」
「どうしたい……とは?」
「そうねえ、例えば――復讐とか」
「―――ッ!!」
心臓が大きく跳ねた。
「ふふ、わかりやすい反応ありがとう。
そう、私たちはね、悪人を懲らしめる正義の味方でもあるの。貴女の敵は私達の敵。私達が潰す。
どう? 興味湧いてきたんじゃない?」
「…………」
確かに彼女の言う通りだ。
私を虐げた連中への恨みは消えていない。このまま死ぬのを待つぐらいなら、私も戦おう。
例え相手がどんな相手だろうと――。
「わかりました。あなたたちに――従います」
「オーケー!決まりね。
おめでとう、栄えある現地調達怪人十号の誕生よ!」
こうして、私の戦いが始まった。
いや――復讐が。
***
あれから数ヵ月が過ぎた。
私は、アリア様に言われた通りに様々な訓練をこなしていった。
まずは、自分の能力を把握することから始めた。
身体能力については、普通の人間と比べてかなり高いらしい。
次に戦闘技術の訓練だ。
武器の扱い方、格闘の技術など、戦いに必要な技術を徹底的に叩き込まれた。
そんなある日の事だった。私はアリア様の部屋に呼ばれたのだ――それも二人きりで。
緊張しながら扉を開けるとそこにはアリア様しかいなかった。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
笑顔で出迎えてくれたが、何だか怖い気がした。
「早速だけどフィーネ、今日は大事な話があって呼んだの」
「大事な話ですか?」
「そう。あなたの出身であるヴェルファイア王国……覚えてるかしら」
「はい、忘れたくても忘れられません」
「そうよねえ。
それでね、実は最近になってその国が動き出したみたいなの。何でも新しい兵器を作ったとかで……それが危険な物らしくて、なので世界の管理者として動こうって総帥様のお考えね。
単刀直入に聞くわ。
滅ぼしたい? それとも支配したい?」
「……え?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
「……ど、どういう意味ですか?」
「言葉の通りよ。
私達は世界を管理している存在……いわば神のような立場にあるわ。だから、好きに出来るのよ。国を滅ぼすことも、国を支配する事もね」
「……そんな……でも……どうして急に……それにどうして私が……?」
「簡単な理由よ。
復讐したいでしょう? だったら貴方に任せてもいいんじゃないかってね。担当はリュー君だけど、彼の推薦よ」
「リューグ様が……?」
「そ。で、どうする? やるの? やらないの?」
私は考える。
正直に言えば迷っている。だけど、答えは最初から決まっていた。
「やります。やらせてください」
「ふふっ、そう言うと思ったわ。
じゃあ、詳しい事は後で説明するから、今はゆっくり休みなさい」
*
「エリク王子と、聖女クロエの婚礼が行われる」
リューグ様がそう告げた。場所は例によって地下施設の一室だった。
「はい……」
ついにこの日が来たか。
私を裏切り、捨てた二人。
「憎いか」
「はい」
「殺したいか」
「わかりません」
本当にわからない。わからないけど……
「笑っている、な」
「……はい」
口元が歪むのが止められない。
「私の巣に誘い込み、私の糸に絡み取り、ゆっくりと締め上げていく。想像しただけで……ゾクゾクします」
「そうか……」
「リューグ様」
「なんだ」
「感謝します」
「それは後にとっておけ」
***
王太子エリク・フォン・ヴェルファイアと聖女クロエ・アルトゥールは王宮にて盛大な結婚式を挙げる。
祝福の鐘が鳴の響く。純白の衣装に身を包んだ二人は幸せそうに微笑み合っていた。
「では、誓いのキスを――」
大司教の言葉に従い、二人が唇を重ねる。
会場は拍手と歓声に包まれていた。
そして、花嫁がブーケを放り投げると、その先に居たのは――一人の少女。
黒いドレスを身に着けたその美しい少女は――ブーケを手にすると、柔らかく和微笑んだ。
「――!!」
その微笑みを見て、花嫁は凍り付く。
あれは。
あれは――!!
「……な」
それは新郎も同じだった。
驚愕に声も出ない。
あの少女を知っている。
あれは。
あれは――!!
