第二話:魔法の才能
村の隅に祖父である老エリクの工房があり、その前には僕たちが狩った獣の皮が干してある。皮はそのままだと腐るし、硬くなって加工しづらくなってしまう。だから、なめして革にする事で腐敗を防ぎ加工をしやすくする。
今日の仕事は皮を叩いたり揉んだり、動物性の油脂を塗ってなめす事だ。前世では何も知らずに革製品を使っていたが、このように手間がかかっている事に最初は驚いた。前世の記憶が全く役に立たず、こちらで様々な役に立つ知識を得ている。皮肉を感じた。
皮をなめしているとコンラッドがやってきた。
「今日はバル坊の仕事ぶりを見せてもらおうと思ってな」
「そんな事より、僕に魔法の才能があるか調べてよ」
「慌てるなバルドウィンよ、仕事の様子を見る事も才能を見るのに必要な事だ」
コンラッドはどこからか木の椅子を持ち出し腰掛ける。それに気付いたのか祖父が出てきて世間話をしていた。
「ウリクル婆さんの拾い子は皇国魔導学校に入学したんだって?」
「八歳で入学は前例のない事だったそうだ。あの規則とやらに厳しい学校がよく許したものと思うが裏があってな。何でもカディア王国の大貴族の息子が八歳で無理やり入学したそうで、だったら、うちも入学させろと婆さんが楯突いたそうだ」
「それは学校の偉いさんもお気の毒に」
「校長の腹の痛みが止まらなくなったから、入学を許可したという話だ。わしのとこから腹の薬を持っていったわ」
「しかし婆さんはよく入学させるだけの財があったな?皇国魔導大学と言えば各国の貴族が後ろに付いていないと払えないだけの財がいると聞いたが」
「婆さんが財を貯め込んでいても不思議ではないが、素直に金銀を出すとは思えん」
「仕事か?」
「おそらくは。学校から何らかの仕事を請負ったんだろう。どうせ碌でもないだろうから、わしは一切何も聞かなかった。巻き込まれるのはゴメンだ」
今日の分の皮をなめした後、革の袋を作る。狩りや薬草採りに持っていけるように木の枝でフレームを作り背負えるようにする。縫い物も前世ではサッパリだったが、意外と性に合ってるらしく僕の作った革製品は評判が良い。漠然とだが狩人よりは革職人になる道を進もうと考えていたくらいだ。針を動かしながら傍で僕を見守ってるコンラッドに尋ねる。
「ねぇ、魔法の才能って何なの?」
「魔法というものは魔素を操る事により様々な現象を起こすが、人は生まれつき魔素に好かれる体質と嫌われる体質がある。例えば、そこにいるお前の爺さんは嫌われる体質だな」
「そうさ、おいらは魔法に嫌われる寂しい爺さんさ」
「えっ、お爺ちゃんの事も調べたの?」
「お前のお爺ちゃんの老エリクは若い頃、わしやウリクル婆さんと旅をしていた事があってな」
「そうだ、お爺ちゃんは金銀財宝の眠る黄金郷を求めて、英雄のような冒険の旅をしていたのだ!」
老エリクは胸を張る。
「凄い! 凄いよ、お爺ちゃん!」
「黄金郷だって? 盗賊や魔物の寝ぐらになってる洞窟や朽ち果てた古代の遺跡をそう呼ぶなら、そうだろうな」
「思い出はいつも美しく輝いているものさ。孫に対して格好付けても女神様はバチを当てんよ」
と、ニヤニヤする老エリク。
「話を戻すと、ほとんどの人間は魔素に嫌われておる。人種による特性なのかも知れん。例えば東に住む長耳族は反対に好かれておるな」
「長耳族? 人間と違うの?」
「バル坊は人間以外の種族とは会った事は無いか?」
「コンラッドよ、こんな田舎の村に旅人は滅多に来んし、あちらさんも人間だらけの村で偏見の目を向けられるのは嫌だろう」
「世界には人間以外にもたくさんの種族が住んでいる。長耳族はその名の通り、耳が長い事が特徴だな。非常に長命で歳をとっても外見が変わらない。世界樹を信仰する古き種族だ」
