安物の筆は駄目だね
「唸れ水流! 私の魔方陣!」
魔導筆が円を描き、その動きに合わせる様に、光の破片が空中に煌めく。
立体的なパーツと化した文字と図形が、立体パズルを組み上げていく様に、複数の魔方陣を直列に並べた様に描かれていく。
一つ目の魔方陣は水流を生み出し、二つ目の魔方陣が水流を細くして、三つめの魔方陣が勢いよく水を飛ばす。
水がホースの先を狭めた時の様に、細く且つ鋭い刃と化して前方へと飛んでいった。
要は水に圧力を掛け加圧し、細い穴から水流を噴射したようにする事で、物体を切断するだけの力を水に持たせる事が出来る。所謂ウォータージェットやウォーターカッターと呼ばれるものをティルは造りだしたのだ。
「ピギィ!」
頭部を水流で刺し貫かれた野獣、疾風猪が血を吹き出しながら、走っていた勢いのまま地面を滑る様に倒れた。
「おおー。凄いじゃないかティル!」
「でしょでしょ! やっぱ私の魔方陣は最強よねー!」
ティルがふんすかと鼻息荒く言い放った。
まあ、自慢したくなるのも当然であろう。他の誰にも真似は出来ない魔方陣の使い方をしたのだから。
「全く凄い威力だな。敢えて言うなら積層方陣ってとこか」
「あぁ、それいい! そうよこれは新しい私の魔方陣! 積層方陣よ!」
シュウの言葉にティルが大袈裟に手を振り回しながら言い放った。
振り回した反動だったのか、その言葉をティルが言った直後に、魔導筆が砕け散る。
「ああっ! ……やっぱ、安物の筆は駄目だねー。はぁ……魔導筆が使い捨てになっちゃうよ……でも無いと複雑な魔方陣は描く事が難しくなるし……」
ティルは描けないとは言わない。単に描きやすくなる為に魔導筆を利用しているのだ。
だがこの補正値は結構あるらしく、ティルは好んで魔導筆を使うようになっていた。
が、今日はもう打ち止めだろう。持っていた三本共に砕け散ったのだから。
もうティルは魔導筆を持っていない。
「ねえデュス。魔導筆、どうしたら良いと思う?」
ポカンと口を開け、唖然としていたデュスに問いかける。
「い、いやいや、何なんじゃお主らは! シュウだけでのうて、クムトもティルも、自分がどれ程の事を成したかまるで分かっとらん!」
「ええっ? 僕もですか?」
「あたり前じゃ。どこの世界に息をするようにスキルが使える奴がおるのじゃ」
「まあクムトだし」
「いやいや、シュウさんみたいに言われても」
「……どう言う意味だクムト?」
思わず吐いたセリフにシュウが疑問の声を投げ掛ける。
「い、いや、そんな意味じゃないですぅ!」
慌てて訂正を入れるも時既に遅し。
クムトはシュウに詰め寄られ、デュスに救いの目を向けるが、思い切りスルーされる。
「さて、説明してもらおうか?」
「あうあう……」
クムトは捨てられた様な目でデュスを見やり、悪乗りをしたシュウに追い詰められ、引き攣った笑顔を浮かべる。
「と、兎に角じゃ。ティルも普通なら魔方陣は簡単には描けんのじゃよ。何処にそう簡単に描ける奴がおるんじゃ」
「ん。ここに居るよ」
「そんな自慢げに言わんでも分かっとるわい! そうじゃのうて、自分が普通で無いと気づけと言うとるんじゃ!」
デュスが呆れた様に溜め息を吐いた。
「まぁそれはいいとして、ティルは後何種類くらい魔方陣を覚えた?」
クムト苛めも程々に切り上げたシュウが、ティルの様子を伺う。
「えっとねー。火球でしょ。水流に鎌鼬と土壁。動かすのと跳ねるのと弾くのと止めるの、それに転写だね」
「基本動作ばかりだね」
クムトの意見にティルも肯定する。
「うん。見つけた本が基礎の本だったからね。難しいのは載ってなかったんだよ。中級用の本は置いてなかったし」
「だが組み合わせに加圧がなかったか?」
「あれはオリジナル! イメージが難しかったんだよ」
シュウの問いかけにティルが自慢げに言う。
「ならティル次第でオリジナルはもっと増えそうだな」
「元々ティルには想像転写があるんじゃし、基礎さえ分かっとれば、後はイメージで何とでもなりそうじゃな……普通ではないがの」
「ジジイもしつこいな。今更だろうが」
「いや、分かってはおるんじゃが……何か常識が崩壊しそうでのぉ」
デュスの気持ちもよく分かるのだが、このパーティにおいて常識などは溝に捨てた方が懸命なのだ。
方や神のスキル持ち、方やスキルでは無く野獣のアビリティを操るのだから。
通常のスキルと同じと思っていたら、毎回何かを行う度に驚かなくてはならなくなる。
「……まぁ程々で慣れろよ」
シュウにはデュスにそう言葉を掛ける事しか出来なかった。
面白いと思ったら★5をポチッとお願いします。
作品の評価、感想、ブックマークの登録をして頂けると執筆の励みになります。
誤字脱字の報告でも有難いです。
評価ptによって読んで頂ける人数が大きく変化しますし、作者のモチベーションも大きく向上する事間違いなしです。
これからも楽しい作品を作り続けますので、応援よろしくお願いします。