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バルドウィン物語  作者: 山崎某
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プロローグ

 気が付くと、そこには古びた藁の天井が見えた。身体は思うように動かないし、声は出せるがうまく呂律が回らず「あー、うー」といった音を出すのがやっとだった。自分の小さい手が目に入った時、僕の身に何か異変が起きた事を理解した。


 それが異世界転生だと気付くには、それほど時間がかからなかった。転生前の記憶はあるが、転生直前の記憶はよく覚えていない。特に女神に会った記憶もないし、何か転生特典を与えられた感じでもなかった。


 ここには父と母、幼い兄がいた。他にも祖父母もいるようだが、一緒に住んでいないようだ。しかし、祖母はよく僕に会いに来てはあやしたり、布でできたあまり履き心地は良くないおむつを替えたりしてくれた。おそらく、昼間、母は何らかの仕事をしており、祖母が僕の面倒を見てくれるのだろう。夕方になると必ず、父と兄が僕に会いに来ていた。


 とにかく、毎日それが続いた。何日経ったかなんて、最初の三日くらいで数えるのをやめた。メモをする事もできないから覚えていられなかったのが理由だ。


 乳児の身体は退屈極まりない。異世界転生と言えば魔法だろうと思い、精神を統一して身体に魔素とかそういうものがないだろうかと色々試したが、よくわからなかった。もしかしたら何かやり方があるのかもと思ったが乳幼児の身でそれを知る術はない。


 そんな日々が続いたある日、僕が産まれて一年が経った事が判明した。その頃は父母たちが話す言葉もそれなりに理解できるようになっており「誕生日おめでとう」という言葉と共に皆が祝ってくれた。この一年は永遠のように長く感じた。


 もう少し経つと自分で歩けるようになった。大人の記憶があるのに身体は乳幼児であり、思うようにいかない。言語を発声する事はかなり上手くなったが、あまり大人びた事を言うのも良くないだろうと、あえて乳幼児らしい言葉使いに務めていた。


 二回目の誕生日が過ぎた頃になると、状況が何となくわかってきた。ここは異世界転生にありがちな中世ヨーロッパぽい世界で、文明レベルはかなり低い。蝋燭が贅沢品らしく、屋内照明は皿に油を入れたようなものだった。衣服も粗末なもので亜麻のようなものか、羊毛のようなものでできていた。肌ざわりはあまり良くなかった。


 魔法は存在はするらしい。たまに魔法使いと呼ばれる老人が村にやってくる。何の魔法を使うかはわからないが、彼は薬か何かを売りに来て、食糧を買って帰るようだ。僕は何回か彼に会った事があり、よく頭を撫でられた。魔法について色々質問したいのだが、尋ね方がわからないし、僕のような乳幼児がおかしな事を聞く訳にもいかなかった。いつか魔法の事を聞いてやろうと思う。魔法が存在する事にワクワクした。



 僕が住んでる村はかなり小さい。雄大な山が見え、爽やかな川が流れる。小さな谷の小さな村だ。僕たちはここを緑の谷と呼んでいる。


 景観はとても素晴らしい。空気も澄んで、夜は満点の星空に圧倒される。ただ、家は粗末で木の枝と藁でできていた。冬はすきま風が寒い。村は山の中にあるので、森で囲まれているようだから、せめて丸太でログハウスでも作れば良いと思うのだが、もしかすると作り方がわからないかも知れない。当然、僕もわからない。前世ではログハウスを見た事も泊まった事もあるが、作り方などわかろうはずもない。


 よく、異世界転生で前世の知識や新技術で無双しているのを読んだが、実際は存在は知っていても、それを実現するほど詳しくない。ネットで調べる事もできなければ、本すら無い。産まれてから書物を見た事すらない。文字は存在はしているようだが、皆が理解できているかは怪しい。少なくとも、我が家で文字どころか数字すら見た事がない。


 別に前世で手に職があった訳でもない。料理だって外食とコンビニとインスタント食品に頼っていた。むしろ、こちらで鶏や獣のさばき方を学んでいるくらいだ。


 どうも、父は昼間は山だか森だかに入って、獣を獲ってくるような仕事をしている。仲間が何人かおり、いつも三人から五人くらいで村を出ていた。夕方になると帰ってきて、兎や鹿、猪のような物を持ち帰ってくる。皮と肉に解体して持ってくる事もあれば、村で解体する事もある。


