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第三章 表裏

 ハルと一緒に畑番に連れて行ってもらう。かっこいいからとハルから奪うように借りた装着型噴霧器で全身びしょぬれになり、泥団子造りに熱中し、雑草引きという名目でみみず取りをし、「これ、フォボスに似てるけど、食べられる?」をハルに聞いたらすさまじい形相で止められた。すっかり畑番に飽きてしまい、遊ぶものはないかなときょろきょろしていたら、林の向こうにヒトが歩いているのを見つけた。でも、つちのねの白い制服を着ていない。重たい物を持ち上げているように背中を反らしている。脳内レキシコンで「妊娠」という項目が自動的に開く。ああ、お腹に赤ちゃんがいるんだ。

「ねえ、あそこにヒトがいるよ。」

「どこに?私には見えないよ。」

「林の向こう。つちのねのヒトじゃないみたい。お腹が大きい女のヒトかなと思う。」

「ああ、時々いるんだよ。つちのねに入信したいけど、認められないってことが。妊娠中はだめなんだよ。」

「なんで?」

 ハルは口ごもった。

 改めて木々の間を透かすように見ると、女のヒトの足取りは重い。きっとお腹が重たいからだけではない。

「大丈夫かな、あのヒト。」

 私が駆け寄ろうとすると、ハルにがしっと腕を掴まれた。

「あんたが急に近寄っていったら、驚きと恐怖の衝撃で陣痛始まりかねないからやめときなっ。」

「ハル、失礼すぎるよ、その言い方。」

「ごめん。でもあのヒトにしてあげられることは私たちには何もない。」

「どういうこと?」

「えーっと……、つちのねは基本的に地属のヒトであればいつでも誰にでも門戸は開かれている。けど、妊娠中はつちのねに加わるための儀式、身固めの儀が受けられないんだよ。」

「身固めの儀?」

 脳内レキシコンによれば、身固めの儀とはいわゆる避妊手術であって生殖能力を失うと書いてある。

「神に身を捧げるからには、家族を作って子を成すというヒトとしての幸福は捨てますということを証明するんだよ。」

「ハルもしてるの?ナイジも?」

「もちろん、入信の時にね。ナイジは小さい頃に入信したから、12歳の時にね。12歳になるとこのままつちのねで暮らすか、つちのねを出ていくか自分で選ぶ。つちのねを選んだ場合は手術が必要なんだ。」

「あの歩いてたヒトは?」

「妊娠中は手術ができないからね。つちのねには入れないんだよ。子を生んでからも入信の決意が変わらなければまたくるだろうさ。」

「そっか。でも、お産の時って大変ってレキシコンには書いてあるよ。」

「そうだよ。あんな大きなお腹をして一人でここまで来るぐらいさ。きっとお産の時に頼るヒトがいないか、何か大変な状況であることは間違いない。望まなかった妊娠なのかもしれないし、もしかしたら……。」

「なに?」

 ハルはため息をつきながら

「鬼子、天属と地属の間に授かった子の可能性もある。鬼子を妊娠した場合は、呪われた子ってことで親族も助けてくれないしね。生まれてすぐに殺されたり、捨てられることがほとんどなんだよ。」

 鬼子という単語を聞くと、自分のことを言われているような気がして、足がその場で足踏みを始める。

「困ってるヒトがいるのに、つちのねは放っておくの?」

 目の端であのヒトが道を外れて、川に向かっていくのが見える。

「放っておいたら死んじゃうかもしれないのに?」

「わからない。でも、情けをかけることで却って苦しめることもあるからね。」

「ハルの言ってることって全然意味がわからない!」

 足踏みではもう抑えられない。私は走り出した。ハルが何か叫んでいるけど、わからない。

 林の中の木々を避けながら、足の裏で力いっぱい地面を蹴る。また蹴る。ずっと蹴る。膝がやすやすと上がる。もっと速く。左右の腕も思い切り振る。もっと速く。風音が耳に入ってきているはずなのに何も聞こえなくなる。もっと速く。身体を伏せながら走る。前足を地面につけて四つ足で走る。掌前面で地を受け止める。空気が青っぽくなって身体に密着する。昨日の夜お風呂に潜った時の感覚に似ている。駆ける。駆ける。とにかく速く。

 あのヒトが川に腰まで浸かっている。もっと深いところに進もうと足を出した途端、バランスを崩した。反射するきらきらした水に飲み込まれて、そのまま流されていく。もっと下流を目指して駆ける。


