この手はもう、離さない。
18/12/21 17:29 裏設定コーナーにそれぞれ転生後を少し追加。
ちょっと展開が強引かな?と思いつつ、とりあえず区切りはついたしと投稿してみる。
女の子のほうはヤンデレかも。
診断メーカーの「小説のお題決めったー」から、「リアンカは『羊と令嬢が城山でぶっとばすお話』を書いてください。 」というお題で書きました。
リアンカとは、小林晴幸様の作品「ここは人類最前線」というシリーズの主人公の名前です。診断が日替わりで無いため、作者の名前ではバリエーションが尽きてきたので、名前をお借りしました。
※リアンカちゃんが書いたという想定で執筆した訳ではありません。あくまで名前を借りただけで、そんな事は一切ありません。
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「ふわっふわっの毛並みのエルダーラム?」
「はい。あっちの山の城の奥に封印されているとか」
主である少女と見知らぬ商人っぽい男の遣り取りに、俺はうへぇ、面倒な事になる…と、死んだ魚ような目で思った。
商人っぽいのが帰った後、主はリラックスした格好になり、俺はますます死んだ目で彼女から目を逸らしていた。
「あら、ライ?なんで死んだ魚みたいな達観した目で居るんですの?」
不思議そうに首を傾げる主。ヲイ、そんな目にさせてるのは誰だと。今までの前科もそうだが、現在進行形の状況が一番キツいだよコンチクショウ!
つうか今までどれだけ俺が苦労したと…!留守番言い渡された同僚が主に会いたいー!って暴動起こしたり物凄くものすごーく大変だったんだぞ!?
『ルシィが、あのルシィが暴走しないなんて、明日は世界が滅びるのか…って思ってるだけだよ、羊バカ』
「なんで断言!?それに、わたしは羊バカって訳じゃないんですけど…。ただ、心配なだけですよ」
あっさりそう言ってのけた主。その柔らかな微笑みに見惚れた。でも、一瞬でイラつきが上回った。
『こんな目をするのは何回目だと…。というか同僚の暴動を治めたり、何も考えずに突撃して危うく死に掛けた時の尻拭いしたのは誰だと思ってるんだバカ主!』
あの時はすっごい心配したんだぞ!皆!っていうか同僚の熱意に押されて俺は直ぐに冷静になれたけど!だから主を助けに行けた訳だけど!
「うん、ライですね。あと主って呼ばないでくださいね。それに、仲間の暴動は纏め役の仕事ですから、心配する事では無いですわ。死に掛けたと言われても、心臓がちょっと止まっただけじゃないですか。ライが直ぐに助けてくれましたし」
ニコッと微笑まれながらそう言われると、これ以上何も言えなくなるじゃないかチクショウ!
でもあの状況を心臓が止まっただけって言う感性がホント解らない。全身自分の血で血塗れになって手足を変な方向に曲げて意識不明だったアレを、心臓が止まっただけだと?
というか使役として命令されてる訳でも無いのに、そんな顔でそんな事言われるともう黙るしか無いのが悔しいんだが!
「とりあえずライはお留守番ですね。でもライと同じかそれ以上の戦闘力を持つとすると…。うん、ライも戦闘準備はしておいてください。いつもの子で敵いそうに無いなら、ライを召喚しますから」
『はぁ…了解した。――そういう訳だから、暴動は起こすな。つか起こしても治めんぞ』
ドアからひっそりと覗き込んでいた同僚に向かって、低い声で釘を刺す。
「ライ、カッコイイ…!」
すると、キラキラとした目で主が見詰めてきた。
『いや、あのな…』
呆れた目を向けると、きゃあきゃあと騒がれた。
まさかこれが見たいから暴動を放置してるとか…それこそまさかなのだが。
なのだが…有り得そうだと思ってしまう。
ま、まあ、見ない振り、気付かなかった振りだな。うん。俺は何も気付かなかった、俺は何も気付かなかった。
「女の子かな、男の子かなー♪」
るんるんな様子の主。
『楽しそうだな、ルシィ…。どっちでも良いからとっとと行け』
「私は男の子が良いなー♪」
『…へ?』
意外だった。女の子を連れてきて番として外堀埋めて子供産ませるぐらいはすると思ってた。
そうなったら断固抵抗だ、もちろん。主のお守りでこっちは精一杯なんだ、女を作る余裕なんてあるか!
