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アレキウス・エバン。
ローズマリーの幼馴染みにして、エバン伯爵家の三男。
容姿は母親が南方の血が入っているためか褐色の肌に絹糸のように輝く金髪をしている。
そして目は翡翠のような色。
昔からローズマリーと遊び、良いことも悪いこともアレキウスと経験してきた。
アレキウスは父親の知らないやんちゃなローズマリーを知っているといっても過言ではない。
「アレキウスぅ~実は前世で男だったんだ~」
「階段から落っこちて頭打ったか?!」
アレキウスは訝しい顔をしながらローズマリーを一瞥する。
「ちがーう!確かに頭も背中もケツも打ったけどその衝撃で思い出したんだよ!男だってこと!」
どうやらローズマリーは小さい頃から男だと言っていたようだがアレキウスは相手にすらしていない。
「へぇーそらすげぇなぁ!っで何?何の話だっけ?あぁオフィーリアは見舞いには来ねーってさ!残念だったなぁ〜」
「話かえんな…ぶちのめすぞ…」
「おーおー怖いなぁー」
アレキウスは用意されたお茶菓子を全部食べ終え、最後の締めに紅茶を啜っていた。
何を言おうがアレキウスは冗談としか捉えていないのだろう。
「お、お前なら信じてくれるって思ってたのにあんまりだ…あんまりだよぉ〜」
「はいはい。んじゃあ俺帰るわ~また茶会でな~」
よっこいせと立ち上がったアレキウスをローズマリーは「さっさと帰れ!」と、追いやる。
嵐が去ったように静かになるローズマリーの部屋で、一人ため息を漏らした。
どうやら自分が男であったという事は周りからすれば冗談に聞こえるらしい。
「これ…どうすれば信じてもらえるんだ?」
漸く寝返りが打てるようになるほど痛みが引いた体で使用人が用意してくれたふかふかのクッションを背に預けた。
自分の掌を窓から差し込む光に当ててみた。
細く白い指に綺麗に整えられた爪はどうしても男性には見えない。
アレキウスは半ば冗談と聞き流してくれたが父親はそうはいかないだろう。
きっと階段から落ちたと同時に頭をぶつけたのかと心配されるし、新しい家族に会うのを先伸ばしにされるに違いない。
「諦めも大事なのか…」
どちらにせよローズマリーは心と気持ちが男だと言うことを隠して生きていくしかなさそうだ。