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「打ち身と捻挫ですな」
ウォールデン家お抱えの老年の医師はローズマリーの背中に打ち身に効く軟膏を塗ってくれた。
ミントの成分が含まれているのかして塗られた箇所は爽やかな香りが漂う。
「全治1か月というところです。くれぐれも無茶だけはなさらぬよう」
ガチャガチャと道具を片す医師は父親に頭を下げる。
父親は些か安堵したようでベッドの横に置かれた椅子に腰を下ろした。
「ローズマリーに大事な話があったのだがまたの機会にしよう…暫く食事は此処で取りなさい」
「あ…、はい…」
ローズマリーの頭を撫でながら父親は安堵した様で立ち上がると部屋を出ていった。
何人かは父親に従い部屋を出たが、ローズマリーのお抱えの使用人達は後片付けを始めていた。
「しっかし、やっちまったな~…」
うつ伏せの状態から寝返りすら打てないローズマリーは首だけを巡らせる。
周りで忙しく働く使用人達はローズマリーの独り言に目を丸くしていた。
「ん?何ですか?俺の顔に何かついてるとかですか?」
「い、いえ!とんでもない!お嬢様のお顔はいつ見ても麗しいでございますよ?」
狼狽える使用人にローズマリーは首をかしげた。
さっきから自分に向けて使用人は「お嬢様」とか呼ぶが、自分はそんな存在ではないと階段から落ちてからのローズマリーは思っていたし、何よりさっきから喋ってるはずの声が女らしい。
「あっ、すんません!鏡貸して貰えます?」
忙しく動き回る使用人にローズマリーは鏡を所望した。
本来動けるなら自分で取りに行くが、薬を塗ってもらった上に、暫くは動くなと言われた手前、側にいる人を呼び止めるしかなかった。
「はい、お嬢様」
「ありがとうございます」
金の持ち手に装飾が施された鏡を手渡されたローズマリーはその顔に驚いた。
「な、な、な?!なんじゃこりゃー?!女の顔じゃねーかー!」