 丈鹿に乗ってつちのね本部に向かっていたガルフロンとセイガは、突然の足音に警戒し、丈鹿の手綱を引いた。丈鹿も油断なく辺りの臭いを嗅ぐように鼻先を鳴らしている。

 獣が躍り出た。

 一瞬の迷いの後に、ヒトであると思い直した。長いストールをたなびかせながら、踊るように駆け去って行った。

「なんですか、あれ……。」

 セイガがあっけにとられた表情で止まっていると、ガルフロンは勢いよく踵を返し、人影を追った。

 林の中を丈鹿で追う。幸い相手は姿を隠す気はなさそうだ。足音を頼りに追っていく。しかしとてつもなく速い。

 見えた。

 後姿が時折、木々の間から垣間見られる。なぜか四つ足で走っている。風の化身のようなそのすばやい身のこなしに

「美しい……。」とわれ知らず声が漏れる。時折、だまし絵のように現れる蔦をかいくぐりながら夢中で後を追う。

 突然、開けた土地に出た。慌てて手綱を引いて藪の中に戻り、周囲を警戒する。

 探していたヒトは、川の中からぐっしょりと重たそうな別のヒトを抱き上げ、ゆっくりと川岸に横たえていた。少し遅れて小柄な女性が追いかけてきた。

「ハル!早く来て!このヒト、死んじゃった?」

 小柄なヒトはぐったりとしたヒトの顔に触れた後、何か言ったようだったが、ここからではよく聞こえない。

 唐突にガルフロンは、藪から飛び出した。

「取り込み中のところ失礼する。我が名はガルフロンだ。病人を運ぶ手助けがいるか?」

 ヒト二人がすばやくこちらを向いた。その瞬間、ガルフロンは息を呑んだ。

 大柄なヒトの顔があるべき場所にヒトの顔はなかった。ただ野獣のように裂けた口と大きな二つの目玉がこちらを見ていた。

 次の瞬間、小さなヒトは慌てたように大柄な野獣の頭部にストールを巻きながら、何か呟いた後、こちらをもう一度振り向いて睨んだ。が、二度見するかのように何度も首を傾げた。

「王太子じゃないか。会合に来たんだったら、こっちじゃないです。道に迷ったんですか?塔へ案内しましょうか。」とハルはそそくさとガルフロンの乗る丈鹿のはみを取って、元来た道を戻るよう促した。その間にも、大柄なヒトは無言で病人を担ぎそそくさと走り去った。

「道に迷ってはいない。あの見事な走りを見せた彼の者は一体なんだ。ヒトか?」

「小難しい話は上のヒトとお願いします。私もちょっと急ぎますので、これで失礼します。塔はこの道です。」

 諦めたようにガルフロンは息をつくと、ハルが示した方に丈鹿の向きを変えた。

「そうだな、どうせこの後、彼の者について話さねばなるまい。しかし……、美しかった。」

 ハルは一瞬驚いたようにガルフロンの顔を見つめた。


 つちのねの敷地内の中央には円球状の塔が立つ。その塔の最上階にある広い部屋にガルフロンとセイガは通された。つちのねには王はいないが、すべてを支配しているのは聖ただ一人である。当然のように、正面にある王座のような大きな椅子の主は不在であった。

 椅子の傍にはローブで目元以外をすべて覆ったマブーユ司祭が立っていた。

「さあ、はるばる来ていただいた野蛮な国の王子の詫び言を聞かせていただきましょうか」

 ガルフロンは、さっとその場に膝をついて答えた。

「このたびは、つちのねの最高指導者である聖導師を、我が国の臣民がかどわかし、大変な恐怖と苦痛を与えてしまったことを切にお詫びいたします。犯人は既に捕縛し尋問している最中であります。このような事態を招いた原因を必ずや突き止め、同様の事件が二度と起こらぬよう対策を考えてまいります故、慈愛の心をもって、このお詫びを受け入れて頂くようお願い申し上げます。」

「それで?」

 マブーユ司祭の促しと同時に、ガルフロンはセイガに視線をやった。

 セイガが革袋に入ったずっしりとした布袋をささげ持ち、王座の下へ静かに置いた。

「天の一族の真心、確かに頂戴いたした。ガルフロン王太子は、まことに話の早いお方でこちらも助かる。」

 マブーユ司祭は手を振り、ガルフロン達に下がって良いと合図した。ガルフロンは短い息をついた。マブーユ司祭に促された下僕がその布袋に近寄ろうとする前に、セイガは再びその布袋に足をかけ、周囲を威圧した。

「な、何をする。その金貨はもうつちのねのものじゃ。」

「その通り、こちらの真心を受け入れて頂き恐縮至極です。ただ、聖の誘拐事件という重大な状況に陥ったにも関わらず、つちのねはすぐに聖を奪還しました。しかも、我が天属の助けもなしに。その見事な手腕に心から驚いているのです。それを指揮された将軍にぜひともお目にかかりたい。さぞ見事な部隊を率いているのでしょう。ぜひご拝謁させていただき、我が国王にもその御高名を奏上したいと考えております。」

