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アンドロイドに夢を見る。  作者: ナベ
第1章 先輩と後輩、ときどき少女
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1‐4.「いつもの」をどうにかしたいが

 HMDヘッドマウントデバイスが更新をしている音だけが聞こえるようになってから数分が経った。

 双葉は終わりを今か今かと待ちわびた様子で、両手が今にも梨乃にしがみつきそうな感じだ。


『更新九五パーセント。もうそろそろ終わりです』


『よし。あとは更新したデータをインストールすれば完了だな』


「了解です」


 数秒後、ブンッ、という音とともに実験器具と頭の隙間から光が漏れ出し、小松が定期更新の終わりを告げた。


『問題なかったな』


『報告書に書く内容が増えることもなく。よかったよかった』


 生田と藤原は立場上、定期更新のたびに全責任を負うが、何事もなければ「問題なし」と報告すればいいだけで済む。胸を撫でおろすのも当然だ。


「梨乃、終わったぞ。お疲れ」


 睡眠薬は、定期更新を終えてHMDを外したときに効果が切れるようになっている。

 梨乃は目をこすって大きく欠伸をする。


「ん……ふわぁ……」


「梨乃ちゃーん、おはようございまーす!」


 両手を高く挙げて無防備になった小さい体に、双葉は容赦なく飛び込む。


「んぐっ。邪魔。離れてよ」


 押しのけようとするも、その力は完全ではない。梨乃も満更ではないようだ。


「梨乃ちゃんは可愛いですねー。さすが先輩の娘ですよー」


「可愛くない」


「またまたー。お顔真っ赤にして照れちゃってー」


「やめて」


 そんなくだらないやり取りを見て、一ノ瀬は無意識に二人の頭を撫でていた。


「っ……」


 梨乃は目を閉じてそれを幸せそうな顔で受け入れ、自分から一ノ瀬の手に頭をぐりぐりとこすりつける。

 一方で双葉のハイテンションは勢いを失い、顔を真っ赤にして挙動不審になっていた。


「え、あ、先輩……。あの……」


「あ、悪い。つい」


 学生のときからのこの癖は、いまだに直らないらしい。


 双葉から一ノ瀬へのアプローチは直球の中のド直球、包み隠さず好きの嵐。加えて、面倒くさそうにあしらう一ノ瀬の反応は、振り向かせてやりたいという彼女の対抗心を増幅させる。

 一向に振り向かない中で一ノ瀬がときどき見せる優しさは、双葉にとってはデレだ。彼自身は無意識だが、前触れもなく不意に起こる甘やかしは、双葉の思考を停止させるには十分だ。


「顔真っ赤ー。照れてるー」


 お返しだとばかりに赤く染まった双葉の頬をつつく。


「うー、うるさいなー! 梨乃ちゃんだって赤くなってるじゃん!」


「えっ!?」


 手をわちゃわちゃと振り回すが両腕はすでに双葉に捕らえられており、慌てて顔を隠そうにもできずにいる。

 それを見てまた一ノ瀬が梨乃の頭を撫で、双葉がずるいと頭を押し付ける。

 この三人はいつもちょっかいを出し合い、一ノ瀬と双葉に関しては、傍から見れば研究員という自覚は皆無。


『おい、そろそろ戻ってこい……。梨乃はトレーニングルームに行け……』


『もうお決まりですねー……』


 インカムとは別に部屋に設置されたスピーカーから、怒りを通り越して呆れた生田と小松の声が聞こえてきた。

 それと同時に実験室の扉が開き、藤原が頭を押さえて現れた。


「お前ら、ほんとに飽きないな」


「俺は被害者です」


「また私を悪者みたいに」


「いいから早く行け」


 藤原に至っては、呆れをさらに通り越し一周回って違う怒りが湧いていた。

 三人がトレーニングルームに行ったのを確認し、監視室に戻って嘆く。


「あいつら、どうにかならないのか……」


 定期更新を終えて一息ついていた生田と小松も、同じことをすでに考えていた。


「何かきっかけがあれば変わるんだろうか」


「どうなんですかね。正直、気が進まないです」


 藤原と生田がゆっくり首を縦に振る。


「二人はあれでも優秀の中の優秀だからな。この研究所に必要な存在だ」


「たしかに、先輩たちは俺たち後輩にとっては神様みたいな存在ですから」


「小松にとっては特にそうだろうな」


「はい。だからさっきもあんなこと言っちゃって、申し訳なさしかないです」


 小松はその後悔をブラックコーヒーと一緒に飲み込む。他の二人も、今後何か転機がないかと祈りつつコーヒーを啜った。

 三人がいなくなった監視室で、小松は彼らとの出会いを思い出していた。


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