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ダンダリオン王国、お日柄もよく晴天なり。
ローズマリーは色とりどりに咲き誇る華々があるウォールデン家自慢の庭園の上座に居た。
安楽椅子に厚手の膝掛けが用意された。
「この度は本当に災難でしたね?」
「え、ええ…」
「そうだ!今度是非我が領地へ来ませんか?王都より静かで療養にも適してますよ?」
「お誘いありがとうございます。ですがこの度はただの捻挫と打ち身…療養は必要ありませんわ。ご領地へはまたいづれ…」
ヒクヒクと頬の筋肉を痙攣させながらローズマリーは相手の角が極力立つように断っていく。
(しっかしまぁ、次から次へとよく沸いて出てくるものだ…それだけウォールデンはおいしい家なのか?)
声に出して言えないローズマリーは心の中で毒づく。
此処に居る大半は打算でローズマリーに近づいているのは分かりきっていた。
もしローズマリーがウォールデンの嫡子ではなく、妾の子であればこんなにも人は近づいてこないかもしれない。
ため息を付きたいところだが、ついたらついたで面倒なことになりそうなのでつけなかった。
そうしてる間にローズマリーがよく見知った人間が挨拶に来た。
「この度はご災難でしたね、ローズマリー嬢?」
「マァアレキウス様!ワザワザオコシクダサイマシテアリガトウゴザイマス」
お互いに社交界専用の仮面を張り付けながら挨拶を交わした。
アレキウスは先日来たときとは違い、貴公子然の格好をしており、顔には爽やかな青年面を浮かべていた。
「宜しければこちらをどうぞ」
「あら何かしら?」
この嫌味ったらしく憎たらしい顔を今すぐにでも頬を力一杯捻りたい衝動を堪えつつ、ローズマリーはアレキウスの付き添い人から手土産を受け取る。
中身は開けずとも香りで分かった。
「っ、これ…!」
ついいつもの癖でアレキウスに話し掛けようとしたところをアレキウスは見事な仮面笑顔で遮った。
「ええ、我が伯爵家領地の特産品である茶葉にございます。ローズマリー嬢がお好きだとお聞きしたもので」
甘くフルーティーな香りを持つ茶葉は南側に領地を持つエバン家の特産品である。
「まぁぁぁ!ありがとう!リサリサ!これ入れて?」
「畏まりました」
リサリサとはローズマリーの専属の使用人である。
後ろに控えていたので呼び掛けにも直ぐ様反応し、ローズマリーから茶葉の入った缶を受け取るとリサリサはその足で会場に設けれたお湯やらを用意した場所へと向かっていく。
その様子に会場が静まった。
ローズマリーはアレキウスに向き
直ると会場の雰囲気にピリピリとしたものを感じてアレキウスに向かって目を細めた。
その返事は「お前…状況読めよ…」と、言わんばかりである。
ハッと気づいたローズマリーは周囲に目配せしてからリサリサに向かって声を発した。
「り…リサリサ!皆様にもアレキウス様からの頂き物を振る舞って頂戴?」
だが、既に後の祭りであることにローズマリーは冷や汗を流していた。