 挑戦的に顎を挙げて言い放ったガルフロンに対し、マブーユ司祭は一、二歩後ずさった。

「聖奪還の詳細については、極秘事項である。そもそも聖を誘拐したのは天属の野蛮な輩であることを忘れたかっ。」

「誘拐についてはたった今陳謝し、真心を受け入れて頂いたばかりだ。したがって、立場は公平であると認識している。」

 にやり、とガルフロンは笑いながら付け加えた。

「聞けば、奪還の立役者はヒトではなく野獣だったとのこと。野獣がつちのねの将軍なのか?」

 確か野獣の飼育許可願は提出されていなかったな、と嘯く。

 マブーユ司祭はガルフロンが口角を上げる度にぞくぞくっと悪寒がすることに気付いた。マブーユ司祭よりも一段低い位置に立っているというのに、上背がある上に背筋が伸びていてこちらを見下ろしているかのようだ。抜き身の刀のようにこちらを窺うセイガの存在も目ざわりだ。

「野獣については何も言えない。」

「そうか。野獣がこのつちのねの内部に存在するってことまでは認めるわけだな。」

 ガルフロンはマブーユ司祭の顔を眺めたが、司祭は眉をしかめたまま、口をつぐんだ。

「そうだな。黙っておくのが最良の選択だろうな。ただし、国王に刃向かうような武力をつちのねが持つことは認められていないはずだ。こちらとしても謀反の火種を見逃すわけにもいかないのは御理解いただけるはずだ。」

 マブーユ司祭はしかめつらのまま

「つちのねに反逆の意思はない。」と低い声で言った。

「意思が『ないことを証明する』ことは悪魔の証明だな。相分かった。では、ここにはもう用はない。」

 ガルフロンがセイガに目で合図すると、セイガは布袋を再び持ち上げて去ろうとした。

「それは、聖誘拐の謝罪金だ。そちらに持っていく権利はない。」

 思わずと言った調子でマブーユ司祭は声を上げた。

「誘拐に天属が関わったことについて謝罪はした。しかし、つちのねの聖について、天属のほぼすべての国民は姿を見たこともない。聖の誘拐なんてことは、行動予定や護衛の様子等、つちのねの中でも限られた人物しか知らないような情報がなければ、きっと成功しない。天属のしょぼい悪党だけではきっと不可能だ。」

 マブーユ司祭は諦めたように呟いた。

「つちのねの内部に内通者がいると?」

「あるいは、誘拐事件の黒幕はつちのねそのものの可能性もある。」

「それは断じて違う。つちのねは聖を誘拐されれば何のメリットもない。」

「組織としてのメリットは確かにない。ただ、各個人の立場になれば違うかもしれん。痛くもない腹を探られるのが嫌なら真相究明に力を貸してもらいたい。」

「断る。」

「原因を追及することが、聖誘拐の再発を防ぐ唯一の手だてだと思うが。」

「それでも、だめだ。」

「そうか。残念だが仕方ない。交渉決裂だ。では協力援助費は回収するしかないな。」

 セイガに、行くぞと声をかけた。

 その時、扉が急に開き、男が一人闖入してきた。その男は、司祭とは対照的に頭部に帽子や巻物の一切を巻いていなかった。マブーユ司祭がこれまでの鬱憤を晴らすように叱責した。

「ハバータ、お主に王太子との謁見の許可は出していないぞ。」

「許可は出てる。聖からな。」

「嘘をつくのもいい加減にしろ。」

「嘘かどうか、聖に確認してこいよ。」 

 援護射撃が必要だろ、とハバータはマブーユ司祭の横で囁いた。マブーユ司祭は憎々しげに黙った。

「王太子、噂通りの切れ者だな。私はつちのねの研究所長のハバータだ。うちの可愛い子猫がお世話になったみたいで、どうもな。」

「子猫?化け猫の間違いだろう?ヒトよりも遥かにでかかったぞ。」

 ハバータはハルからガルフロンがトラコと既に邂逅したことを聞いていた。

「あれは俺の可愛い子どもでね。俺はヒトの役に立つ新しい生き物を作ることを研究している。トラコはまだ研究段階だが、力仕事を担う相棒として開発している。地属のヒトはあなた方のように残念ながら体躯に恵まれていないのでね。」

「昨日は聖奪還という軍事作戦に利用したようだが?貴殿の言う『力仕事』には武力的な行為も含まれていると解釈して良いな?」

「いいや。トラコは今まで培養液の中で生育していたんだが、昨日やっと月が満ちて外に出してやることができてね。言ってみれば昨日が誕生日そのものというわけだ。いやー、しかしちょっと目を離したすきに逃げだしてしまってね。聖について崇め敬うべき者というプログラミングをしていたせいで、一人で探しに行ってしまったらしい。その監督不行き届きについては謝罪するしかないな。本当に申し訳なかった。」

「指揮系統に従えない勝手な武力行為を行う生き物は、謀反の芽と見なさざるを得ない。」

「いやー、きついな。昨日生まれたばっかりだから、これから教育するんだって。赤ん坊のしたことだと思って見逃してくれないか?それに、あいつは一人も殺していないはずだぜ?」

