王子、探すが見つからない。 9話
王国では国王が強く進めていた勇者計画により多くの兵士を失なった。
戦争には勝ったが無益の勝利は国王への不満だけを残す形となる。
国王に対する求心力の低下を問題にして新たな王の擁立を謀る者も現れた。
現国王を退位させて新国王に皇太子を推す派閥と王弟を推す派閥に分かれ暗闘を繰返している。
現在、兄王の意思を継ぎ世界の覇権を握るべく軍備の強化を謳う王弟派が勢力を伸ばし、数で劣る皇太子派は身の危険を感じ市井に身を隠していた。
王弟派は幽閉中の勇者を連れ出したと言う情報もある。
軍備の強化には勇者の協力が必要であるがそれは危険が付きまとう。
十数年前、禁忌であった召喚魔法を国王が強行して引き起こした凄惨な事件があった。
当時、儀式には国王を始め多くの貴族達が立ち合って行われた。
大規模な魔法陣の発動後、神殿の中央に現れた物体は巨大な肉の塊だった。
この世の者ではない異世界から召喚された怪物。
子供だった私は立ち入りを禁止されていたにも関わらずコッソリと神殿に忍び込んで儀式を覗いていた。
怪物のあまりの恐ろしさに覗いた事を後悔したものだ。
禁忌を犯し怪物を呼び寄せるなんてもう2度と行うべきではない。
それでも父王は強行してしまった。
儀式は成功して勇者と言う最大戦力を得たが、国の主力である騎士団三万人が消滅してしまったのだ。
昔から私を可愛がってくれた将軍も帰っては来なかった。
禁忌を2回も犯すなどもはや許される事ではない。
跡を継ぐと公言する叔父が王となれば同じ事だ。
短命だったとは言えあの精強な軍隊を見た貴族どもは叔父を押し上げるに違いない。
私にこの国を変える事が出来るだろうか。
「アレク様。やはり勇者は王弟派の副官クラウスが連れ出したようです。」
「そうか。叔父は勇者を使って自分の軍を強化するつもりだろう。いたずらに兵士を消耗するだけだと言うのに。」
「どうされるんです?今のままでも戦力に大きな差があるんですよ。」
私の副官をしているステイは子供の頃から一緒に居る気心の知れた友人だ。
今回も街で潜伏している私に付き合って城での情報を持って来てくれる。
「勇者と一緒に召喚された魔術師がいたはずだ。彼女に協力してもらえると良いんだが。」
「!?勇者以外にも居たんですか?それも女性?」
「ああ。極秘事項だったからな。それにもう一人いた。」
「え?それじゃ4人いたんですか?」
「一人は召喚後すぐ勇者に殺された。」
「なるほど・・・」
「まずは魔術師ショウコを探そう。」
「この街にいるんですか?」
「分からない。だが私が逃がしたんだ。あのままでは彼女が壊れてしまっただろう。」
「それならもうこの街に居ない可能性もありますよね。」
「かもしれん。冒険者ギルドに行くぞ。」
「はいはい。」
ギルドマスターからの情報ではショウコはこの街に住み、週1で依頼を受けているらしい。
昨日来たばかりなので6日後にならないと会えそうもない。
私もステイもCランクだった筈だが依頼を受けて無かったのでEランクに格下げされていた。
何だか悔しくて依頼を受けてしまいステイに睨まれたが気にしない。
ショウコが来るまでギルド通いになりそうだ。