「だって…」
いつだってスパッと余計な事まで言う主が、言いよどんでいる。…珍しい。
『だって?』
気になって問い返すと、
「お、男の子だったらライと似た毛質かもしれないし!?そしたら全身にライのあの最高の質感を感じられるかも知れないじゃん!」
と、主は慌てた様子で言う。
なんか隠してるな。まあ、害があるって訳じゃ無さそうだし、まあいいか。
『あ、そう。別に巨大化すれば埋もれるのも出来るけど、それとは別なのかそーなのか』
返事ついでにちょっと本音を言う。嫉妬混じりなのは否定しない。
ちなみに、今の大きさは主の腰ほどまでの大きさで、今現在も背中の辺りを撫でられている。今の大きさだと全身埋まるのは不可能だが、巨大化して家ぐらいに大きくなれば余裕だろう。まあ、街の中でやると目立つかもしれないが、それは人気の無い荒野にでも移動すれば良いだけ。どっちにしろ、やってないだけで気付いてると思ってたんだが…。
「そうなの!?」
ヲイ、気付いて無かったのか。家ぐらいまで大きくなった事、何回かあるだろうよ?! 埋まりたい…って漏らしてた時もあったし、気付いてないとは思ってなかったんだが。
うん、驚愕という反応が返ってきて、こっちが驚いたよ。
『うんうん、だからとっとと行け』
話が長引きそうだし、ブレーキが効かなくなる前に出掛けさせないと。
そう思って、促す。
「――はっ、そうだった!」
忘れてた!と台詞の後ろに付きそうな様子で準備し、部屋の外に出て行った主。
エルダーラムの捕獲、なんて大仕事、あの主が忘れる訳無いと思うんだが、そう見えた。
バタバタとした走り去る主を見送り、ひっそりと溜め息を吐く。
『ああもう、ホント目に毒…』
『目に毒ー?』
ぼそりと呟いた言葉に、近くにいた同僚が反応した。焦った。
『気にするな』
『んー、解ったー』
主は、この部屋の中だと、大体下着も同然の薄着になる。ブラとショーツをギリ覆うぐらいの布地を巻きつかせてる、以上。ってカッコなんだ。
羊の魔物に転生したとはいえ、人化も出来るし結構人間の感覚が残ってる身としては、大分キツい。
凄い美少女でプロポーションも良いから余計に、キツい。
人化も出来ない同僚はなんとも思わないっぽいんだけど、なぁ…。
人化出来るヤツにはある程度の人間に近い知性がある、っていうのは主も知ってる。
ただ、俺が人化出来ると知らないから、出来ないヤツと一緒の扱いされてるってだけで。
申告しない理由?人化姿が色合い以外まるっきり前世と一緒だからだよ!あっちも転生者っぽい言動が見え隠れしてるせいで、下手に人化姿見せて主が前世の友人辺りだったらどうなるか…!絶対爆笑されると確信出来るようなヤツしか居ない。たぶん、いつも通りに平然としてくれるのは恋人だけじゃないかなぁ…。留美、元気にしてるかな…。後を追わないって約束したから自殺はしてないと断言出来るが…。
あ、ストラップ。主が大事にしてるやつだ、これ。届けに行くか。
するっと部屋から抜け出し、俺は主を探して廊下を歩き始めた。
***
ライが前世の恋人を想って心配していた、丁度その頃。
「『雷吾くん、どこに居るのかなぁ…』」
空を見上げ、ルシィが、ぽつりと日本語で呟いていた。
「明るい栗色とはいえ、ふわふわした髪の毛だったし、絶対に羊に転生してると思うんだけど…」
人は既に世界中を調べ尽くし、それらしい人物が誕生したら直ぐにルシィへ報告されるような体制が構築されている。人でないなら魔物、動物だ。そんな発想で、あらゆる動物を収集しているのだ。羊に力を入れているのは、雷吾が羊を連想するふわふわとした見た目の持ち主だったからだ。
「一番怪しいのはライなんだけど…。わたしの知る雷吾くん、あんな性格じゃないんだよなぁ…。センサーも大分鈍ったから、正確性が無いし…」
そう日本語で呟くルシィ。
ルシィはまず、雷吾が恋人と友人だと大分反応が違うタイプだったという事を思い出そう。
そして、自分が留美だと公言している訳では無いのだから、相手からすれば友人か世話の焼けるヤツか…どうにしろ、恋人の対応をする相手ではない、という事に思い至ろう。
ぶつぶつと呟き続けるルシィ。その言葉を聞きつけ、ライが駆けてきた。
『留美!? ってルシィ?』
