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異邦人少女と狼さん  作者: 3凸 もふりる Lv.91 可愛い属性
1/2

⒈斎宮涼音は死亡する

 どうもこんにちは。

たくさんある作品の中からこの小説を選んでいただきまして嬉しいです!


 よろしくお願いします!


2021 7/12

キーワードの方に異世界転移を入れ忘れてました。

すいません。(誰も損しない気がする)


2021 7/15

内容をいろいろな問題で変更しました。

これからもよろしく!

ブクマ1件目ありがとうございます!

『昨夜午前二時半ごろ、東京都練馬区で』


 テレビはそこで止まっている。消えているのではない。フリーズしているのだ。

それと同時に、動くことのないテレビをただただじっと眺めていた少女はゆっくりと立ち上がる。


 カチャリ、と音がした、彼女は机の上に置いてあった銃をホルスターに入れる。

きっと、助けはこない。わかり切った答えを前に、彼女は歩みを進める。


 この世界で自分を守れるのは自分だけであって、他人はそれを後押しするか邪魔するか。その二択。

だから、自分で行動して、自分で殺して、自分で生き抜く。


 こっちの世界に来てまだ一日目だ。


 問題は大きく分けて三つ。

一つ目は食料。家ごと飛ばされたとはいえ、元より一人暮らしで基本コンビニ食であった彼女の冷蔵庫に入っているものは本当に少ないからだ。


 二つ目は趣味で買っておいた銃の残弾。これはまあ当たり前としか言いようがない上、銃刀法違反的な問題もあったため、日本で弾を買えなかったのが悪いとしか言いようがない。

それにこっちの世界にこう言ったものがあるのかわからない。


 銃弾が尽きれば撃退する術がなくなってしまう。強いて言っても包丁とかフライパンとかしかない。そんなものでこの世界を生き残れるわけがない。包丁ならばまだマシかもしれない。


 最後に彼女自身の問題でもあるが、先天性の心疾患とアスペルガー症候群。

別に彼女はイメージ力がないわけではない。むしろ逆で、発想力はものすごく高い。が、残念ながらそれを為そうとする状況に陥らなければ行動ができない。


 自発的に行動するのが苦手、とでもいえばいいだろうか?


 が、ここに来てすぐ、彼女は左腕と右目を失い、壊れた。

いや、吹っ切れたというべきか。



▲▷▼◁



 普段通り家で過ごしていた彼女は、突然の地震のような大きな振動で驚き、外に出た。

そこはいうまでもなく、見たこともない未知の世界。


 その時であった。


 彼女の過敏な感覚が、反射神経に影響し、後ろに飛び去った。

そこに日本ではありえないような巨大な、それこそ二メートル以上ありそうな犬のような生物がいた。口の端からはよだれが垂れていた。


 腹を空かした肉食獣、そう察した彼女は、銃のある自室まで走り出した。

攻撃を外したことで発生した痛みに気を取られていた犬モドキはそれに気づき、その後を追う。


 容易に仕留めることができるとわかったからか、犬モドキはゆっくりと歩いている。

それでも先天精神疾患を抱えている彼女からすれば十分に速く感じれた。元々全力走るなど不可能で、せいぜい瞬間的な動きでしかできないのだ。


 瞬間的な動きでも、連発すれば、それこそ三回連続でやればすぐに倒れる。


 本来は歩くだけでも苦しかったのだが、そこは肺活量の上昇や先天精神疾患がある程度治ったことでできるようになった。その集大成が瞬間的な動き、なのだ。


 ちなみに回避や受け身は結構余裕でできる。


 と。

我慢の限界に達したのか、犬モドキが走り出し、彼女に噛みつこうと迫っていた。


 それに気づき、人間の反射か。

左腕から後ろに振り向いたせいで、そのまま左腕に噛み付かれ、前足で脇腹と頭を押され、引きちぎられる。


 犬モドキが彼女の左腕をパキパキと食べることに夢中になっているうちに、彼女はよろよろと残っている右腕立ち上がり、痛む首の関節と脇腹の痛みを抑え込みながら、声すら出さずに階段を登る。


 脇腹の衝撃で内臓が破裂しなかったのが強いてもの救いだった。

破裂していればその時点で逃げることすら諦め、死んでいた。


 痛みで見開かれた彼女の目からは、涙が絶え間なく流れていた。わずかに赤く染まっていたのは、目の血管が先ほどの衝撃で一部千切れたからか。


 と。

そこでバランス感覚があやふやになり、その上視界が狭まっていることに気づいた。


 うまく左が見えない。


 なぜ?


