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ホームレス異世界へ行く  作者: 正木 晴
8/14

ホームレス、起業する。 8話


早いもので、俺が異世界に召喚されて1年が過ぎた。

ホームレスだった俺がこちらの世界では納屋とは言え家に住んでいる。

ちゃんと家賃を払って借りている家だ。

だから俺はホームレスでは無くなったのだ。

やってる仕事は同じでも気分が違うし何より働くのが楽しくなって来た。

今までの時間を取り返すように働いた1年だった。




しかしこの街にもホームレスは存在している。

と言っても段ボールハウスに住んでいる訳じゃない。

東京と違って土地は余っているし、空家になっている家も多い。

そんな空家に住み着いて極貧生活をしている人々がいるのだ。

スラム街を直接見た事は無いがこう言う場所を言うのだろう。

“貧民地区”と呼ばれるその場所では大人も子供も痩せ細り不衛生な環境は病気の発生源に成りやすい。


廃棄物を運ぶ俺の姿は同類に見えたのだろう。

老人が話し掛けてきた。

「精が出るねぇ。」

「おおよ。働かざる者食うべからずだ。」

ことわざが通じたのかは分からないが老人が聞いてくる。


「その仕事はわしらでも出来るかね?」

「う~ん。辛い力仕事だがやってみるかい?」

少し前の自分を見ているようで複雑な気持ちになる。


「わしゃあんまり力仕事は得意じゃないが若いのに教えてやっちゃくれんかね?」

「息子さんかい?」

「いや、孫でな。親は戦争で帰らんかった。」

「そうかい。んじゃ明日の朝来るから一緒に回ってみようかね。」

「ああ。」



翌朝、貧民地区へ行くと4人の子供が老人の後ろに立っていた。


「よぉ。その子達かい?」

「ああ。すまんが頼むよ。」

老人に見送られ俺達は廃棄物を集めて回った。

子供達は意外にも力があり真剣に手伝ってくれていた。


これは良いことを思い付いたかもしれない。


一週間一緒に回って場所を覚えさせた。

店の人にも子供達を覚えて貰うように声を掛ける。

リヤカーをもう一台作って子供達を2班に別けて店を回ってもらう。

処分場の隣に場所を借りてそこで俺が受け取って終了だ。

俺がリサイクル業者をやれば貧民地区の子供に働き口を作れるし増え過ぎた顧客を捌ける。

貧民地区で希望者がいれば規模が大きくなっても対処出来る。

良い案だと思った。



毎日子供達が家の納屋にやって来てリヤカーを押しながら仕事に出掛ける。

その間、俺は前日のリサイクル品を商店に納めに行く。

処分場の隣に借りた場所で廃棄物を受取り子供達に給料を払う。

最初は日払いだがそのうち週払いにする予定。

これも持続して働いて貰う手段だ。

“アズミノ商会”と言う屋号にしてリヤカーにも看板を取り付けた。

週休2日で年1回のボーナス。

制服と皮手袋を支給。

ショウコにデザインを頼んだのだが出来たのはどう見ても学校の制服にしか見えなかった。

俺にも着ろと言われたが断固拒否だ。

残念がっているショウコには悪いがこの歳で学校の制服は恥ずかしい。




〇   〇   〇




レベルが上がった事によるスキル進化で、鉄くずを集めてインゴット状に加工する能力が追加された。

これまで敬遠されがちだった金属の再利用も、インゴットにしてしまえば手間が省けるので高値で引き取って貰えるようになる。

しかもチートスキル加工なので純度も高い。

商会の売上も中堅商店並みになって来た。

高品質の素材を取引していると客に対して信用度も上り、高額な素材を頼まれる事もある。

最近取引を始めた鍛冶工房にも結構信頼されて来た様で、ミスリル鉱やアダマン鉱など希少鉱石を依頼出来ないか相談された。

武器や防具の硬度を上げだり切れ味を増したりさせる加工に使用されるそうだ。


依頼に応えたいのは山々だが廃棄物の中にミスリルやアダマンがあるとも思えない。


鉱山からの産出量も減っていて高ランク用の武器製造にも支障をきたしかねないそうだ。

ミスリルは魔力を通し易く魔法剣士の使う剣や魔術師の杖に利用される。

アダマンチウムは非常に硬く武器や防具の一部に用いられる。



週イチ冒険者では採掘の依頼は受けた事が無かったな。

ショウコが良ければ受けてみるのも良いかもしれない。

勝算はあるのだ。

【空き缶集め】は採掘に特化したスキルだと言う事は分かっている。

採集と同じでショウコにとっては少し退屈かもしれないが。



そんな事を思っていた時もありました。

「キャー!こっち来んな!」

「大丈夫か?って離れろ!ウプッ」


気軽な気持ちで鉱山に来てみれば至るところにカエルがビッシリ張り付いている。

魔物ではないが俺達に向かって襲ってきた。


「何でカエルが人を襲うんだよ。おかしいだろ!」

「ちょっとゴローさん、何とかしてー!」

体長は30cm位の大きめなカエルで皮膚から毒液を分泌させる。

肌に触れると腫れ上がり、服に付くと腐食してボロボロになる。

薬品の素材として需要はあるが数が多過ぎて2人では対処しきれない。

そんな中、悠然と食事に勤しむ者が一人、いや、一匹。

自分の身体の半分はあろうかと言うカエルをパクパクと丸呑みにしている。

森で拾ったトカゲの“トカシキ”は散歩がてら鉱山に連れて来ていたが思わぬ活躍をしてくれた。


〈ウォーターシャワー〉で身体に付いた粘液を洗い流してやっとひと息ついた。


毒により赤く腫れ上がった顔はショウコ特製サンドウィッチで治ったがカエルのトラウマは当分治りそうも無かった。

トカシキは大量のカエルを食べた筈だがショウコの弁当を欲しがった。

あのカエルはどこに入ったのか。

謎が残った。


「もうカエルは見たく無いし、ぱぱっと採掘して帰りましょ。」

「ああ。もう採掘は懲り懲りだ。」

半泣きで訴えるショウコに賛同して鉱石を掘ったらさっさと帰ろう。


【空き缶集め】〈ミスリル〉と叫ぶと鉱床の所々が崩れてミスリル鉱が集まって来た。

【空き缶集め】の有効範囲が今は50mだが、その範囲には10kg前後のミスリル鉱しか無かった。

だがこれで更に産出量が減るだろう。

続いて〈アダマン〉を叫ぶと更に少なく拳サイズのアダマン鉱が3個しか採れなかった。


一応は依頼達成と言う事で街まで戻って来た。


ギルドで依頼の鉄鉱石とカエル 50匹を渡し、その足で鍛冶工房に向かった。


鍛冶工房では少ないとは言え希少な鉱石を納品してくれた事にとても感謝された。


工房で聞いた事だがカエル避けとして魔物の樹の樹液を身体に塗って行くのが常識だそうだ。

ギルドで教えろよ!




今日もゴローの日常が過ぎて行く。


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