魔物と野獣の違いとは
リュックを貰ってご機嫌な幼児達とその出所をいぶかしむデュスを先頭に、シュウ達は森の並木道を歩いていた。
「デュスおじいちゃん、あそこに薬草が生えてるよ」
「おうおう。アーチェは良く気付いたの。あの薬草は治癒草といってな、煎じて飲んで良し、捏ねて塗って良し、処理してなんとポーションにもなると言う便利な薬草なんじゃよ」
正に好好爺といった感じで幼児達に説明する。
「おおっ、スゲーな! 何でも出来るのか! デュスじいちゃんも色々知っててスゲー!」
パルの称賛に目尻を下げながら、デュスは快活に笑う。
「ほっほっ。そうじゃろそうじゃろ。デュスおじいちゃんは物知りなんじゃよ」
そんなデュスの様子にシュウは若干の呆れを感じていた。
「あの治癒草は摘まなくていいの?」
「うむ。今回はな特薬草と言う薬草の採取じゃ。この特薬草はの更に効果が高こうての、採る為にはもっと森の奥まで行く必要があるのじゃ」
「へえーそうなんだ」
「ほれ。そこに生えとるのは毒失草と言う毒草じゃ。毒草じゃがこれはその名の通り煎じれば毒を打ち消してくれる。キュアポーションにもなるの」
「本当か! なら摘んでいこうぜ」
パルは喜び勇んで毒失草へと向かおうとするが、デュスが腕を掴んで止める。
「こりゃこりゃ。足下を良く見てみい。変な草が生えとるじゃろ。あれは斑芽草と言う野獣じゃよ。毒失草の側にはコヤツらがようけ居るからの。気を付けるのじゃ」
そう言うとデュスは斑芽草へ向け戦斧を振り下ろす。
斑芽草は空へと巻き上げられ地面に落ちてもがく様に動くと、徐々にその動きが緩慢になりそのうち動きを止める。
「うむ。パルや。もう摘んでもよいぞ」
「お、おう。ビックリした……」
パルはおっかなびっくり毒失草を摘み採る。
「森は野獣達の巣じゃ。よう注意する事じゃ」
「う、うん」
「わかった、デュスおじいちゃん!」
幼児達はデュスに説明を受けながら、楽しげに森を散策する。
「すみませんデュスさん。僕も教えて欲しい事があるんですが?」
「うむ。なんじゃな?」
クムトも会話に交ざっていく。
「あの魔物や野獣について何ですが、余り違いとかに詳しくなくて…」
「ほう。成る程のう」
デュスが顎髭を扱きながら視線をクムトに向ける。
「この先を考えてかの……クムトは勉強熱心じゃな」
「いえそんな……でも知ってるのと知らないのでは危険度が変わるので……」
デュスは緩やか微笑むとクムトに向かって手を曲げ上げ、指を折り曲げる様に見せる。
「よいかの。まずこの世界には二種類の生き物が居る。野獣やヒューマ族の様な生き物と障気から出来とる魔物の二つじゃ」
指を一つ折る。
「まずヒューマ族のような種族に関しては省くぞい。野獣はその名の通り野に居る獣の事を指す。まあ何処に住んどっても野獣と呼ぶのじゃがな。姿形は様々じゃが生き物である事が唯一の共通点じゃ。」
指をもう一つ折ると話を続ける。
「もう一つが障気から出来とる魔物。障気が何かはまだ解明されておらん。ただ一般的に障気と呼ばれとるだけじゃ。で魔物じゃが、コヤツらは決まった形を持たん。黒い靄のような肉体を持たんヤツじゃ」
指を折り曲げる。
「魔物が生き物を喰ろうて強うなると、靄がその生き物の形を取る。これが魔獣と言われるヤツじゃな」
もう一つ折る。
「そしてじゃ。これも未だに解明されておらんが……何かの拍子で魔物が巨大化する。それらは変異種と呼ばれておる。コヤツらは数はそんなに居らんようじゃが、兎に角狂暴での。コヤツが現れれば村が壊滅すると迄言われておる……とまあこんな感じじゃな」
デュスは説明を終え手をゆっくりと下ろす。
「まあ変異種は早々現れん筈じゃ。ワシも見た事が無いわい。気を付けるのは魔物と魔獣じゃよ」
(なら、やっぱ俺達運の悪さは相当だな……誰かの悪意さえ感じるわ)
シュウはどこぞでほくそ笑んでいそうな神とやらに、内心溜め息を漏らす。
「……そうなんですね……ありがとうございます。勉強になりました」
クムトも同様の事を考えてはいたのだろうが、表面的には変わらぬ表情でデュスに対し軽く頭を下げながら感謝の言葉を告げるのだった。
「なあアーチェ? 何か聞こえないか?」
「うん。何か鳴いてる……」
会話をしながら進む事数分。俄に幼児達が騒ぎ始める。
「ほう…何か聞こえるとな? ワシにはさっぱり聞こえんが……」
幼児達の様子にデュスが耳を済ますが、特に何も聞き取れず不思議そうな表情を浮かべる。
「デュスじいちゃん、嘘じゃないぞ! 確かに聞こえたんだ!」
「うん。私も聞こえた」
「そ、そうかの……別にワシは疑った訳ではないぞい?」
疑われたと感じた幼児達がデュスに詰めより、焦ったデュスが助けを求めるようにクムトへ視線を送る。
「まあまあ二人とも落ち着いて……デュスさんには聞き取れなかっただけで、別に二人を疑った訳じゃ無いよ?」
「そ、そうじゃ。ワシがお主らを疑うはずが無いじゃろ」
クムトのフォローにデュスは即座に同意する。
「そっかーごめんなデュスじいちゃん」
「うん……ごめんなさ……また聞こえた!」
パルとアーチェがデュスに謝ろうとしたが、途中でアーチェがまたも鳴き声を聞き取ったらしい。
「行くか?」
人外の耳を持つシュウも聞こえていたのだろう。幼児達に問いかける。
「聞こえとったなら何ぞ言うても……」
後ろから聞こえるデュスのぼやきは、早々にシュウに無視されていたが。
シュウ達は鳴き声に導かれる様に森の中に分け入るのだった。
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