2話
拙い文章ですが一生懸命書いたので読んでいただけたらうれしいです
長い長い一日が遂に終わりを迎えようとしていた。この前までは仲間と共に和気あいあいと過ごしていた学校生活がまるで嘘のようだ。
午後の授業も終わり一人黙々と帰り支度を整える裕太の周りでは、絶え間なく笑い声が飛び交っている。自分もあの輪の中へ入れたらどんなにいいことか。
担任の渡部先生はホームルームを手短に終えるとやはり逃げるようにそそくさと職員室へと返っていった。裕太はクラスの厄介ごとを丸投げされた恨みを瞳に込めじっと睨んでいたのだが、結局一度も目が合うことは無かった。
「帰りどっか寄ってく? 」
「いくいく! 久し振りにゲーセンでも行きたいなー」
「めっちゃ腹減ったわー飯食いにいこうぜ」
「ごめん俺今日部活あるからお先! 」
「おうわかった! また明日なー」
高校生の放課後というのは主に三種類――部活に明け暮れるか友達と遊び呆けるか、そして一人とぼとぼ帰るかである。
今までの裕太なら先に挙げた二者以外の選択肢を考えることすらなかったのだがそれは最早昔の話。
中学では部活の助っ人として呼ばれることもあったが高校では裕太の実力が日々努力してる奴らに勝るとも思わえない。頑張っても人数合わせくらいにしかならないだろう。
そして友達と呼べるものが存在しない今、選択する余地も無く自動的に放課後は三者目になってしまうのだ。
アルバイトをして学校外のコミュニティを築くというのも手ではあるが明神高校では長期休暇以外のアルバイトは禁止されている。こそこそ隠れてやっているやつもいるらしいがバレたら生徒指導室行きとなり内申に大きく響いてしまう。
次期生徒会長を視野に入れている裕太としてはあまりにもハイリスクだ。よってこれも選択肢から除外される。
もちろん他のクラスには中学からの友達や高一の頃の友達もいる。そいつらと帰るのも手ではあるが、
「あっ、田辺君もう帰るの? 」
「うん、美穂も帰り? 」
廊下にいた美穂は以前と変わらぬ様子で裕太に話しかけてきた。やはり教室でなければ態度はいつもどおり。裕太に思いを寄せる純真無垢な女の子だ。
「うん! 日直だからまだ帰れないけど……その、たn……ゆうた、くん。もしよかったら一緒に帰らな……近寄らないでゴミ」
「うわっ! ちょ……やめてっ! 」
もじもじしながら黒板消しを両手に近づいてきた美穂は越えてはいけない境界線(教室のドア)に足を踏み入れてしまったようだ。
教室内にはまだ十数名のクラスメイト(ワタナベたち)――よって態度は豹変し持っていた二つの黒板消しが裕太の目の前で一つになった。
「こっち見ないでくれる? 次見てきたら物理的に消すから」
黒板消しに封じ込められたチョークの粉は裕太の机全体に降り注ぐ。それを尻目に美穂は教室から出て行ったのだが、
「田辺君どうしたの!? ごめん、チョークの粉って……ええ! 私がやっちゃったかな? 今拭いてあげるか……だから近づくなっていってるでしょ! 学習能力ないのあんた! 」
美穂は見事な切り返しでまたも黒板消しを裕太の目の前で一つにする。
学習能力無いのはお前だろとツッコミを入れたかったが無限ループに入りつつある状況から逃れようと、裕太は粉をふんだんにまぶされた鞄を持って教室を後にした。
というように別姓である裕太を嫌うこの現象というのは本人達にあまり自覚がないらしい。最初の方はふざけてるのかと思ったが全員が全員あんな感じなので裕太は抵抗する気力も無くしていったのだ。そしてこんな生活が続いてくるとワタナベたちはおろか他クラスの友達まで信じられなくなってしまった。
ああ、これじゃ昔に逆戻りじゃねえか……。
ふと昔の忘れ去りたい記憶が脳裏をよぎる。二度とあんな思いはしたくない、してなるものかとあの日決意してここまで努力してきたのに……。
人間不信になりつつある裕太は人の通りが少ない非常階段を使用し靴箱へと向かう。
「あ、やっと見つけたよ~ 田辺君――田辺裕太君。 ちょっといいいかな~? 」
どこか聞き覚えのある声に振り向くとそこには裕太のクラスメイトである渡辺弥生の姿があった。惜しげもなく伸ばされた綺麗な黒髪は風に煽られまるで生きているよう、そしてやけに胸周りのサイズが合ってない制服に目が釘付けに……おっと危ない!
変態の汚名を着せられる前に自分の目に指を突っ込み視界を奪う。賢明な判断だと我ながら感心してしまう。いや何やってんだ俺……頭おかしくなってんなやっぱ。
「ん、なにしてるの? 」
「いや、なんでもない……ごめん俺ちょっと急いでてさ」
ここ一か月で精神的なダメージをたらふく蓄積していた裕太は今更クラスメイトに友好的に接しようなどと思わなくなっていた。視界はぼやけたままではあるが関わりたくない気持ちを顔に出しその場を後にしようとする。
「田辺君はいいの? このままで」
「いいのって……なんのこと? 」
「何ってクラスの今の状況のことだよ~ がっつりみんなからハブられたんじゃん田辺君」
「え、なんでお前がそのことを知って……」
先程言った通り別姓である裕太を煙たがっているクラス内の状況は当事者であるワタナベたちは認知していない。恐らくだが意識の外でそういうような信じがたい力が働いているのだろう。
よって教室の外とはいえ、この渡辺弥生も裕太が理不尽な仕打ちを受けていることについて一切認知していないはずなのだ。なのになぜ……
「まあ、そうなるよね~ 先に言っとくけど私が特別なだけでクラスのみんなに悪気はないんだよ? それにしてもよく一週間も耐えたねえらいよほんと」
弥生の言葉を裕太は未だ脳で処理できずにいた。だが一つだけわかったのは渡辺弥生が裕太のこれからの学校生活を左右するキーパーソンであるということだ。
「ここじゃなんだし、う~ん……図書室で話そうか」
弥生はにっこりと笑いながらそう言った。諦めかけていた輝かしい高校生活を取り戻すため裕太は弥生の後に続いて図書室へと足を向けた。暗闇の中に突き落とされ絶望していた裕太の心に一筋の光が差したような、そんな感じがした。
その後、目潰しでぼんやりとした視界が元に戻るのに時間は余りかからなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
読みづらいところやわかりにくいところ多数あったと思うのでご意見いただければ幸いです。