「え!? あれ、ライ?どうしたの?」
『あ、主に忘れ物持ってきたんだ』
ライは口に咥えていたそれをルシィの掌に落とす。
「あ、御守り! ありがとう、ライ」
『いや…』
そのまま、しばらく沈黙が続き――、
「ライって、雷吾くんなの? わ、わたしは留美なんだけど!」
ルシィが思い切って問いかけると、ライは小さく頷いた。
『…うん。留美の恋人の雷吾です』
「っ、雷吾くん!」
勢い良く突進してきて、そのままライ――雷吾をぎゅうっ、と抱き締めるルシィ――留美。
『ちょっ、留美、苦しい!ちょっと離れて!』
「雷吾くん!雷吾くん!」
『留美!人化するから一旦離れて!』
「雷吾くん!会いたかった!」
『留美、苦しい! 人化したいから、離れて! ――…オレにダメージ与えるなんてどんな握力してるんだよ、ホント』
「じんか……。人化!? 雷吾くん人化出来るの!?」
やっと留美の力が緩み、脱出に成功した雷吾は、少し距離を取って人化した。
ちなみに、距離を取ったのはせめても抵抗と言うべきか、留美の暴走が一刻も早く治まる事を願ってのことである。
「久しぶり、留美…って、うわ!?」
少し照れくさそうに、人化した雷吾は声を掛けるが、興奮した留美にあっという間に距離を詰められ、抱き締められる。
「雷吾くんだ!ホントに雷吾くんだ! 見た目ちょっとしか変わってないんだ!」
「うん。髪と瞳の色は変わっちゃったけど、造形自体は全く変わってないはず」
「ううん、眉が0.02センチ短いし、睫毛の量が20本ぐらい増えてる。些細な差だけど、変わってる」
「留美、いつも凄いな。睫毛の本数なんて判ってたんだな」
「わたしは雷吾くんの事ならなんでも知りたいから」
「そっか」
にこにこと嬉しそうな雷吾に、留美も嬉しくなる。
「でも、わたし、こんなに近くに居たのに雷吾くんの事が判らなかった」
「あ、そういえば。なんで解らなかったの? 留美の、俺が地球のどこにいても誰と何をしてるか分かるセンサーはどうしたの?」
柔らかい口調で、純粋に疑問に思っている事が伝わってくる声音だ。
「鈍っちゃったの。違う世界に転生するのは初めてだったし…。でも、それは私の中で雷吾くんが確定してなかったから。あと、たぶん雷吾くんが人の形を取ってなかったのも大きいかな。でも、もう大丈夫。ライが雷吾くんだったって解ったし、この体には魔法もあるから、むしろパワーアップしたと思うよ」
「そっか。ならもう安心だな」
「ふふ、そうだね」
***
一度だけ、手を離してしまった。そのせいで、離れ離れになってしまった2人が居た。
異世界で再会出来た2人は、互いに誓った。
もう2度と、この手は離さない、と。
その後、2人――ライとルシィは、いつまでも、いつまでも、離れる事なく、仲睦まじくずっと暮らして居たと言う。
何度も生と死を繰り返しながら、ずっと。
FIN
裏設定コーナー
女の子(留美/ルシィ):死因は事故。男の子に自殺を封じられたため、積極的にトラックに轢かれに行った。それを聞いた男の子は「他の人を巻き込みにいっちゃったか…。自殺禁止にしないほうがマシだったかな…」と頭を抱えていた。転生後は積極的かつ大々的に雷吾を探す。ライを捕獲し彼に主と仰がれ始めた辺りで半ば諦め、ひっそりと羊を集めるに留まっていた。
男の子(雷吾/ライ):死因は嫉妬。留美のストーカー(顔は良いが妄想癖あり)に「あんたさえいなければ僕たちは愛しあえるんだ…!」などと言われながら滅多刺し。女の子の異常な執着心には気付いているが、彼女の執着を心地良く思ってニコニコしながら受け入れている。転生後は留美を探しあちこち放浪するが、ルシィに捕獲された後は彼女を主と定め(魔物の本能)、留美探しは半ば諦めていた。
エルダーラム:羊っぽい魔物の名前。男の子の今世での種族。名前の由来については、エルダー=長老的な意味。凄い、上位存在、などの意味で使用。ラム=若い羊の肉という意味だと解釈している。羊という意味で使用。なお、肉も毛も最高峰。毛の質は個体差がある。あと強い。
お読みいただき、ありがとうございます。
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