「お久しぶりです、エリク様、クロエ様
。お二人を祝うため、地獄から舞い戻ってまいりました」
元聖女、フィーネ・ソーン。
「あ、あああ……」
「う、嘘よ……」
震える声でそう呟く二人を、少女は不敵に笑う。
「ああ、残念です。
折角の晴れ舞台だというのに、お二人の顔が恐怖に染まっています。
せっかく綺麗な衣装を着ているというのに台無しですね」
「ひぃ!?」
「あ、ああああああ!?」
「どうかされました?そんなに怯えて」
「あ、貴女は!?一体!?」
「申し遅れました。私の名前はフィーネ・ソーン。貴方達の手によって追放された者ですよ」
「そ、そんな……死んだはずだ! あの時すでに余命は……」
「ええ、だから私は捨てられた。だけどこうして偉大なるお方の力によって――舞い戻りました。
皆さま、喝采を」
そう言って、優雅に手を振ると、会場に集まった観客たちが一斉に拍手した。
その光景に、新郎新婦は恐怖する。
おかしい。
参列している貴族、大臣、そして騎士兵士……皆が彼女の言う事に従い、狂ったように喝采しているのだ。
国王まで。
何がどうなっているのか。
ただひとつだけわかっていることは――
もう、逃げられない。
二人は、そう本能で理解した。
ここは――もはや、彼女の巣だ。
「さあ。始めましょう――」
そして。
フィーネの身体が、弾けた。
そこにいたのは……身長2メートル近い、二足歩行の――
蜘蛛だった。
蜘蛛怪人レディクラヴァータ。
秘密結社グランナハトの作り出した怪人である。
◇
私は変身した。
怪人態は、はっきりいってただの怪物だ。だけど、今の私は決して、この醜い姿が嫌いではない。
リューグ様は、この姿を美しいと言ってくれたからだ。
アリア様は、実績を積み成果を上げれば、もっと洗練されたデザインの怪人になれると言っていた。
ちなみにリューグ様は今でこそ竜の怪人だが、最初はタツノオトシゴ怪人だったらしい。
正直、ちょっと見てみたかった。
出世したら、アリア様に当時の写真を見せてもらおう。それが私の当面の目標だ。
閑話休題。
「き、きゃあああああ!!!」
「へ、兵士!!兵士は何をしている!!」
エリク様が叫ぶ。無駄だ。
彼らはすでに、私の操り人形だ。
私の眷属たる子蜘蛛によって、操られている。
「う、うわああああああ!!!!」
二人は逃げ出す。だけど――
「!?」
急に二人の身体が動かなくなる。
私の糸だ。蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸に、体をからめとられている。
「どこへ行こうというのですか」
そう言いながら、私はゆっくりと近づいていく。
「ひっ!!」
「い、嫌!!」
悲痛な叫びを上げる二人。
「ご……ごめんなさいフィーネ様!!私達が悪かったから!許して!」
「そうだ!謝る!謝るから!」
泣きわめき、必死に懇願してくる二人。
その姿はあまりにも無様で滑稽で……とても愉快で、笑いそうになった。
いけない、我慢しないと。
「ふふふ、クロエ様。私から全てを奪っておいて、それはないでしょう」
「フィーネ様、私は……ずっとあなたに憧れていました、あなたのようにになりたかったんです!!だからお願い!私を助けて!」
…………憧れ?
「そうですか、ありがとうございます。
そんなに憧れてくれていたのなら……その願い、かなえてさしあげないと」
「……!!」
私の言葉に、クロエ様が笑顔になる。
次の瞬間、彼女の顔が激痛に歪んだ。
「ギっ、ああああああ!!!!!」
彼女の首には、私の眷属の蜘蛛。それが噛みつき、毒を注入している。
「あっ、がっ、ギアウウ」
「これで、クロエ様は私のようになれますわ。
最も、戦闘員以下の使い捨てレベルではありますけど……」
「あっ、あがっ、あっあっあ」
「ふふふ。ゆっくりと遺伝子を書き換え、細胞が変異していくのがわかりますか?
