ホームレス目覚める 2話
目が覚めるとそこは何も無い部屋だった。
どうやら気を失っていたようだ。
家具や電灯すら無いが周りの壁が少し発光して優しい光が部屋を包んでいる。
ここは病院なのか?
俺の家に放火した2人を追ってトンネルに入った事は覚えている。
あの時何かが光って・・・
「お目覚めですか?」
突然声を掛けられて思考が中断した。
「天使・・・」
目の前に現れたのは白衣の天使ではなくイメージ通りの天使。
「私はこの世界の管理者です。安曇野 吾郎さんですね。」
「あ、はい。」
名前を言われ驚いた。
知っているのはたまに公園に来る民生のおばちゃん位だからだ。
「貴方は少年2人を追い掛けてトンネルに入ったのを覚えていますか?」
「ええ。高校生位の少年2人でした。確か女の子が1人居たような・・・」
天使様の顔に陰が落ちたように感じた。
「ある国で大規模な召喚魔法が使用されました。」
「!?・・・召喚魔法ですか。」
「彼らは少年2人を勇者として召喚する予定だったんですが、あの様な事になるとは思いませんでした。」
「勇者・・・」
「あの国は過去にも同じ過ちを犯しています。貴方とあの少女はその魔法に巻き込まれてしまったのです。」
魔法云々は分からないがあの少年達の事故に巻き込まれたのか。
まぁいいさ。怪我も無いし何も問題ない。
「大丈夫ですよ。あの少年達が更正してくれるを祈ります。」
天使様にお辞儀をすると出口を探した。
「優しいのですね。」
「いえ。息子が死んだのはあの位の歳でしてね・・・では失礼します。」
しかし天使様は申し訳なさそうに言った。
「ですが元の世界には戻れませんよ。」
「え?」
理解の外にある俺に天使様は丁寧に説明してくれた。
古い神の名を持つ国が勇者を呼出し、魔王討伐を大義名分に戦力増強を計り世界の覇権を握ろうとしている事を。
その世界は息子が昔読んでいた冒険小説の世界そのままである事を。
「では貴方をこちらの世界に戻します。残念ながら私に干渉出来るのはこの時だけなのです。」
「お願いします。」
「その前に、特別に好きな能力を差し上げます。欲しい能力を思い浮かべて下さい。」
「は、はい。」
何か凄い話だったが色々覚悟を決めなければならない。
能力ってもどんなものが良いんだ?
金儲けの能力?格闘技の能力?頭が良くなる能力とかは無いかな?
そう言えば公園にいる仲間達は多才な人が多かったな。
俺にもアルミ缶集めの能力でもあれば楽だったろうな。
焼けてしまった思い出の物を取り出す能力とかがあれば・・・いや、それは無理か。ははは・・
「欲張りですね。フフ」
え?!。
時間切れらしい。
視界が暗転した。
〇 〇 〇 〇 〇
ゴンッと頭を打った拍子に目が覚めた。
2回目の目覚めは痛いものだった。
後頭部を擦りながら周りを見ればどこかの神殿を思わせる造りの場所にいた。
ひんやりとした床に倒れている少女はまだ起きそうもない。
少年2人は立ったまま周りをキョロキョロしている。
「これってもしかしてあれだよな?」
「ああ。勇者召喚だよ。絶対そうだ。」
「やったー!チートでハーレムだ!」
「バカバカ。最初が肝心なんだぞ。まずは能力を調べないと。」
「ああそうだな。」
どうやら少年達は今の状況を理解しているらしい。
「ステータス・・・」
「鑑定・・・」
「解析」
「出た出た。」
「あ!俺、勇者だ。」
「俺もだ。」
言い合っていてこちらに気付かない少年達の真似をして解析を唱えてみる。
「解析」
そう言葉を発するとすぐに文字や数字が頭に浮かんで来た。
Name: ゴロー・アズミノ
『 ――――― 』
LV: 1
HP: 180
MP: 180
skill: 【状態保存(固定)】【公園の叡智】【思い出袋】【空き缶集め】
なんだこりゃ?天使様がくれた能力だろうけど異世界でも空き缶があるのかな。
【公園の叡智】はサバイバル術かな?
【空き缶集め】は名前のまんまだな。
【思い出袋】は焼けてしまったものを取り出せるのかも。
これは嬉しい。天使様、感謝します。
「ようこそ!勇者様方。私はダカーハ王国で宰相をしておりますユーソンと申します。今はまだ戸惑われていると存じますので部屋を用意させて頂きました。そちらでご説明致します。」
いきなり現れた宰相を名乗る男は言いたい事を一気に話すと俺達を誘導して建物の奥に向かった。
兵士に促されて少年達は歩き出す。
仕方ない、行くしか無さそうだ。
倒れたままの少女を抱えて後に付いて行った。
部屋に入ると豪奢な服を着た人達が並んでいた。
この国の貴族など、特権階級が集まっていると思われる。
「では改めて。私共の召喚に応じて頂きましてありがとうございます。実はこの世界は滅亡の危機に瀕しております。勇者様にはその元凶である魔王の討伐をご依頼致したくこちらにお呼びしたのでございます。」
そう始まった説明も天使様に聞いた通り胡散臭いものだった。
少年の名はユウキとコウタと言うらしい。
少女の名はショウコ。
それぞれの能力検査をする事になった。
結果、少年2人は勇者。
少女は魔術師。
そして俺は不明。
理不尽な!
