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アンドロイドに夢を見る。  作者: ナベ
第8章 変わりゆく研究所
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8‐1.彼らの心

 藤原も生田も小松も、そして梨乃も、一ノ瀬と双葉が離れたことで今までとは違う日常が始まることは理解していた。



 藤原と生田にとっては、部下でありながら自分たち以上の実力と働きをしている二人を、たとえ一時でも自分たちの手から離すことになる。

 普通の企業よりも作業量が圧倒的に少ないこの研究所の仕事でも、二人がいるのといないのとでは全然違う。


 そもそも梨乃の開発者はあの二人であって藤原と生田ではない。生みの親などと都合よく梨乃の世話をあてがったが、挙句の果てには暇になるほどに自分たちの仕事はなくなった。


 だが今日からしばらくは、二人の作業もしなくてはならない。現場監督という立場故か、必要以上の重圧が伸し掛かる。


「負けてらんないよな」


「そうだな。気合い入れないと」


 藤原と生田は改めて覚悟を決める。



 小松にとっては、言うまでもなく一番付き合いの長い二人がいなくなり、寂しさが露呈していた。業務は捗らないし、最近始めた勉強の内容も頭に入ってこない。

 気分転換に梨乃のトレーニングルームで体を動かしても、まったく気分転換にならなかった。それどころか、ますますやる気を失っていた。

 小松の感情は寂しさだけに留まらない。


「さすが先輩たちですよね。世紀の大発明とまで言われるくらいなんですから」


「俺たちも鼻が高いよ」


「ワーカロイドシリーズなら先輩たちが適任ですね」


「そうだな。自慢の部下たちだ」


 藤原と生田には、先輩を尊敬する後輩としか映らないが、同じ大学の同じ学科だったせいか無意識に自分と二人を比較してしまう。心では嫉妬や劣等感も併発していた。


 だがそこはクールな性格というべきか、小松は自分だけの問題として一人で抱えることにし、他の誰にも話さないことにした。



 梨乃にとっては、親のように接していた二人の「いつも」がなくなる。起こしてくれることも朝食を作ってくれることもなく、自分で起きて研究所の食堂を利用することになった。

 生田に連れられ、梨乃はワーカロイドから朝食を受け取って一口食べる。


「どうだ、味は」


「美味しいよ」


 食堂の料理はもちろん美味しい。聞いた話では、有名料理店のレシピを極秘で受け取り、それをワーカロイドにインストールしているらしい。

 しかし梨乃は、出た感想が嘘であるかのように浮かない顔をしている。


「やっぱり、二人の料理の方がうまいか」


 図星だった。ロボットとして料理の味を分析すれば、繊細で緻密な計算と料理人の力が成しえた料理の方が、荒っぽくて適当な味付けの二人の料理よりも断然美味しいはずだ。


 でも何かが違った。


 結局答えが出ないまま朝食は終わった。



   *   *   *



 一ノ瀬と双葉がテクノに戻ったその日、国会では新たな制度が可決された。

 国会が終わった直後、石田首相から研究所に連絡が入る。藤原と生田は気分が乗らないのを隠してそれとなく対応した。


『ニュースを見てもらえれば分かると思うが、精神測定が義務化されることに決まった。ほとんど全会一致だったよ』


「ついに、ですか。これで梨乃の精神レベルを上げることができますね」


『長い間放置してすまなかった。データが足りないとはいえこっちの責任だ』


「石田さん、頭を上げてください」


 石田はモニタの向こうで頭を下げ、また上げる。下を向いたときの表情はもちろん見えなかった。


『少しすればすぐに高校生くらいまで引き上げることができるだろう。その準備はすでに始めている。データが集まり次第連絡する』


「分かりました、ありがとうございます」


 重い雰囲気に耐え切れなくなった藤原と生田が通信を切ろうとすると、モニタ越しに手を止められる。


『ああ、ちょっと待ってくれ』


「何でしょうか」


 二人としては一刻も早く画面を暗くしたいところだが、石田の滅多にない慌てようを見せられてしまっては仕方なかった。


『二点ほど研究所に報告だ。津田にデータを送らせた。確認してみてくれ』


 言われるなり、別のモニタで送られてきたデータを開く。


 一つ目は梨乃の精神アップデートについて。性格に関してはデータがないが、違うデータなら回収済みだということ。そのデータとは――。


「ワーカロイドホームの、テストデータ……?」


 一ノ瀬と双葉が開発したワーカロイドホームの初期型は、各家庭に実地テストとして購入、配置されたもので、それに加えて二型も販売している。それぞれの機体から家事の経験を集積すれば、経験値はかなり高い。


『初号機にワーカロイドのデータをインプットし、研究所内の家事雑務を行ってもらうことが目的だ。良い経験になるだろう』


「……分かりました。えっと、二つ目は……」


 送られてきたデータの下の方を見ると、そこには「二号機の開発およびセキュリティエンジニアの導入」と書かれていた。


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