 嫌だ、という思考が彼女の脳裏を何度もよぎる。

そっと。左目があるはずの自分の顔の左側に触れる。ずぷり、という水っぽい泥に指を突っ込んだような感覚が襲いかかり、指を抜き、そして彼女の視界に映ったのは、赤黒い液体で染まった自分の指であった。


 そう、先ほど掴まれた時、彼女は目を潰されていたのだ。

しかし、左腕を無理やり引きちぎられた痛みで感覚が左肩の方に集中したからか、痛みを感じることもなく、興奮状態で視界が狭まっていることに素早く気づけなかったのだ。


 大丈夫、自室に行けば包帯がある。


 ピチャピチャと左肩から垂れる液体は、時折ゴポリと一気に吹き出すことがあった。

すでに貧血状態になっていてもおかしくないはずなのに、彼女はまだ余裕であった。


 この訳のわからない状態に因果が存在したからか。

どれが正解かは今の彼女では突き止めることも、それを考えようとすることすらできない。


 止血薬と包帯、銃をとるために階段を上りおえすぐそこにある自室へと転げ込む。

左肩がわずかに擦れて激痛が迸るが、今となってはさっき左目を触った痛みよりも、左腕を引きちぎられた痛みよりも軽い。


 机の上に無防備に置かれている、いや、飾られているというべきか、銃を手にとり、素早く残弾を確認する。


ウェザビー・マークⅤ

  460.ウェザビーマグナム

   残弾:78

グロック17

  9mm弾

残弾:69


 パッと見ただけでも思い出せるのは、やはりアスペルガーの影響か。


 ミシ、という音を立てながら階段を登ってくる犬モドキが入ってくる前にグロック17を右手に、彼女はドアへ向け、その鼻が見えた瞬間、トリガーを引いていた。


『ヒャインッッッ‼︎‼︎‼︎⁉︎』


 まるで蹴られた犬かのような声を上げて、犬モドキが倒れる。

倒れても彼女が銃を打ち止めることはなかった。近づきながら、一定間隔で一発、二発と撃っていき、目の前まで来て、ようやく撃つのをやめた。


 彼女の顔に写っていたのは、笑顔だった。

ちょっと笑っているくらいとはいえ、その笑顔は狂気じみていた。きっと彼女は微笑んだ程度だったのだろうが、十分、笑っていた。


 涙は枯れ、彼女の目から流れていたのはさながら血の涙とでも言ったものだろうか。

左目に至ってはすでにモザイクでも入りそうなほどに出血している。




 この時、彼女、斎宮涼音は、壊れた。



 ▲▷▼◁




 少したち、落ち着いた頃に彼女は一度、自分の状態を頭の中で想像した。

左目には包帯をし、左肩にも慣れていないせいか少し乱雑な巻き方ではあるが、包帯が巻かれている。


 服は新しいものに着替え、グロック17をホルスターに、肩掛けのあるウェザビー・マークⅤはそのまま肩にかけられている。

さながら私服で戦場に赴こうとしている兵士のようだ。負傷兵だが。


 篭城とはいえ、常に警戒しなくてはならない。

しかし、食料を得るために早めに街を見つけなければならない。そうしなければ彼女とて死んでしまう。


 どんな世界であろうと、ハイリスク・ハイリターンは当たり前。

例外なんていない、勇者とて危険を侵すから魔王を倒せるようなものなのだ。


 だから。


「…………」


 無言で、閉じられたドアに向かって発砲する。無論、グロック17ではない。

ウェザビーマークⅤの方だ。その威力は段違い。実質世界最強の威力と言われるウェザビーマグナムを装填しているのだから。


 そこにいたのは犬モドキの群れ。


 しかし、彼女には絶望も、生へすがろうとする生存欲も、傲慢も何もなかった。

ただ、生き抜くためだけに、ウェザビー・マークⅤを構え、うち、装填してはうち、それを繰り返すだけ。


 これは、生態系ピラミッド、自然の摂理だから。


 ダンッ、という音で、半壊の扉が壊され、中に犬モドキが一匹ずつ入ってくる。が、残念ながら中は廊下となっている。まっすぐ向かってくる犬モドキを的確に撃ち殺すだけ。ましてや二匹同時に入れるスペースなどない。二匹が入ってきたとしてもそれは一直線上に並んだ状態で、ということになる。一発打てば貫通する。

