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寝たきり病人生活3日目にしてローズマリーにお客がやってきた。
「よっ!病人!」
「ア…アレキウス…ってか病人じゃねーよ。怪我人だ」
彼はアレキウス・エバン。
ローズマリーの幼馴染みだ。
「暇を持てあましてるんじゃないかって思って土産持ってきたぜ?」
「ありがとう」
アレキウスは目配せして使用人にローズマリー宛の土産を持ってこさせた。
「お、おま…これ…」
「暇だろ?」
「暇だけどさ…何のつもりだよ?これでお前と文通しろってか?」
アレキウスが持ってきたのは色とりどりのレターセットだった。
明らかに高級感が漂うソレにローズマリーはどう対処すべきか悩む。
「チゲぇよ!10日後にお前のお見舞い会があるから先に準備してやったぜ!俺って優しいなぁ~」
そんなに生えてもない顎をショリショリと撫でながらアレキウスは自分を褒め称えているが、傍らのローズマリーはあんぐりと口を開けた。
「お見舞い会?!」
「階段から落ちた無様なローズマリー嬢を見舞おうと、貴族様連中がやってくるんだぜ?よかったなぁ~心配してもらえて」
「いやいやいや、そんなこと頼んでない!」
「まぁ、階段から転げ落ちた無様なウォールデンの跡取り娘に取り入ろうって魂胆でもあるわな?」
わなわなと震えるローズマリーにアレキウスは容赦がない。
否、この男は昔からローズマリーに容赦がないのは分かっていたが、労りの言葉よりも先に衝撃の事実を話す。
「あり得ねぇ…立場は理解していたが思ってたよりヘビィだ!」
「今更だろ?」
アレキウスは使用人が用意してくれた紅茶とお茶菓子を無作法に頬張った。
「因みにだ、お前が元気であればお見舞い会ではなくて新しい母親と妹の御披露目ティーパーティだったんだぜ?」
「ふへぇ?!」
またもやぶちこまれる初耳の弾丸にローズマリーはすっとんきょうな声まで出た。
「新しい母親と妹ぉ?!」
それにはアレキウスの方が驚く。
「お、おう?侯爵の新しい奥方とその間に生まれた15か16になる娘だよ?もしかしてまだ紹介されてなかったとか?」
「あ、ああ…」
あちゃーとわざとらしく額を押さえるアレキウスにローズマリーは「そうだったのか!」と、叫んだ。
階段から転がり落ちたあの日、父親は自分に新しい母親と妹を紹介しようとして呼びに来たのだ。
それを見事にぶち壊してしまったようだ。
「気に病むな?」
「病むわ!あの父親が意を決して話してくれようとしたのに!」
ふかふかの枕に拳をぶつけた。
ローズマリーと父親の関係は決して良好ではない。
たまに顔を合わせても会話という会話すらなく、ローズマリーで父親が国の中でどんな役職に就いているか、領地では現在何が盛んで何が特産かすら興味もなかった。
それだけ親子の縁も情も薄いが今回ばかりは父親に申し訳が立たないと思った。
ローズマリーと父親は実の親子ではあるが、一緒に過ごした時間は少ない。
母親はローズマリーを産む以前から体が弱く、産んでからは尚更。
産後の肥立ちが悪く月の半数以上はベッドの上で過ごしていた。
ローズマリーの記憶にも母親はベッドの上で穏やかな笑みを浮かべながら話をしてくれた存在であり、他は殆ど乳母と一緒に居た。
因みに父親が母親の部屋に居たことはない。
父親は仕事が忙しいと言って病床の母親に会いに来ることはなかったようだ。
だからローズマリーは父親を「自分達は所詮それだけの存在だったのか」と、思っていた。