「部下二人は無傷だ。しかし、誘拐の首謀者は、血まみれの右腕だけ残して行方不明だ。」

「あいつが首謀者を殺したという証拠もないはずだ。」

 ハバータはにやりとした。

「しかし、嫌疑が晴れたというわけでもあるまい。」

 ハバータは芝居がかったような態度で宙をにらんだ。

「確か、誘拐は親告罪だったな。被害者側が告訴しなければ捜査の必要もないはずだ。聖誘拐事件は既に解決したから、もうそれで捜査は打ち切りだ。うちのトラコについては、誘拐の首謀者の殺人容疑があるかもしれないが、罪人が一人殺された程度で王太子自らが調査なんてする必要ないだろう。せいぜい治安維持隊のちゃちな捜査だろう。王太子がいくら望んだところで、国王による調査許可はおそらく下りないだろうな。」

 ガルフロンはむっとしたように口を曲げているが、ハバータは気に留めずに続けた。

「うちは聖の行動予定とトラコの行動を管理できていなかった落ち度がある。が、しかし、この誘拐事件は天属の輩が聖を誘拐してしまったことが引き金だ。今日のところは痛み分けということでどうだ。」

 と言いながら、ハバータは右手をガルフロンの目の前にかざし、握りこぶしを作った。

「金貨ひとつかみ、で話をつけよう。その代わり、トラコの教育状況については後に天属に報告する約束する。」

「いいだろう。」

 ガルフロンはセイガに目をやった。セイガは革袋の紐をほどき、ハバータの前に差し出した。ハバータは「俺はけっこう手は大きい方なんだぜ。」と軽口をたたきながら、金貨をひとつかみ握り取った。

 ガルフロンとセイガの去り際、カーンと高い音が鳴り、どこからか金貨が滑り落ちた。ハバータがすばやく拾い、ガルフロンに差し出した。

「どこかに引っかかっていたんだろうな。ほら。」

「今更一枚くらいどうでもよい。そなたが持っていけ。」

「俺はひとつかみしか約束してないぜ。それ以上に受け取れば約束以上の報酬を用意しなくちゃならない。」とハバータはガルフロンに金貨を差し出したまま動こうとしない。

「わかった。」とガルフロンは受け取り、衣服のポケットに入れた。


 帰りの鹿上で、ガルフロンは先ほどハバータから受け取った金貨の裏を眺めた。

「トラコについて知りたければ、明朝、日が昇る前に天属の対獣防御対策室へ。」と書かれた小さな紙が貼ってある。

「あのハバータって奴の手見ましたか?」セイガが言った。

「ああ。指輪の位置が、あの腕と一緒だったな。」

 中指と人差し指に銀色の太い指輪が一つずつ。血まみれの切断された右腕がまた脳裏の中に浮かんできて、ガルフロンは途端にうっと息をつめた。

「誘拐の首謀者はあいつだったってことですか?あれ、でも今日は両腕とも体についてましたね。偽物の腕だったのか?」

「まだ確定はできないが、誘拐事件にもハバータが関わっている可能性は高い。わざと俺の目の前に手を出して指輪を見せつけていたしな。」

「その誘いの紙も怪しさの極みですね。罠でしょうか。」

「かもな。しかし……。」

「行くしかないですよねー。他に手がかりないですもんねー。」

「そのにやけ面をやめろ。」


 ☆

「トラコ、ヒトは拾ってきちゃだめだぞ。意識が戻ったら元いたところに返してこなきゃだめだからな。」と妙にしかつめらしく言いながも、ハバータは気を失ったままの例の妊婦の様子を見てくれている。

「はあい。」と私は口では返事をしておく。でも、このヒト、川に返してきたらまた同じことになるだけだと思う。何も手伝えることがないので、手でも握っていてあげようと思ったんだけど、ナイジに「目を開けてトラコの顔があったら絶対失神するから、やめとけ。」と止められた。ので、部屋の隅で座っている。

「ハバータさん、出血してきました。」

 白衣に着替えたハルが落ち着いた声音で報告する。

「あちゃあ。出さないとだめかもなー。母子共に心拍も下がってるしな。」

「腹のせり出し方からすると7、8か月ってとこですかね。やっぱ外じゃなくて、培養液ですか。」

 ナイジが白衣を腕まくりしながら確認する。

「念のためその方がいいな。空きはあるよな?」

「トラコが使ってた培養管が空いてるはずです。消毒確認して、準備しておきます。」

 ナイジは別室にすたすたと歩いて行った。

「さあ、トラコは邪魔だ。出ていきな。」

「あのヒト、助かる?」

 ハバータに扉の向こうに押し出されながら、私は首を回してハバータの表情を読みとろうとする。

「さあな。最善は尽くすさ。この天才が手術してだめなら、誰がやってもだめさ。」

 ハバータは自信満々に言い放って、扉が閉まった。


 ☆

 対獣防御対策室は、その名の通り、ザーレ来襲のための対策を立てるための天属の研究室である。王宮直属の機関であるが、前回のザーレ来襲から年数を経る度に危機感が減少していくためか、近年研究予算がつきにくくなっている。したがって建物は老朽化して壁にひびが入っており、一見したところ寂れた喫茶店のような様相を呈している。夜明け前で薄暗い中で見ると、化け物でも潜んでいそうな雰囲気である。ガルフロンもセイガもここに足を踏み入れるのは初めてであった。

