はわわわ系ヒロインが可愛くて意地悪したら悪役になっていた
私の愛する人は高貴なお方だ。金髪蒼眼、すっと伸びた背筋に高く通った鼻梁、引き結んだ唇。彫刻のように美しいお顔立ちだ。惚れ惚れする。小さな頃から一緒にいるが、一つ歳上とは思えないほどしっかりしていて、優しく、ときに厳しい。とにかくきりっとしたお方なのだ。
その最愛のお方が、最近付きまとい被害に合っている。
変な時期に転入してきた、なんたら男爵の娘がいつでも隣にいるのだ。
どうやら無知すぎて私の存在を知らないようだ。むかつくので授業の合間や昼休憩、放課後のたびに嫌味を言いに行った。
なんたら男爵の娘はラベンダー色のふわふわした髪にブルートパーズ色の瞳だ。
私が嫌味を言うたび、はわわわとなって涙目になる。いじめられて可哀想だという空気が周囲に漂うが、私は絶対に正しいことを言っている。
爵位が格上の相手に図々しく付きまとうな、婚約者といるときに話に割り込むな、他人のくせに私より馴れ馴れしくするなと。
正しいことを言ったに過ぎない。
なのに、はわわわ女が過剰に怯え、申し訳ございません、申し訳ございませんと安易に謝るくせに、またすぐに同じことを繰り返すのだ。
馬鹿なのか?
いや、私のことを完全に舐めくさっている態度だ。今日こそ絶対に許さない。
学園内のカフェテリアで姿を見かけ、私はつかつかと歩み寄った。
「貴女は何度言ったら分かるのですか? いい加減に付きまとい行為はーー」
その言葉を遮るようにすくっと立ち上がったのは、私の最愛のお方だった。
はわわわ女を庇うように間に立ち、私をきっと睨みつけた。高貴で美しいお顔に苛立ちが滲んでいる。どうしてそんなお顔で私を睨むのか。胸がぎゅっと締めつけられた。
「レオ。貴方こそ、いい加減にやめてちょうだい。私の交遊関係に口を出すのは」
「いいえ、出します。このはわわわ女は、どう考えても姉上のご友人に相応しくありません。いつもふにゃふにゃして、はわわわして、目をうるうるさせれば何でも済まされると思っているのです。何一つまともに反論せずに謝ってばかりのくせに、その実、少しも反省していない」
びしっと指差して指摘すると、はわわわ女は得意の上目遣いで私を見上げ、トパーズ色の瞳を潤わせて、ふるふると唇を震わせた。
得意の口先だけの「申し訳ございません」を繰り出すと思いきや、違う言葉が返ってきた。
「そっ、そんなに悪いですか、私がミリア様とお友達になりたいと思うことが。レオンハルト様にご迷惑はかけませんし」
「何だと……私に反論するとはいい度胸だな」
「まともに反論もしないと貴方が怒ったから言ったんです」
ぐっと言葉に詰まった。まさかこのふにゃふにゃのはわわわが言い返してくるとは思わなかったのだ。
そこへ姉上の婚約者であられる、第二王子殿下がやって来た。
「どうしたんだい。何やら揉めているようだが」
「殿下。レオがまたキャロルに絡んでいたのです。いい加減にしなさいと言ったところです」
「ははは、可愛い子ほど苛めたくなるってやつだね」
殿下に殺意が芽生えた。
「ははは、ご冗談を」
ぴくぴくと顔をひきつらせながら、ちらっとはわわわ女を見やると、顔を真っ赤にして照れていた。
いや、ほんと違うからな。勘違いすんなよ。