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凍りついた空気の中、誰かが声を発した。
「さすがはアレキウス殿…妾の子ならではの不躾ということか?」
「それともアレか?エバン家を継げないからウォールデンを乗っ取るとか?」
「ヤダ〜」
その嘲笑を帯びた声にアレキウスではなくローズマリーが真っ先に反応してしまう。
「なん…、」
立ち上がろうと痛む腰を浮かせかけるローズマリーをアレキウスは頭振って静かに制した。
昔から貴族達はアレキウスの出生を嫌っている節がある。
それは彼が妾の子であり、南方の血が流れているのが要因なのか、はたまた同じ年齢というだけで、ローズマリーと懇意にしているという理由なのだろうか。
17~18歳ともなれば人の陰口を日向で言えるようになるらしい。
「これこれお前達、いくら何でも失礼な言い方であろう?」
一人の初老の男性が嫌味を囁く子供を制するが、その顔は笑っていた。
ローズマリーは初老に訝しい感情を抱いた。
(コイツ…何か企んでやがる…)
初老の顔から滲み出る悪意をローズマリーは感じ取る。
「しかし、ローズマリー嬢は妾の子がお好きなようだ。これなら新しい母上もその妹様もご安心でありましょうな?」
(やっぱりその話かよ!)
ニヤニヤとアレキウスやアレキウスの父親以外の他人が笑う。
「おやおや、その様子だとローズマリー嬢は知らなかったようですな?失敬失敬」
みんな知っているんだぞ、知らないのはお前だけだぞ?と言いたげに顔が笑っていた。
ローズマリーはちらりと横目で父親を見るとその顔は青い。
タイミングを見計らって伝えるはずの重大事項を、他者によってカミングアウトされたのだから青くなるのは分かるが、初老の男性の目的はただの嫌がらせか、はたまた父親の失脚を望んでいるのか…。
ローズマリーは盛大に溜め息をついてから、この際だと感情に身を任せた。
「そんな話…そんなのとっくに知ってますが何か?」
アレキウスから聞かされた話だが、それでは体裁が悪いので誰にというのは省いた。
「妾の子が好き?そりゃそうですわな?あんたらみたいな薄汚い打算的な奴よりアレキウスはよっぽど純粋で大事な友達だよ!」
「なっ?!」
「聞こえなかった?人との付き合いを利害関係でしか図れない性根の腐った奴じゃあねぇって話!」
フン!と鼻息を荒くするローズマリーに初老の男性はポカンとしていた。
否、男性だけではなくて父親もアレキウスも、招待客全員が口を開けて呆けることになった。
「ろ…ローズマリー…?」
父親が恐る恐る話しかけるとローズマリーはどっかりと椅子に腰を据えて「フン」と、鼻を鳴らした。