「さあ、鬼が出るか、蛇が出るか。楽しみですね。」

「セイガ、王の許可なくこの研究室に立ち入ることは禁じられているぞ。」

「そうですね。だからわくわくします。」

 ガルフロンはため息をついた後、そっと扉を回した。途端、

「よっ!今か今かと待ちかねたぞ。さあ早く入った入った!」

 威勢の良い声に出迎えられた。

「お前、なんでここにいる?」

 さすがのガルフロンとセイガもぎょっとした。得意気な表情で待っていたのはハバータだった。

「俺は正真正銘、王宮直属の対獣防御対策室の室長ハバータだ。昨日はお互い御苦労だったな!」

「そのナリで天属なのか。」

 セイガが遠慮なくハバータの全身を見ながら言った。天属にしてはハバータの身長は低く、筋肉も薄い。

「書類上は天属だ。俺の母は天属だからな。ただし、俺の血縁上の父は地属だった。」

「……鬼子か。」

 セイガが思わずぽろっとこぼした。ガルフロンはセイガを軽く睨んでたしなめる。

二重(だぶ)()と呼んでもらいたいね。」

「二重血の存在で、よくこの室長に抜擢されたな。」

「身体能力のわりに、知的な能力には秀でていたからな。でも、さすがに何のコネも持たない俺が権力を持つためにはまあ何でもやったさ。いろいろな。しかも、今の国王は、ザーレ来襲への危機感が薄いから室長がどんな素状でもかまわなかったんだろう。この研究室自体がほぼ忘れられた存在だ。」

 確かにガルフロンも今までこの研究室があることを意識したこともなかった。

「二重血であることを生かして、つちのねにも入り込んでいるのか。一体、お前は王宮とつちのねのどっちの味方なのだ。」

「俺は俺の味方だ。やりたいことをやる。」

「天属と地属のどちらの味方でもない、ということだな。」

「まあ、用件を聞けよ。結論を急ぐな。」

 ハバータは説明を始めようとガルフロン達に向き直った。と、ガルフロンの後ろに控えながら強い眼で睨みを利かせるセイガに目が止まった。

「よく見ると整った顔だちだな。そのお連れ。」

「私の侍従セイガだ。」

「よく顔を見せてくれ。」

 ハバータはつかつかと距離を詰め、自分より頭二つ分ほど高い位置にあるセイガの顔を、その束ねた髪を引っ張ることで自分の顔に引き寄せた。

「なんなんですか、このヒト。刺してもいいですか?」

 顔を苦痛に歪めながらハバータの手を振りどこうとするセイガを、ガルフロンは目で制す。ハバータは二人のやりとりを意に介さず、舌舐めずりをしながらセイガの顔を見つめる。

「この体格とこの顔立ち。声もいい。イイ、イイな。なあ、お前の精子くれ。」

 さすがのガルフロンも道端に落ちた犬の糞を踏んだかのような顔になった。

「……刺してもいいですよね?」というセイガのため息のような言葉に 

「用件が済んでからだ。」とのみ返す。

 もちろん無料ではないぞと言いながら、ハバータはセイガの股間に手をやろうとしたが、さすがにセイガに振り払われた。即座にガルフロンがさりげなく自分の背後に庇ってやる。

「王太子様も男前ではあるんだが、ちょっと顔が濃いのが難点だな。」

 ハバータはガルフロンの顎の下から遠慮なく顔を眺めまわす。

「我々には顔の品評の他に、話すべきことがあるはずだ。」

「せっかちだな。顔の品評も俺の研究テーマの一つだ。」

「早く用件を言え。」

 その時に部屋の隅の暗がりから、わらわらと全身白衣の老人が三人進み寄った。三名とも揃えたような白髪と足元まで届くような白髭である。

「研究所にお客様とは。」

「これは珍しい。」

「いわゆる珍客ですな。」

 小人三人に囲まれるような形になったセイガが悪態をつく。

「次から次へと何ですか。ここはお化け屋敷ですか。」

「ここの研究員だ。左から順にイチ、ニイ、サンだ。一時は1000人以上がいたが次々に辞めさせられてな。今は他に働き場所のないこのおいぼれ達だけが残っている。」

「まさかまさか。」

「わし達がおいぼれじゃて。」

「おいぼれ扱いもせず、さんざんこき使うくせによく言うわ。」

 イチとニイとサンは示し合わせているように順に話すらしい。

「まあ、俺がいない間もこの三人がしっかりこの研究所を回してくれてるおかげで、俺は好き勝手できるというわけだな。さあ、ここからが本題だ。イチ、ニイ、サン、頼むぞ。俺はちょっとこいつを借りていく。」

