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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第1章 柳瀬優の殺人
7/79

病名とめろんぱん その7

■登場人物④

機桐(はたぎり)()()

 『海沿保育園』のメンバー。

 機桐()()の娘であり、『治癒(ちゆ)()(じょう)(やまい)』に侵された、『病持ち』。


「やあ。こんにちは、(やな)()君。お久しぶりだね。その節は、お世話になったよ。元気だったかな?」

「・・・・・」

「そして、お初にお目にかかります。(おき)飛鳥(あすか)さん。こうして、『海沿(かいえん)保育園』のリーダーに会えるとは・・・嬉しい限りです」

「ええ。私も同感ですよ。『シンデレラ教会』のリーダーに会えるとは・・・・・光栄です」


 そう。

 この男こそが、『シンデレラ教会』のリーダーにして、機桐(はたぎり)()()の父親、機桐()()である。後ろに連れている初老の男性は、『シンデレラ教会』のメンバーであり、執事でもある、草羽(くさばね)さんだ。


「・・・どうして、ここへ?」


 僕は、疑い深く質問する。

 さぞ刺々しい目つきになってしまっているだろうが、今は気にしない。この人に対しては基本的に、疑ってかからなければならない。


「どうして、と言われても・・・近々、莉々の様子を見に伺うと連絡をしたはずなんだけれど・・・・・その

はずだね?草羽さん」

「ええ。連絡いたしました。抜かりなく」


 草羽さんがゆっくりと頷く。

 いやいや。

 そういうことじゃなくて。

 ますます、僕の警戒心は強くなる。


「そんなに、警戒をしないでほしいんだけれどね・・・・・。沖さん、どうかな?連絡は、伝わっているかな?」

「もちろん。きちんと、伝え聞いていますよ」


 と、沖さんは親しみを込めて微笑む。

 ・・・ならば、ぜひ、僕にも伝えておいてほしかったところだ。

 僕が機桐さんを警戒するのには、きちんとした理由がある。この人は性格的にはとても温厚で、優しい人なのだ。普通に接する分には、なんのわだかまりもなく話せるだろう。

 だが、僕の場合はそうもいかない。

 なにせ初対面のときに、僕は、この人に撃ち殺されかけている。(だま)し討ちのような形で、殺されかけている。

 娘を取り戻すために、僕を亡き者にしようとしたのだ。

 そりゃ簡単には、仲良しこよしとはいかないだろう。


「柳瀬君。もう私は、娘を無理矢理連れ戻そうとは思わないし、ましてや、君を傷つけようとも思っていないよ。むしろ、娘を保護してくれている君たちともう少し、仲良くなりたいと思っているんだけれどね・・・」

「仲良く、ですか・・・」


 まあ、僕だって、積極的に対立しようと思っているわけではないし、和解できるのならばそうしたいところだけれど・・・・・かといって、そう易々と心を開くことができるほど、僕たちの間にある溝は、浅いものではないだろう。


「まあまあ。話は、中に入ってからでもいいでしょう。お茶の一杯でもいかかですか?」


 と、沖さんは、機桐さんたちに、中に入るように促す。

 そういえば『シンデレラ教会』の屋敷を訪れたときも、草羽さんが、中に入るように勧めてくれたっけ・・・と、そんなことを思い出しながら、僕らは事務所の方へと向かった。


「どうぞ、こちらへ。機桐さん」

「ありがとうございます。・・・と、その前に」


 そう言って機桐さんは、草羽さんの方を振り向いた。


「草羽さん。すまないけれど、草羽さんは外で待機していてもらってもいいかな?」

「・・・よろしいのですか?」


 申し訳なさそうに頼む機桐さんに対して、草羽さんは眉をひそめる。

 どうやら草羽さんは、機桐さんほどには、僕らのことを信用してはいないようだ。

 ・・・まあ、それが普通だろう。

 あれだけの殺し合いを繰り広げておいて、ほんの一か月で和解とは、なかなかいかないものだ。


「いいんだよ。ボディガードがいない方が、『海沿保育園』の皆さんにも、信用してもらえると思うからね」

「・・・承知いたしました」


 草羽さんが、渋々頷く。


 「何かあれば、すぐにお呼びください」という草羽さんの一言を背に受けながら、僕ら三人は、事務所へと入る。


「・・・まずはもう一度、正式にお()びしたい」


 沖さんが紅茶を目の前に置くと、すぐに、機桐さんはそんな発言をした。


「脅迫電話のこと、『海沿保育園』を襲ったこと、莉々を誘拐したこと・・・それに、柳瀬君を殺そうとしたこと。本当に、申し訳なかった」


 深々と、彼は頭を下げる。

 額をテーブルにぶつけてしまうんじゃないかと思うほど、深々と。


「いえいえ、機桐さん・・・頭を上げてください」


 沖さんは、慌てて手を横に振る。


「私たちだって、取り返しのつかないことをしました。あなた方の仲間の一人を死に追いやり、一人を行方不明にしてしまった・・・罪の重さでいえば、私たちの方が、よっぽど酷いことをしている」


 ・・・なんだか、謝罪合戦みたいだ。と、僕は、冷たい視線で彼らのやり取りを見守る。

 見守れるほど他人事ではないのも、確かなのだが。なにせ、「一人を行方不明にしてしまった」のは、誰であろうこの僕である。

 ただ、まあ、それを謝れるほど、僕は出来た人間じゃない。

 仕方ない。自分の命が懸かっていたのだ。それくらいは、大目に見てほしい。


「あの・・・機桐さん。謝り合うのは、それくらいにしませんか?莉々ちゃんの様子を、見に来たんでしょう?」

「ああ・・・そうだったね」


 このままでは永遠に謝罪合戦が終わらないと思い、僕が口を挟むと、機桐さんはようやく顔を上げた。

 危ない危ない。

 どれだけ謝罪し合うつもりだったんだ、この人たち。


「莉々は・・・元気にしているかな?『海沿保育園』の皆さんと、上手くやれているんだろうか?」

「ええ。元気に、子どもたちと遊んでくれていますよ。ここの大人と上手くやれているかと聞かれれば・・・はい、と即答することはできませんが」


 そう言って、沖さんは苦笑いを浮かべる。

 まあ、そこは正直に答えるしかないだろう。彼女は、子どもたちとは仲良くできるものの、大人と親しく接するのは苦手なのだ。僕や()()(おり)さんに関しては、露骨に怖がられている節がある。

 それに、隠したところで、この人には伝わってしまうだろう。

 なにせ、莉々ちゃんの、大人に対する恐怖心は。

 この父親が、原因なのだろうから。

 


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