ホームレス、強制依頼を受ける。 7話
週イチ冒険者のゴローとショウコは森の探索隊に加わっていた。
「ゴローさん、こんな街から近い森に本当にドラゴンなんて居るんですかねぇ?」
「目撃者が何人もいるからねぇ。」
「トカゲの見間違いじゃないですか?」
「体長が数十メートルもあるらしいからね。トカゲでも怖いよ。」
「戦う必要は無いんですよね?」
「うん。探索だけ。戦闘は上位ランクの冒険者が来るみたいだね。」
冒険者ギルドに緊急依頼が来てその場にいる全員がドラゴン探索に駆り出された。
最低のFランクであっても戦闘は無し、と言う条件で探索に加わっていた。
「ちょっと早いけどお昼にしようか?」
「そうですね。準備します。」
朝から歩き続けて足が疲れて来ていた。
万が一ここでドラゴンに遭遇しても逃げる体力はないからね。
補給、補給。
ショウコの能力は2人の時以外は使わない事にしている。
エリクサースープの事がバレたら面倒くさそうだからね。
岩場に出たので見晴らしの良い所を探した。
巨大な岩があり登頂部に窪みがあって座りやすいのでそこに昼飯を広げる。
サンドウィッチを頬張りながらも警戒を怠らないのは冒険者に慣れてきたと言う事だ。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど、ゴローさんは何でホームレスなんかしていたんですか?」
「むむぅ。ホームレスって言っても色んな人が居るんだけどさ。俺の場合は・・・分かんないな。」
「いや、言いたく無ければ大丈夫です。」
「そうじゃないが、まぁ聞いてくれるか?」
「はい。」
「俺は静岡が実家で近くの会社に勤めていた。学生時代に知り合った女と結婚して息子が生まれた。それなりに幸せだった。いや、幸せ何てものは後になって分かるもんなんだと思ったよ。当時17歳になる息子が受験で妻と一緒に東京に向かった。それっきり失踪してしまったんだ。」
「え!?」
「警察にも捜索を依頼したが進展は無かった。新聞で当日の事故の記事を見つけてな。もしかして2人はトンネル内の玉突き衝突事故に巻き込まれてしまったのかも知れない。そう思った。死傷者数十名を出した大事故で被害者の半数は遺体も確認出来ていなかった。ショウコがまだ小さい頃の話だよ。」
「・・・その事故は覚えています。」
「じっとしては居られず現地へ行ってみたが何の確証も得られなかった。どうしても諦めきれず会社を辞めて“被害者の会“で活動を始めたんだ。真相が知りたいだけだったんだが結局不明なまま。事件が風化しても俺の中には何かが残っちまったんだな。だからホームレスをしてるのは俺の意地だ。」
「意地・・・ですか。」
「そう。世間に対する俺の・・・はははは。まぁ、言い訳だな。いつまで経っても捨てきれない未練がましい男なんだよ。」
黙りこんでしまったショウコは何か思い詰めているようだった。
「さぁ。そろそろ探索に戻ろう。」
「・・・はい。」
この日は夕方まで探したがドラゴンの痕跡はまったく掴めなかった。
〇 〇 〇
次の日も冒険者ギルドでドラゴン探索に参加した。
不安が解消されるまで強制参加しなければならない。
いつまで続くか分からない仕事はそれだけで精神的疲労が溜まっていく。
ショウコと二人で少し早い昼飯を摂っていた時だ。
遠くからドゴーンと言う音がして来た。
誰かがドラゴンを見付けたのだろうか。
その音がどんどん近付いている。
まもなく音は止んだがここは離れた方が良さそうだ。
急いで食べ終わろうと手に持つショウコ特製クロックムッシュを頬張り、更にもう1枚を取ろうと手を伸ばしたが手に掴んだのは大きなトカゲだった。
「うわっ!」
傷付いて全身ボロボロのトカゲがクロックムッシュに食い付いていた。
俺が最後に食べようとチーズが多い方を残して置いたのに。
「また作りますから。フフフ」
「いやまぁ、こいつは怪我をしてるみたいだからな。譲ってやるさ。ははは」
恨めしそうな目でトカゲを見ていた俺に、笑いながらショウコが言った。
トカゲの全身に刻まれていた無数の傷が瞬く間に消えて行くのは見事と言う他無い。
この日の探索も成果は無くギルドへ報告して終了である。
ショウコから離れようとしないトカゲは仕方なく連れて帰る事にした。
魔物だとギルドで許可を取らないと飼う事は出来ない。
ギルドに戻り報告のついでにトカゲの事を聞いてみるとあっさり許可が出た。
火を吐く種類もあるので注意が必要だが比較的大人しい性格らしい。
食堂で飼うのはマールさんが嫌がったので、納屋にトカゲ小屋を造って飼う事になった。
名前はトカシキ。
理由は知りません。ショウコ命名だもん。異論は認めません。だそうです。
結局1週間後に強制依頼は解除された。
見間違いと言う事で処理されたらしい。