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初投稿です。
「ローズマリー」
そう呼ばれた少女は「はい、お父様」と、答えた。
陶器で出来たような冷たい双貌に抑揚のない無機質な声音をした少女…ローズマリーは前を歩く父親の背中を淡々と見つめていた。
部屋で詩集を読んでいたローズマリーは突然父親に「話があるからついて来なさい」と、言われて静かにその背中を追った。
階段一面に敷き詰められた絨毯の上に歩みを進めた瞬間、ローズマリーは不覚にも足を捻った。
急にガクンと崩れ落ちたローズマリーはそのまま前を歩く父親の横をすり抜けて、頭から転がり落ちていく。
父親はローズマリーが階段から転がり落ちる音に振り返るよりも早くローズマリーがその脇をすり抜けて落ちていく。
そして下段の絨毯に大の字で寝そべるローズマリーは、落ちた衝撃で一瞬目の前が真っ白になってから「ハッ」とした様子で気がついた。
(なに、やってんだ?俺…?)
見上げた天井には豪華な硝子で出来たシャンデリアが煌びやかにあって、此処が貧乏な家屋でないのが一目瞭然だった。
「ローズ!大丈夫か?!誰か医者の手配を!」
「は、はいッ!」
「ローズ!しっかりしろ!ローズ!」
あわてふためく父親と近くにいた使用人達が悲鳴を上げる中、ローズマリーの頭は混乱していた。
(此処どこだよ…俺は一体を何してるんだ?)
周囲がバタバタと慌ただしい中でローズマリーの意識は違うところにあって、父親の声が少しだけ遠く聞こえていたが、階段と床に打ち付けた背中が痛いと悲鳴を上げ始めて起き上がった。
「いって!いッてぇー!何だぁ?!」
背中を擦りながらローズマリーは背中やお尻や後頭部を擦る。
床には絨毯が敷き詰められているがその下は冷たい大理石で出来ているのと頭から転がり落ちたので痛いのは当たり前の話だ。
「あいたたた…もろにケツ打った…」
「ローズ!大丈夫、か?」
「これ大丈夫に見えるかぁ?!」
ローズマリーは自分を心配して覗き込む紺碧の瞳を怪訝そうに見つめ返した。
「イオニア様、医者が参りました」
「早ッ!」
「そ、そうか!ならばローズを部屋に!そちらで診てもらえ!」
「畏まりました。ローズマリー様、失礼致します」
父親の指示で若い容姿をした執事はローズマリーの体をふわりと抱き上げ、横抱きにされた体にローズマリーは「おい!」と、慌てて声を上げたが執事は無視。
そのまま主である父親の命令に従ったのだった。