 ハバータはセイガの腕を引いて研究所の奥に進んでいく。

「いざとなったら殺していいですよね?」

 というセイガの言葉に、セイガが本気になればハバータの腕くらい軽く振りほどけることを知っているガルフロンは頷いておく。

 イチ、ニイ、サンはガルフロンを取り囲むようにして語り出した。

「王太子殿、これから話すのはこの王国の存亡をかけた話じゃ。」

「ザーレ来襲じゃ。」

「その時は近い。」

 ガルフロンは冷たい汗が流れるのを感じた。


 イチ、ニイ、サンが口ぐちに話した内容は以下のとおりだった。

 前回のザーレが来襲したのは62年前、現在の国王の父、すなわちガルフロンの祖父が王位に就いていた時期である。さらに遡れば96年前にもザーレが来襲しており、その時の被害は甚大で、天属は人口の三分の二、地属は人口の半分を失った。その96年前のザーレ来襲のことを「赤い月の血の海」と呼ぶ。ザーレ来襲時、天には赤い月が昇り、地は襲われたヒトの血で赤く染まっていたからだという。「赤い月の血の海」の要因の一つはザーレ来襲を予測できずに避難が遅れたことが大惨事の原因であったため、この研究所でザーレ来襲の予測について方策が練られた。そして、多くの仮説が唱えられたが、ある一つの仮説が有力となった。それは、この国を守る防御シールドの存在である。防御シールドが正しく働いている間は異世界からの侵入者であるザーレは侵入してこない。しかし、防御シールドが弱くなってくると、ザーレが侵入してくるという仕組みである。さらに、防御シールドの強度は、国の人口に反比例していることがわかった。そのため、国王は国家人口を一定に保つ政策を執った。

「首狩りの儀式か……。」

 ガルフロンは呟いた。確かに成人を迎える天属の青年が3名の年長者を殺せば、武力に劣る戦闘員を間引くと共に、人口増加も防ぐことが可能だ。

「それだけではないぞ。」

「地属にも人口増加を抑える措置が必要だ。」

「つちのねには首狩りの儀はないぞ。」

 イチとニイの説明にガルフロンが思わず口を挟んでしまったところ、しわだらけの人差し指を突き出しながらサンが睨んだ。

「つちのねの身固めの儀もじゃ。」

 入信の際に不妊手術を施しておけば、つちのね内部で赤子が生まれることはなく、人口増加を防ぐことができる。

「天属の首狩りの儀式と、つちのねの身固めの儀は、防御シールドの強度を保つための策だったということか。ずっと昔からの伝統儀式かと思っていた。」

 ガルフロンは頬が火照ってくるのと同時に、額に冷たい汗が浮かぶのを感じた。

「つちのねの成立は今からほんの20年ほど前じゃしな。一方、首狩りの儀式の一番古い記録は59年前である。」イチが言う。

「70代以上であれば成人儀礼として首狩りの儀式を行っていないということだな?」

「その通り。しかし、天属で70代以上というのは……。」ニイがにやりと笑う。

「既に首狩りの儀式の犠牲者として殺されている。ほとんどいないということか。」

「その例外がわしらじゃ。」サンがふぉっふぉっと笑う。

「なぜ殺されないんだ?」ガルフロンの問いかけに対し、イチ、ニイ、サンは例のふぉっ、ふぉっ、ふぉっという長老然とした笑いを漏らすだけで何も言わない。

 ガルフロンは話題を替えた。

「つちのねの身固めの儀はどうして始まったんだ?人口増加とザーレ来襲が関連していることはこの研究所の関係者しか知らないはずだろう?……あいつか。」

「ハバータはつちのねの成立初期から関わっている。」

「つちのねに入信し、つちのね内部で生活している地属は約1万人。入信していない地属の方が5倍以上多い。」

「しかし、入信していない地属の婚姻は、その地属を『飼育する』天属の許可がいる。」

 サンは、「飼育する」をねっとりと発音しながら言った。

「飼育ではないぞ。地属は天属の奴隷ではない。」

 ガルフロンは王太子という立場である手前、奴隷制度を認めることはできない。

「とにかく、身元引受人の天属の許可がなければ地属は婚姻も出産も事実上は不可能である。」生真面目にイチは説明する。

「したがってこの60年ほどの間、人口は微増しているが防御シールドにはほぼ影響のない程度であった。」当然のようにニイとサンが説明を引き継ぐ。

「しかし、数年前から防御シールドが急激に薄くなっていることが分かった。」

「つまり、人口とは関係なく防御シールドが薄くなっていて、もうすぐザーレが侵入する可能性が高いってことか。原因はなんだ?」

 イチは鼻で笑った。

「原因がわかっておれば、こんなところで手をこまねいてはおらんわ。」

「今は原因を探りながら、来るべき来襲に備えているところじゃ。」

「おそらく次の来襲は避けられまい。」

 ガルフロンの頭の中に、巨大な怪鳥の群れが逃げまどうヒトを手当たり次第に食い散らす光景がよぎる。怪鳥がやすやすとヒトの頭部や腕を咬みちぎり、血しぶきと肉片や舞い散る。右の頭部が猛烈に痒くなってきた。