 この村の住人が何人いるか知らないし数えようとも思わないが、数えることができるくらい少ないと思う。食糧は村人皆の資産らしく、村の真ん中に食糧庫と井戸があり、肉はそこに保管している。無論、生だとすぐに腐ってしまうので塩漬けにしているようだ。山の中にある村にしては塩はそこまで貴重でもないらしく、どこからかやってくる商人から買ったり、山に岩塩が採れる場所があるそうだ。ただ、塩は肉の保管用に使われるためか、食卓に出てくるスープの味は薄い。


 村の産業は小さな農業と狩猟業、あと林業から成っていた。兄は僕より三歳くらい上で、大きくなったら父と同じく狩人になるみたいな話を聞いた。何か考えがあって父の後を継ごうというより、それしか職業を知らない感じだ。



 さて、兄が一〇歳になると父と一緒に狩りに出るようになった。この頃は僕も普通に話す事ができたし、多少大人びた事を言っても不審がられる事もない。夜に兄の武勇伝を食事中に聞かされても前世の記憶で処世術を知っているので概ね、兄の機嫌を損ねる事もなかった。


 その頃、僕は大人の手伝いをするようになり、獣をさばけるようになった。前世の記憶があるので大人の説明を理解しやすかったし、彼らは皆、親切でわかりやすく教えてくれた。他に祖父の家で皮をなめすようになった。祖父も昔は狩人だったが、現在は引退して村で革細工をしている。父が獲ってきた皮をなめし、革のかばんや水袋、馬具を作ったり直したりしている。僕は祖父をよく手伝い、簡単なかばんや袋なら作れるようになった。


 僕も兄と同じように一〇歳になると狩りに連れていかれるようになった。ただ、革細工の仕事の評判が良く、狩りに出かけるのは一週間の半分くらいだ。


 狩りだが斧や矢、獣を解体する時に使っているナイフ等は青銅でできた粗末な物だった。どうも、その青銅ですら金属製の道具は値段が高くて手に入れるのが難しいらしい。話によれば、それが鉄製となると、この村の人々が使えるような物ではないと教えられた。この世界の製鉄技術は未熟なのだろうか。異世界転生となるとミスリルからオリハルコンと言ったファンタジー金属が惜しげもなく使われているが、そういう訳でもないらしい。


 獲物は鹿や猪が主だが稀に厄介な相手と出くわす事がある。それは魔物と呼ばれており、姿は獣とあまり変わらない。鹿のような草食動物の魔物は存在しないそうで、狼や熊などの肉食動物や、猪のような雑食動物がなるそうだ。なお、雑食動物の場合、魔物になると肉食の割合が増えるとされている。


 魔物は魔素と呼ばれるものが体内に蓄積すると、それが魔石となり、その魔石を体内に宿していた獣を魔物と呼ぶ。最初この話を聞いた時、魔素が存在する事に驚いた。ようやく異世界転生らしい物が出てきたと小躍りしたくらいだ。いや、村の生活はそれほど退屈なものだったのだ。


 話によれば、ドラゴンのような強力な魔物も存在するそうだが、この辺りは猪、狼、熊くらいだ。狼や熊は魔物になりやすいため魔物化してないものは、この辺りでは見かけない。そもそも、魔物は同種の獣を駆逐していき、かつ、魔物として繁殖するため、その内魔物だけになるようだ。猪は雑食のためか魔物化した個体が駆逐するより、獣として繁殖する方が多いので存在しやすいと聞く。


 魔物化すると狂暴で能力が上がるが、肉は食用になるし、皮は獣よりも固かったり美しかったりして商品価値は高い。魔石も高く売れる。だから危険を犯して魔物を獲る事に意味はあるが、父たちはあまり無理をしようとしていない。この辺りは草食の獣が多く、生活のためなら危険を犯さずとも十分だからだ。



 今日は僕と父と兄、あとももう一人の四人で魔物熊を狩った。大収穫だ。僕の弓の腕は兄に負けないし、うまく父が囮となって倒す事ができた。僕たちは今日の収穫を喜び、足取りも軽く村に帰還した。


 村に入ると、


「よう、バル坊、大きいのを仕留めたな!」


 革製の長いローブを着た見慣れた老人が笑顔で僕たちを出迎えてくれた。

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