これが篭城の基本だが、知恵ある生物なら壁を破壊して入ってくるかもしれない。


 そう思ってか、彼女は耳をそば立て続け、何か異常がないかを聞き分け続ける。


 クルリと銃を一回転させ、素早く弾倉を入れ替える。

銃で周りを楽しませるために覚えておいた技が、ここに来てこんな風に功をなすとは、誰も予想していなかっただろう。


 着替えたばかりの白い白衣のようなオーバーコートと、その下にきた灰と白の縞柄の服に、金髪の彼女は、さながら銃を構えた天使のような姿であった。


 弾を外せば素早くグロック17を抜き、自動拳銃の特徴である連射で撃ち殺す。


 彼女はゆっくりと、それでいて明確に、犬モドキの群れを殲滅して行った。

少しすると、外に残っていた犬モドキが逃げ出そうとし始めた。


 もちろん、そんなことをすれば仲間を増やしてまたやってくるかもしれない。

ならばこそ、ここで殲滅する。こんな思考回路を持っているということは、彼女は完璧に壊れてしまったのだろう。斎宮涼音ならば、見逃したはずだ。


 逃げ出した獲物ほど怖くないものはない。

射程圏内ギリギリに近いやつから順番に、的確に殺す。


 彼女にゲーム経験などと言ったものは皆無だ。まずそも友達付き合いのない彼女にとって、ゲームなんてするだけ無駄なものだった。

それよりも知識を積み立て、将来に役立たせ、娯楽を少しばかりかじり、一つだけ熱心に行う趣味を決めているだけの生活を目指していたのだから。


 その趣味がこれでよかった、と思っているのか、思っていないのか。

彼女は壊れてしまったから。そんなことを考える脳は、もうないかもしれない。


 ふと。


 一匹の犬モドキが立ち止まり、遠吠えをした。

無論、そいつを優先的に殺すことはできない。


 なぜなら、それでもし、横からの襲撃をくらえば確実に今は終わる。

弾倉が、あと一発。弾は残っていようとも、装填中に襲われれば終わる。それをこいつは理解していたのか。


 しかし、なぜ遠吠えしたのか。


 遠吠えをした犬モドキ含め、全ての犬モドキ……遠吠えをしていたから、狼か……を殲滅し終えた。

その時であった。


 メキメキ、とさながらな誰でも来たかのように気がなぎ倒されていく。


 そして、そこにいたのは、緑と薄青に淡く光る風を纏った一匹の大きな狼であった。


 その狼は、犬モドキと違い、完全に狼然とした姿であった。

唸ることもなく、あろうことか、


『人間……いや、異邦の民よ。我が領地で暴れるのはよしてもらいたい』


 喋ったのだ。


 彼女にゲーム知識やら異世界知識がないので、お決まりの反応はしないが、まずそも壊れてしまった彼女が、今更そんなことで驚くとは思えなかった。


 彼女は至極冷静に、狼に話しかけるかどうかを素早く判断し、


「私は、襲われた」

『して?』

「自己防衛。身を守っただけ」

『逃げる者を殺すのが、防衛だと?』

「剣を持たざる者に振るう剣はない。一度剣を振るった者に向ける剣はある」

『なるほど。それはそうだな。ならば、こちらとて詫びと礼のひとつくらいはさせてもらおう。だが、暴れたことには変わりはなく、その上、異邦の民よ、貴様の言い分で考えるに、貴様自身、剣を振るった者になるのではないか? ならば、我が殺しても構わん、そういうことになるだろう?』