「俺にも来襲の対策を執れ、と言いたいんだな?」

 がしがしと頭をかきながら、妄想を振り払おうとガルフロンは強い口調で言った。

「まあ、一応正解じゃな。」

「どうすればよいと聞かなかった点は及第点じゃな。」

「対策がまだ具体的じゃない点はまだまだ甘いのう。」

 イチ、ニイ、サンは口ぐちに勝手にガルフロンの発言を論評する。

「しかし、なぜ王に言わない?」

「言ってないと思うか?」

 ガルフロンの背後から低い声が響いた。ハバータが近寄ってくる。その後ろにはやけにぐったりした様子のセイガがいた。

「セイガ、大丈夫か?」

 セイガが軽く頷いたのを見て、とりあえず心配は不要とガルフロンは話を再開する。

「王はお前達の話を信憑性が薄いと思っておられるということだな。」

「ちょっと違うな。王はこのままザーレ来襲が起こっても構わないと思っているらしい。」

 ガルフロンには思い当たることがある。

「治世のためか……。」

 一番近い過去でもザーレ来襲は62年前である。若い世代にとっては、ザーレ来襲自体が来るべき災厄であるという意識が薄い。今後本当に起こるのかと疑っている節もある。ザーレ来襲時、地属は撃退義務がなく優先的に生命が守られるという恩恵があってこそ、普段の生活では天属に従っているのに、ザーレが来襲しないとあっては何の恩恵もないと考える若い地属も多いと聞く。このままザーレが来襲しなければ、遅かれ早かれ地属から反旗が翻される可能性が高い。この国の治世転覆を狙った内乱が起こることを王は恐れているのだろう。

「おそらく王の希望通りにザーレは近いうちに襲ってくる。王は、次の来襲でたくさんヒトが死ねば、天属は地属に恩が売れるから治世も安定すると考えているんだろうな。まったく動く気配がない。しかし、今は、前回のザーレ来襲時に生きていた戦士はもうほぼいない。戦闘経験のない戦士だけの状態で、ザーレと戦うのはやばいぞ。下手したら『赤い月の血の海』以上の被害になる可能性もある。俺たちはこのまま手をこまねいているわけにはいかない。王太子と協力できないものかと考えて、今日お越しいただいたというわけだ。」

「聖の狂言誘拐まで起こしてか。あれの首謀者はお前なんだろう?」

「御名答。あの腕は合成獣を作る際の生ごみの一部だ。」と言いながら、ハバータは自分の右手をひらめかし、切断されていた遺体の腕についていた物と同じ指輪を見せびらかした。

「一応、王の直属機関なもので、王の許可なしには王太子にさえも研究成果を披露することはできないんだ。こちらから呼べない以上、王太子の方から出向いてもらう必要があった。謎の切断遺体と呪いをかけられたような血だらけの部屋、神出鬼没の合成獣、怪しげな金貨の呼出状とたっぷりエサを播いた甲斐があったな。」

「擬似餌にだまされた俺は、王の許可なく既に研究成果をたっぷり聞いてしまったというわけか。」

「王太子殿も十分に反逆罪で捕まるだけの罪状が集まったな。」

 ハバータはまったく悪びれずに言った。

「対ザーレの対抗策として作られたのが、あの化け猫です。トラコという名だそうです。」

 ガルフロンが口をへの字に曲げたのを見て取ったセイガが、口を挟んだ。ガルフロンはだまし討ちを嫌う。

「あの生き物は一体なんなんだ?合成獣と言っていたな。」

「前回のザーレ来襲時にザーレの胃袋の中にまだ消化未了の大型獣が残っていてな。体長が2メートル近くある、猫みたいなやつだ。」

「猫はそんなにでかくない。」

「だから、猫みたい、なやつだ。この世界にはいないが、異世界には猫科の大型獣がいるらしい。ものすごい戦闘能力だぞ。そいつの遺伝子とヒトの遺伝子を掛け合わせた。それがトラコだ。俺の最高傑作だな。今のところ順調に育っている。」

