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そのとき私は


 今日は楽しかった。


 最初はどこに行くかも教えてもらえずに不安だったけど、ずっと行きたかった水族館に連れてきてもらった。

 いろいろな海の生き物を見たり、触ったり……。


 特にイルカのショーは水がかかるとは思ってなくて、びっくりした。

 私が席を見つけたとき一ノ瀬さんはその席は嫌だ、みたいな顔をしてたから、水がかかることを知ってたんだと思う。

 でもイルカたちの演技はすごかったし、水がかかるのも楽しかった。



 最後に売店に寄ることになった。

 さっき見ていた生き物たちのグッズや食べ物がたくさん売られている。

 私のわがままで寄ってもらったのに、正直ピンとくるものがなかった。

 隣の棚を見ようと移動する。



 ――私の意識はそこで一度途絶えた。



 そもそも私は機械だから、人間でいう意識とはまた違うかもしれないけど、でも実際に五感として作られた部位からの情報が遮断された。



 ようやく五感が戻って入ってきた情報は、狭く暗い部屋。小刻みに何かが震える音も聞こえる。

 よく目を凝らすと、小さい水槽がいくつも並びその中で小さい生き物が泳いでいるのが見えた。震える音の正体は、この前パソコンで見た金魚の水槽に入っていた機械だ。


 早く三人のところに戻らないと。

 そう思った私は立ち上がろうと手に力を入れたが、それ以上の力に抑え込められた。


 自分の体を見てみると、手は背中の方で縛られていた。足首と膝も同じ。


 悪寒が走り、体が固まる。怖い。

 助けて――。


「――っ!」


 私の叫びは遮られ、鼻から声にならない音だけが虚しく漏れる。

 体を縛られていることに意識が向いて、口を塞がれていることに気が付かなかった。



 精神レベルが思春期の未熟な思考回路、もとい電子回路で考える。


 犯人は誰なのか。

 棚を移動した直後に気を失ったから、顔は見ていない。

 目的は何なのか。

 私がアンドロイドだと知っていてこうした? それとも何も知らずに?

 ここはどこなのか。

 隣の水槽の中の生き物は、クラゲのような形をしている。深海エリア?

 どうやって助けを呼ぶか。

 現状、無理。待つしかない。

 希望が一つだけあるとすれば、私に付けられているGPS。研究所と同じように使えて、一ノ瀬さんたちがGPSマーカーを見てくれれば、見つけてもらうことができる。



 犯人は今のところここにはいないけど、いつ戻ってくるか分からない。

 一刻も早く見つけてほしい。


 そう願い始めてからどのくらい経ったのか。外から声が聞こえる。


「梨乃! そこにいるのか!?」


 一ノ瀬さんの声だと、一発で分かった。鼻だけで出せる限りの返事をした。


 そこからはすぐだった。鍵が開けられ、一ノ瀬さんと双葉さんが飛び込んできて、あとから静かに小松さんが入ってくる。

 見慣れた顔が見えて、私の目からは箍が外れたように涙が零れ落ちる。


 自分では機械らしく冷静に状況判断していたつもりが、人間らしく不安で仕方なかったらしい。


 紐と口に貼られていたテープを外してもらい、止まらない安堵から一ノ瀬さんの胸に飛びついた。

 背中と頭を撫でられると、胸のあたりが温かくなる。


「遅くなってごめんな」


「んん。私も、一人で勝手に行っちゃって、ごめんなさい」


 私が棚を移動したせいで、みんなに迷惑をかけてしまった。謝ってから、また一ノ瀬さんの胸で泣く。



 一ノ瀬さんに抱きかかえながら水族館を出ると、もうすっかり夜だ。

 夜だけど、外はキラキラ輝いている。


「梨乃、見てごらん」


「わあ……すごい……」


 周りのビルのライトが海のように広がっていて、いつの間にか私の涙は止まっていた。


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