宰相が言うには2人の勇者を召喚したが後の2人は一緒に付いて来たオマケらしい。
ただ魔術師のショウコは戦力になるが、一般人の俺は必要無いそうだ。
コウタが俺の顔を見ながら言った。
「おっさん。もしかしてあそこに居たホームレスだろ!」
「まじか!ジジィかと思ってたけど意外と若くね?」
「そうだ!お前らが放火したのは俺の家だ。」
少年達は顔を見合せながら笑った。
「けどさ、異世界に来たんだからリセットされたでしょ。」
「だよな。ぷぷぷ」
「お前らふざけるなよ!」
「うぜぇよおっさん!」
言うが早いかコウタの手から飛び出した火の玉が俺に当り、吹き飛ばされて壁を壊した。
「よし。魔法も使えるな。」
コウタはニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら宰相に話し掛ける。
「宰相さん。こいつは只の浮浪者だ。殺した方が良いよ。」
「スキルも空き缶集めとか笑わせてくれるじゃん。ははは」
コウタは見下した視線で俺を一瞥すると更に一発火の玉を飛ばした。
俺は今時の少年と言うものを甘く見ていたのか。
まさかこんな場所で殺そうとするなんて理解出来ない。
少年の中にある狂気に戦慄を覚える。
さすがに苦労して召喚した異世界人を勝手に殺されては堪らないと宰相が慌てて兵士に命令した。
「その者を掘りに叩き込んでおけ。」
この時、宰相は“牢に”と言うのを“掘りに”と言い間違えたのだが、それは単に殺せと言うに等しかった。
しかしこれが吾郎の運命を変える事になった。
火の玉が直撃して瀕死の俺を兵士が門の外まで引き摺って来て城のお堀に放り投げた。
ざっばーんと水に落ちた所までは覚えているがそのまま気を失ってしまった。
〇 〇 〇
3回目の目覚めはベットの上だった。
どうやら助かったようだ。
ここは民家かな?
それにしてもあの少年が勇者だなんて危険かもしれない。
吾郎が考え込んでいると扉が開き女性が入って来た。
「起きたね。」
「あ。助けて頂いたんですね。ありがとうございます。」
「偶々通り掛かったら兵士が掘りに放り投げるのを見えてさ。それが人間だって分かったんで慌てて引き揚げたのさ。良かったよ。あそこに捨てられるのは死んでる場合が殆どだから。」
笑いながら話す女性にもう一度お礼を言い、何か恩返しをしたいので手伝える事は無いか聞いてみた。
この女性はマールさんと言い、旦那さんと食堂を営んでいるそうだ。
水汲みや薪割り等を手伝いながら街で働ける所を聞いてみたが、冒険者ギルドと商業ギルドに登録するのが手っ取り早いらしい。
落ち着くまで裏庭の納屋を貸してくれると言うのでありがたく使わせて貰う。
納屋なので道具類が積んであったが寝具の類いはない。
まさかここで【公園の叡智】が役に立つとは。
段ボールハウスよりも立派な家を借りれたのは幸先良いと言えるだろう。
翌朝、俺は商業ギルドへ向かった。
服は同じ物しか無かったがマールさんが洗濯してくれていたので洗いたてだ。
商業ギルドの建物は木造2階建てで雑貨屋が併設されていた。
中に入ると沢山のテーブルが並び商人が思い思いに商談をしている。
受付窓口で入会手続きをお願いしたが身分証もしくは保証人が必要らしい。
受付の職員は身分証の作り方を教えてくれたがそれは冒険者登録をするというものだった。
冒険者になるつもりは無かったが仕方がないのでその足で冒険者ギルドへ向かう事にした。
冒険者ギルドの建物は商業ギルドとほとんど同じ造りで酒場が併設されている。
受付窓口で簡単な質疑応答の後、実技テストがあった。
少しばかり剣道には自信があったが金属製の剣は勝手が違った。
防戦一方で試験官に撃ち込めるチャンスは最後まで来なかった。
消極的な戦いで不安ではあったが身を守る姿勢が評価され見事合格する事が出来た。
その後も講習を受けたり簡単な依頼を受けたりして結構時間が掛かり、冒険者ギルド証を身分証代わりに商業ギルド証を受取る頃には日が暮れてしまった。
しかし、近くにいた商人と話が出来て廃棄物撤去の仕事を貰えたのはありがたい。
仕事自体は日本でやっていた事と同じだが、売るのではなく撤去、廃棄所までの運送料金を貰う事になる。
これで何とか食って行けそうだ。