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とある田舎の音楽会

 公民館のホールに椅子を並べていく。単純な作業だ。

 良太がこの音楽会のボランティアに参加した理由も実に単純なものだった。就活の面接で話しのネタになると思ったからだ。それだけだ。

 しかし、無駄足だったな。そう良太は思った。椅子を並べたり、花模様を壁に貼り付けていくだけだ。幼稚園児でもできることである。特にわからないこともなく、周りの人も無言で作業をしているだけ。

 なんだかなぁ‥。こんなボランティアの話を面接官に話しても、 で? と返されて終わりだ。


「今日はありがとうございました。せっかくですのでお時間のある方は、よかったら音楽会をご覧になってくださるとありがたいです」

 その言葉通り、良太は客席に座った。ホールはそれなりに人が集まってきていた。自分が並べた椅子に人がどんどん座っていく。ホールの飾り付けに驚く人もいる。

 この椅子や壁の飾り付けは俺がしたんだぜ、と良太は少し誇らしく思った。

 


 イイね。良太は音楽会に来てよかったと思い始めていた。思っていたよりも面白かったのだ。

「次は、わかば小学校二年生の子供達です。元気いっぱい歌います! それではお聞きください」

 アナウンスと共に子供達がステージに出てくる。

 ぞろぞろ とことこ 並ぶ。

「いっしょう けんめい うたいます!」

 可愛い! 

 ピアノ伴奏が始まる。子供達が歌い始める。

 大きな大きな声をあげる子が目立つ。若干音程ずれてるけど味があるな。逆に小学二年生とは思えないような透きとおった声を出す子もいる。いろんな子供の声が混ざり合って美しいとはちょっと言えないけれど、とても心に響くハーモニーを奏でていた。

 おっとォ。これは。歌がサビの部分に入ると同時に、子供達が手を繋いで揺れ始めた。それにつられて観客が手拍子を始める。

 すごいな。なんか、イイな。

 


「それでは本日最後の発表。小波合唱隊の皆さんです。みんな仲良く、楽しく練習してきました。今日も楽しく歌います。どうぞ!」

 アナウンスと共に、おっとこれはこれは。おじいさんやおばあさんがぞろぞろと出てくる。

「平均年齢が七十歳の私達ですが、‥‥‥まだまだ若いもんには負けませんよぉ」

 観客から小さく笑いが起きた。

 歌は良太が聞いたことがない演歌だった。正直、下手だ。

 だけど皆すごく楽しそうに歌っている。いいなぁ。俺も老人になったらあんな感じになりてえな、と思った。


 良太は気づけば最初から最後まで音楽会を鑑賞していた。とてもよかったのであった。そこには全国合唱コンクールに出てくるような物凄く上手い合唱団はいなかった。テレビとかに出てくる優勝校の人達ってみんな同じ表情で歌っててちょっと怖いと感じるのは俺だけ? とそんなことは置いといて。

 この音楽会にそんな物凄く上手い合唱団はいなかった。

 だけど。すごいよかった。と良太は感じた。

 どうしてそう感じたのかははっきりわからない。

 だけど、一生懸命歌う子供達を、楽しそうに歌うおじいさんおばあさんを見て心を動かされたのは事実だ。


 面接で使えるような話ではないかなー。

 けど、ま、いっか。


 良太は子供達が歌っていた歌を口ずさみながら公民館を出た。




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