「つまり、お前は神から譲り受けた生命を自分の意のままに沿わせるのか。」

 ガルフロンは憤りを隠さなかったが、ハバータは冷たい表情で言った。

「神とは何を意味する言葉だ?俺は神を信じない。生命の倫理とか、神の意思の冒涜とか、そういう台詞は生憎聞き飽きてるんだ。トラコは今ここに存在している。存在していること自体が神への冒涜なら、神は俺に天罰でも何でも与えればいい。俺は美しく役に立つものを作り出したいだけだ。俺の意思でしたいと思ったことをする。ザーレ来襲でこの世界が滅ぶのは美しくない。だから、俺は防ぎたい、それだけだ。」

「王太子様、このハバータは変態的な考えの持ち主ですが、その腕は確かです。対ザーレの対策についてのみ協力関係を維持することは決して王国の利益を損なうことはないはずです。」

「セイガ、お前、この短時間で急にハバータ贔屓になったんだな。」

 セイガは少し頬を赤らめた。

「そんなことないです。現在の天属の戦闘力ではザーレに対抗することが難しい可能性があるという判断です。さっき、ちょっと試してみたんです。」

 ガルフロンは眉をしかめた。

「どういうことだ?」

「ザーレの死体から回収した遺伝子で、復元ザーレを作ってみたんだ。それで、そのきれいな兄ちゃんに試しに戦ってもらった。」

「結果は?」

「……1対1では全然歯が立ちません。さらにザーレが群れで襲ってきたらと思うと、ぞっとします。」

 道理でセイガが肩を落としているわけだとガルフロンは思った。

「王太子様達にはザーレ対策として、トラコと協力してザーレと戦う術を訓練してもらう。同時にザーレの戦力的な弱点を発見する必要もある。しばらく、つちのねに日参してくれ。」

「つちのねに?」

「そりゃそうだろう。トラコはつちのねから出られない。王には、化け猫の調査目的でつちのねを極秘に探るとでも報告しておけばいい。まあトラコの行動調査という名目は別に間違ってはいないしな。」

「俺は、まだ協力すると決めたわけではないぞ。」

「判断を保留しておく間もザーレ来襲の時は近付いている。とりあえず、できることはやっておくのが最善だと思うぞ。協力しないと決断した場合はその時点で降りればいい。」

「いいだろう。」

 研究室を出てから、ガルフロンはセイガに命じた。

「このまま書架に行け。ザーレ来襲の記録、首狩りの儀、身固めの儀について精査しろ。おじい様の王座の時の書類を片っ端から当たれ。」

「さっきの話の裏を取ればいいんですね。記録の改ざんの可能性も疑ってみます。」

「頼む。記録は厳重に保管されているはずだ。閲覧にはおそらく王の許可がいる。」

「でしょうね。まあなんとかします。」

「ところで……、精液は取られたのか?」

 ガルフロンは広い肩を多少すくめるようにして小声で尋ねた。

「まさか!ザーレがたくさん入った水槽を見せられて、俺様スゲーだろって自慢話を聞かされた後、檻の中に入れられてザーレと戦えってけしかけられただけですよ。」

「ザーレに全然歯が立たなかったってことは逃げてきたのか。」

「時には逃亡もやむを得ない選択です。」

「ふむ。セイガでも逃亡するとなると、戦士達にも戦力の強化が必要だな。訓練の内容も実践的な物に変更していかなくては。セイガも実際の戦った印象で必要な能力強化点を挙げてくれ。」

「王太子様、実はやる気ですよね。」

「ザーレに対抗する必要があるという点はハバータの言うとおりだ。あの神をも畏れない自意識過剰な態度が鼻につくというだけで、主張としては頷ける。」

「あのヒト、天才だと思います。変態ですけど。」

「セイガ、妙にハバータの肩を持つな。何か変な薬でも盛られたんじゃないか。大丈夫か?」

「大丈夫ですってば。」

 セイガは慌てて走り去った。


 ガルフロンは今日は腹の探り合いばかりだと内心ぼやきながらも、国王への報告を済ませた。つちのねが極秘で天属への反抗的勢力を育成しているという噂を報告し、それを探る必要を説明した。

「おそらく聖誘拐事件を短時間で解決したのも、つちのねの反抗勢力によるものと考えますが、その実態は不明です。」

「天属の支配を危うくするような勢力を持つことだけで既に重大な犯罪である。強権力の投入が必要と考えるが。」

()の勢力の全容が不明であります。完全に根絶やしにするためには、事前に反抗勢力の戦力程度を事前に把握しておくことが早道かと。」

「一理あるな。いいだろう。早急に戦力を把握し、殲滅しろ。戦力把握に時間がかかって、実際に反抗されてみろ。それをきっかけに各地で反旗が翻るきっかけになりかねん。しかし、困難を覆す力を持ってこその国王だ。己の器量を試す良い機会となるだろう。」

 これは失敗すれば殺す、と言っているのと同じだ、とガルフロンは思いながら平静を装って答える。

「承知いたしました。」


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