ただ、クロエ様の自由意志だけは残してあげます。もっとも、意識があるだけで、肉体は完全に私の操り人形。
自分の意思で指一本動かせず、ただ意識があるだけですが」
「が……ぐぅ……」
「まあ、それでもいいじゃないですか? 私と同じになれたのですから……嬉しいでしょう?」
「ぎゃ……う……うれじい……です……ありが……とう……ござい……ます……」
涙を流しながら、彼女は礼を言う。
うん、やっぱりこの人は面白い人だ。愛されるのもわかる。
「さて……エリク様はどんな風に遊んでくださいますか?」
「た、助けてくれ、謝る……私はただ騙されていただけなんだ」
「あら、そうなのですか」
「そ、そうだ!だから見逃してくれ」
涙目でそう訴えてくるエリク様。
「そうですね……じゃあ、騙されていたなら仕方ありません。私は許しちゃいますね♪」
私はにっこりとほほ笑む。
「そ、そうだろう?」
ほっとした表情を浮かべるエリク様。
だけど――
「ああ、でも……愛する殿方に「私は騙されていた」と言われた聖女様の哀しみと怒りは、どれほどのものでしょう」
「……えっ」
そして、クロエ様が泣いた。
「あ゛ん゛ま゛り゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、エリグさざま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ」
「ひいっ!?」
「ゆるざなあい ゆ る わ な い い い い」
「いや、違う、騙すつもりはなかった!! 本当だ!! 信じてくれ!! フィーネ!! フィーネ!! フィーネ!! フィーネ!!」
「ですから、クロエ様に謝罪なさっては?」
「あ、ああああああ!! クロエ!! 私が愚かでした!!申し訳ない!!本当にすまなかった!! だから、どうか許してほしい!!」
「あーあーあー!! うーううううううううう!!!!」
壊れてしまったかのように叫ぶクロエ様。彼女はエリク様にのしかかり、口を大きく開く。
そして――熱烈な、溶けるようなキスをした。
「んん、ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛んんんんんっっ!!!!!」
エリク様の身体が跳ねる。
蜘蛛というのは、獲物に消化液を注入し、内部をじっくりとどろどろに溶かしてジュースのようにちゅうちゅう飲む。
ああ、なんと熱烈な接吻だろう。見ていて身体が熱くなる。そして――羨ましい。
はぁ……早く私も、あの人と……なんて思ってしまう。
「……!! ……!!!!」
エリク様の身体の痙攣が小さくなっていく。その顔は白目を剝いている。よほどの快楽なのだろう。
そして、ゆっくりと……皮を残して、ぺらぺらになっていく。
クロエ様ったら、そんなにお腹すいていたのね。ダイエットでもしていたのかしら。
やがて、そこにはエリク様の皮だけが残されていた。
うーむ、ちょっとやりすぎちゃったかな。
これだと王太子の死亡あるいは行方不明になってしまう。
仕方ない。
「みんな。おいで」
私の声に従い、大量の蜘蛛――眷属たちが這い出てくる。
「その中に入ってね。しばらく、エリク様になっててね。後でアリア様に頼んで、誰かにその皮を着てもらおうかしら」
それで誤魔化せるだろう。多分。
私はそう判断すると、さて次は誰にしようかと考えるのであった。
***
「あはははははははははははは」
私は笑う。
私は叫ぶ。
私は踊る。
ここは私の巣。
私を縛るものは何もなく、私は自由。
私はフィーネ・ソーン。
私は怪人レディクラヴァータ。
私は――生まれ変わったのだ。
「いい働きね」
声がかかる。
空中に浮かぶのは、大幹部アリア様。
「……与えられた力のおかげでございます」
私は平伏する。
「手に入れたこの国、全て首領閣下と、グランナハトに捧げますわ」
「そう。期待しているわ」
そう言って、姿を消すアリア様。
ああ、素晴らしい。これが私の居場所。
私は幸せだ。
「さあ、皆さま、今宵は宴ですわ」
私はそう言って、糸を飛ばす。
「アハハッ!!」
兵士たちが、騎士たちが、紳士たちが、淑女たちが、糸に操られるままに洒脱なダンスを狂い踊る。
その中で私は待つ。
彼は――すぐに現れた。
「皆殺しにすると思ったがな。お前の怒りはその程度だったというわけか」
リューグ様はそう言いながら、私のもとへ歩いてくる。
「まさか」
私は笑う。
「だって、死んでしまっては楽になってしまいすもの。まあ、王子はつい勢いでああなってしまいましたが」
憎悪ではなく、余興が過ぎて殺してしまった。
「それに、もう――どうでもいい。私にとってこの国に価値などなくなってしまいました」
「そうか。じゃあお前は、何に価値を見出す」
「それは――」
私は、人の姿に戻った。
「貴方の隣にいることにこそ、私のすべてに意味があります」
そう言って、彼に抱き着いた。
「……そうか」
彼は優しく私の頭を撫でてくれる。
ああ、愛しい。
私は幸せだ。彼の腕の中で眠るときが、一番安心できる。
きっとこれから先、どんなに辛いことがあっても耐えていける。
私はそう思った。
私とリューグ様の抱擁を、クロエ様がいつまでも、腕が壊れて血が噴き出るまで拍手を送ってくれていた。
了