 しばし、彼女は考え、ゆっくりと、狼に向かって銃口を向けた。

狼はそれが何の行為かわからなかったのか、そのまま乾いた音とともにわずかに悶絶する。


『ぐぅ………っ‼︎⁉︎』


 急な発砲に怯んだが、すぐに体勢を立て直した巨狼は、彼女の目で追えるギリギリの速度で動いた。


 ザキン、という空気すら切り裂いているのか、彼女の知る世界ではありえないほどにはやく、そして巨大な爪が彼女の眼前を掠めた。

ハラハラと前髪が少し地面に落ちる。が、その近くに彼女はすでに立っていなかった。


『異邦の民よ、名は何と言う』

「知らない」


 壊れた彼女に、名前など、もうない。名乗っていい名前なのか、知らない。

斎宮涼音は一度死んだのだ。


 狼が話しかける間も、容赦無く発砲する。

狼はそれを意に介すこともなく、立っていた。


 グロック17の9mm弾では威力が不足しているようだった。


 グロック17を戻しつつ、ウェザビーマークⅤを構える。

弾倉を確認しつつ、狼に向かって向けるも、狼に動きがあった。


『異邦の民よ、貴様にアドヴェントという姓をやろう。名は……そうだな。レイチェル、とでも名乗ると良い。異邦の者ゆえ、こちらの文化はわからぬだろう? 下手に名乗ると、それだけで異邦の者と見抜かれるゆえな。レイチェル=アドヴェントと名乗るが良い』

「…………っ」


 奥歯を噛みしめつつ、その与えられた名を噛みしめつつ、彼女はゆっくりと銃口を下ろす。

精神が壊れ、再構築される。一度壊れた精神、それは斎宮涼音としての精神であり、レイチェル=アドヴェントとしての精神は、新しく作る以外に生み出す方法が存在しない。


 今、彼女は初めて『優しさ』というものに触れた。その果てしなき慈愛溢れる言葉に、初めて触れえた。彼女はどう感じたのか、疲れと恐怖と狂気で赤く染まり始めていた目からは、だんだんと白みが戻って行き、彼女は自然と口を動かした。


「信じても、いいの……?」

『信じる? 何を? 我はただ今は名すら無き貴様に新しく名を与えただけだ。異邦の民よ。もし、こちらへくると言うのであれば、それはそれで歓迎するぞ』

「……………」


 ウェザビー・マークⅤを肩にかけ、彼女は手を差し出す。

そこに手を乗っけるようにして、巨狼はその手を掴む。側から見れば巨狼は少女にお手をしていると言うシュールなシーンなのだが……。


 少女の目からは、自然と涙がこぼれ、地面に滴る。


『我が領地の者が無礼をしたようだが、この世は所詮弱肉強食。覚えておくと良い。貴様は生きるために殺したのではない』


 じゃあ何のために、そう言おうとした少女の頬をしたの先っちょでペロリと優しく舐め、巨狼は語る。


『この世の摂理に従っただけだ。もう一つ、これを覚えておいて欲しい。この世で盗賊に襲われようと、魔物に殺されようと、それは弱い奴が悪いのだ。力もないくせに外を出歩く、そいつがな。理解したか、異邦の民、いや、新しき住人よ』

「…………はい」


 そうか、と巨狼は一言言うと、そのまま小さくなる。

大体先ほどの犬モドキより多少大きいくらいだろうか、馬と同じくらいの大きさ、が一番しっくりくる。


『乗ると良い。人間の足は遅いと聞く』

「…………」


 レイチェルの目が見開かれる。

あれほど語っておいて、結局人間自体については全然知らなかったみたいだ。


『どうした? む、まさか人間は意外と速いのか? それとも、異邦の民はみな速いのか?』

「どっちも、違うと思う……」

『ならば乗ると良い』


 少し疲れ、そして呆れたようにレイチェルはそのまま巨狼のモフモフな背中に倒れ込んだ。


『ゆっくりと休むが良い』


 巨狼はレイチェル が眠りに落ちるまで、ゆっくり歩き、それでいて心地よく揺れるようにまで配慮し歩き、寝てからと言うものは一切の足音も、振動も与えずに、走り出していた。


 巨狼と言うとフェンリルや『原神』のアンドリアスを思い浮かべますねー。

今作の狼はアンドリアスに似ていますが、ちょっと違うと思います。めちゃ優しいし……。



これからも頑張ります。

評価ください……。

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