それはファンタジー世界で言うエルフなのでは? エルフ! ここにはエルフがいるの!? その辺り、とても詳しく聞きたいが、今は僕の魔法の才能だ。
「さて、正直に言うが、この村には魔法の才能がある者はおらん。正確にはいるにはいるが、その才能は小さい。それでも魔導師ギルドは欲しがるだろうが、何せ産まれだの財力などを重視するギルドだから、仮にそれを知ったとして何もせんじゃろ」
「ギルドって?」
「魔導師ギルド、世界で魔導を独占している組織! と、あやつらは考えておる。とは言え、それは完全に間違ってる訳でもない」
「どういうこと?」
「魔法の中でも国家が戦略・戦術に使えるような高度な魔法、あやつらは『魔導』と呼んでいるが、それは確かにギルドが独占している。それらが書かれた書物はギルドが厳しく管理してるし、ギルド員以外が魔導を扱っている事が知れたら、ギルドから命を狙われるだろう」
重い空気を老エリクが破る。
「コンラッドやウリクル婆さんはギルドに入っていないのに扱い放題だがな」
「それは間違ってるぞ、老エリク。婆さんもわしも表だって魔導は使わんし、使うつもりもない。いかにわしらとて、ギルドに睨まれたくないからの。大手振って魔導を使うのは紫の大魔導師と真紅の王くらいだ」
「あいつらはギルドの特級指名手配者じゃないか!」
「いいかい、バル坊。これはとても大事な事だが、もし、お前が何かの拍子に魔導を知ったとしても、それを使ってはならん。よく覚えておけ」
ここで僕はちょっと疑問に思った。
「魔法と魔導の違いは何なの? それが魔導だとわからないと思わず使ってしまいそうだよ」
「魔導は属性がある。地火水風光闇。いわゆる精霊の属性と呼ばれておる。基本的にそれが魔導だ」
「待って。コンラッドさんは昔、僕に指から火を出してくれたよね? それは魔導ではないの?」
「ほっほっほっ、よく覚えていたの。あれは魔導とは呼ばれない。共通魔法と定義されてるものだ」
「難しいよ! どう違うの?」
コンラッドは咳払いをして、勿体つけたように語りはじめる。
「ギルドが魔法の基礎として定義したもの、それを共通魔法と呼ぶ。共通魔法の書物はギルドがギルド員以外にも販売しておるから、使っても文句は言われない。ただ、それはこの村を全て売ったくらいの財がかかるがな」
「あれは貴族様が買って、召使いに使わせるものだ。ギルドの集金にも一役買ってる。だから使うのはいいが書物をギルド以外から売買する事は禁じられてる」
この世界には魔法が存在する。しかし、誰でも自由に使える訳ではなく、魔導師ギルドのギルド員しか自由に使えない。自由に使える物もあるが、それほど役に立つ物ではないし、そもそも、魔法が使える者は少ないと言ったところか。
「さて、バル坊よ、何故そんな話をしたかと言うと、お前には魔法の才能がある」
「えっ!?」
「それも類い稀な大きな才能だ。最初に会った時から、その気配は感じていた。ギルドや学校に入れば、その才能は大いに活かされるだろう。しかし、お前をギルドや学校に入れる訳にはいかん」
「どうして!?」
「先ず単純に財が無い。わしは財を貯める事はしないし、この村ではいくら働こうとその財を捻出できん。それにもう一つ、才能が大きすぎる。わしも大きいがそれ以上かも知れん。もし、お前がせめて城下町に生まれていたなら、あるいはギルドの方から寄って来たかもしれない。しかし、村人の子では仮に入れたとしても辛い事が起こるだろう」
「じゃあ、僕は魔法が使えないの?」
「そこで老エリクよ、相談がある」




