ベルとの別れと水晶のペンダント
狼のブランとノワールからマナとオド、それに疾駆のコツを教わったシュウは、何かベルに礼が出来ないかを考えていた。
唯でさえ変異種とベルが呼んでいた魔物から助力を受けたのだ。
このままサヨナラと言うのは何か気が引ける。
(ふむ。何か無いものかねぇ)
自分に出来るのは糸を紡いで何か物を送るくらいしか考え付かない。
だがそれはそれでどうなんだと思う。
と、ふと水晶の洞窟で切り取った水晶の事を思い出す。
(これならいいかもしれんな)
思い立ったが吉日と言う事で、シュウは果物を頬張っているアーチェの下へと向かった。
「アーチェ、悪いが水晶出してくれるか?」
「あ、うん」
シュウの言葉にアーチェは果物を食べるのを止め、自家製ポーチから六角柱の光る水晶を取り出す。
「ほう。光水晶か……また珍しい物を……」
ベルは水晶を一目見て少し驚きの表情を浮かべる。
「光水晶ねぇ……。まぁいいや。チョッと借りるぞ」
「うん。勿論大丈夫だよ」
「悪りぃな」
シュウは言葉を返すとベル達から見えない場所に移動する。
「シュウさん? どうするんですか?」
シュウが何をするのか気になって後に付いてきたクムトが不思議そうな顔で問いかける。
「勿論、こうする」
シュウは尻尾から斬糸を吐き出すと細く鋭い糸へと変化させる。
その糸を使って水晶の先端部分を斬糸でカットし、次いで赤化を発動させ切り落とした水晶を両手で包むと、力を込めて水晶を圧縮していく。
通常だとクラックが出来るが、シュウはオドの練習も兼ねて、握力ではなくオドを全方向から押し付けるイメージで圧縮させていた。
少しすると親指1本分位の大きさの水晶が、指の爪位の大きさの綺麗な円形の珠玉となった。
色は圧縮したせいか、白みがかった色に変わっている。
(どうやら上手く出来たみたいだな)
珠玉を作ると斬弾で髪の毛大の穴を穿ち、そこに新たに紡いだ糸通してペンダントに仕上げる。
「さ、流石ですね……」
シュウのあっという間の作業速度にクムトが驚きの声を上げる。
「慣れりゃあそうでもないぞ」
「で、これはベルさんに?」
何かを含んだ言葉だったが、気付かぬ振りでスルーする。
「あぁ。色々世話になったしな」
「ふふっ…シュウさんらしいですね」
「……好きに言ってろ」
何かを悟ったかのような顔をするクムトに、シュウはムスッとした顔を見せるのだった。
湧き水の出る場所での休憩を終えたシュウ達は近隣の村を目指して再び山道を歩き始めた。
山道の途中で崖を登り森の中に足を踏み入れる。
思ったより鬱蒼としていない木々の間を進むと人為的に作られたと思われる小道に出た。
唯あまり利用はされていない様で小道には木の葉が覆い被さって見た目では分かりにくくなっている。
「さて、この小道を道なりに歩けば村に辿り着く」
ベルの言葉に従ってシュウ達一行は小道を道なりに歩いていく。
歩いているのはシュウ、クムト、ベルの三人で幼児達はそのままブランとノワールに跨っている。
そよそよと風が流れ優しく木々の枝葉を揺らす。
山中だけに流れる風は程よく涼しく、柔らかくシュウ達を包み込んでいく。
暫しの間、風に揺れる木の葉の小道を歩き続けたシュウ達一行の前に、遠目に小さく村の見えてくる。
「おおっ! 村だ! クムト兄ちゃん! 村が見えたぜ!」
「うん。やっと着いたね」
元気に声を張り上げるパル。相変わらずテンションが高い。
「早く行こうぜ! クムト兄ちゃん!」
「うるさいパル!」
アーチェの苦言もいつもの事になっている。
「そう慌てないで。それに……」
「あっ? ベル姉ちゃん?」
クムトがパルを押し留め、ベルに視線を向ける。
パルもそれに気付いたのだろう。ゆっくりとブランから降りる。
アーチェも残念そうにしながらノワールから降りた。
「世話になったな」
「うむ。別に気にするな。糖蜜桃も貰ったしな。私も楽しかったぞ」
シュウの言葉に返した答えは、ベルが心底楽しんでいたからだろう。違和感なく皆にその気持ちを届けた。
「それでもだ。それでな……礼代わりにと言ってはなんだが、こんな物を作ってみた」
取り出したのは先程の湧き水の休憩場所で作った水晶で出来たペンダントだった。
「ほお。光水晶のペンダントか…くっくっくっ……本当にシュウは面白いな」
「これでも紳士だからな」
「ならばこれは貰っておこうか」
そう言って不意に背を向けたベルに、シュウが訳が分からないという態度を見せる。
「ん?」
『鈍感』
『薄鈍め。主がお主に付ける様、望んでいる事位は察せよ』
「いや、俺が付けてもいいんもんかねぇ?」
シュウとて朴念仁ではない。ベルの意向ぐらいは分かっていたが、それを要求された事が分からなかったのだ。
「無論だ。シュウが私の為に作った物だからな」
「そうか……なら」
そっとベルの銀髪を持ち上げ、細い首筋にネックレスを掛ける。
「ふふふっ……どうだ?」
「あぁ。まぁ良く似合ってるぞ」
問われたシュウは、感じたままを口に出した。
クルリと振り向き、腕を後ろに組んで見せるベル。
「ふふふっ……大切にさせてもらおう」
朗らかに微笑むベルにシュウは軽く目を細めながら答える。
「そうしてくれ」
「うむ。ではな」
かなりあっさりとした別れの言葉だった。
幼児達は思わず引き留めるべく声をかける。
「ええーっ! 一緒に行かないのかよ! ベル姉ちゃん!」
「……寂しい」
「うむ。すまんな…」
「二人とも我儘言わないの。ベルさんにだってやる事があるんだからね」
クムトの言葉にしょんぼりしながらも納得の表情を見せる幼児達。
「分かった」
「ベルお姉ちゃん。ノワールにブランも……また会えるよね」
「勿論だ」
「わふ!」「オン!」
当然とばかりに答えるベルに続き、二頭の狼も返事を返す。
「ではな……」
「あぁ」
シュウにはベルが何処へ行こうが、何をしようが、それを止める権利は持たない。
だが、相手を思いやる事は出来る。
だからこう言葉を投げ掛けた。
「何かあったら俺を探せ。少し位は手を貸さん事もない」
「くっくっくっ……心に留めて置こう。さらばだ」
颯爽と身を翻すと、ベルは片手を上げながら森へと姿を消した。
シュウ達はその後ろ姿を暫し見送っていた。
「あーあ…行っちゃったなあ」
「また会えるよ」
「さて、俺達も村へ行くぞ」
シュウの言葉でしんみりしていた空気が変わる。
さあ、初めての人里だ。
シュウは決意を胸に、新たな出会いに向けた一歩を踏み出したのだった。
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