病名とめろんぱん その7
■登場人物④
・機桐莉々
『海沿保育園』のメンバー。
機桐孜々の娘であり、『治癒過剰の病』に侵された、『病持ち』。
「やあ。こんにちは、柳瀬君。お久しぶりだね。その節は、お世話になったよ。元気だったかな?」
「・・・・・」
「そして、お初にお目にかかります。沖飛鳥さん。こうして、『海沿保育園』のリーダーに会えるとは・・・嬉しい限りです」
「ええ。私も同感ですよ。『シンデレラ教会』のリーダーに会えるとは・・・・・光栄です」
そう。
この男こそが、『シンデレラ教会』のリーダーにして、機桐莉々の父親、機桐孜々である。後ろに連れている初老の男性は、『シンデレラ教会』のメンバーであり、執事でもある、草羽さんだ。
「・・・どうして、ここへ?」
僕は、疑い深く質問する。
さぞ刺々しい目つきになってしまっているだろうが、今は気にしない。この人に対しては基本的に、疑ってかからなければならない。
「どうして、と言われても・・・近々、莉々の様子を見に伺うと連絡をしたはずなんだけれど・・・・・その
はずだね?草羽さん」
「ええ。連絡いたしました。抜かりなく」
草羽さんがゆっくりと頷く。
いやいや。
そういうことじゃなくて。
ますます、僕の警戒心は強くなる。
「そんなに、警戒をしないでほしいんだけれどね・・・・・。沖さん、どうかな?連絡は、伝わっているかな?」
「もちろん。きちんと、伝え聞いていますよ」
と、沖さんは親しみを込めて微笑む。
・・・ならば、ぜひ、僕にも伝えておいてほしかったところだ。
僕が機桐さんを警戒するのには、きちんとした理由がある。この人は性格的にはとても温厚で、優しい人なのだ。普通に接する分には、なんのわだかまりもなく話せるだろう。
だが、僕の場合はそうもいかない。
なにせ初対面のときに、僕は、この人に撃ち殺されかけている。騙し討ちのような形で、殺されかけている。
娘を取り戻すために、僕を亡き者にしようとしたのだ。
そりゃ簡単には、仲良しこよしとはいかないだろう。
「柳瀬君。もう私は、娘を無理矢理連れ戻そうとは思わないし、ましてや、君を傷つけようとも思っていないよ。むしろ、娘を保護してくれている君たちともう少し、仲良くなりたいと思っているんだけれどね・・・」
「仲良く、ですか・・・」
まあ、僕だって、積極的に対立しようと思っているわけではないし、和解できるのならばそうしたいところだけれど・・・・・かといって、そう易々と心を開くことができるほど、僕たちの間にある溝は、浅いものではないだろう。
「まあまあ。話は、中に入ってからでもいいでしょう。お茶の一杯でもいかかですか?」
と、沖さんは、機桐さんたちに、中に入るように促す。
そういえば『シンデレラ教会』の屋敷を訪れたときも、草羽さんが、中に入るように勧めてくれたっけ・・・と、そんなことを思い出しながら、僕らは事務所の方へと向かった。
「どうぞ、こちらへ。機桐さん」
「ありがとうございます。・・・と、その前に」
そう言って機桐さんは、草羽さんの方を振り向いた。
「草羽さん。すまないけれど、草羽さんは外で待機していてもらってもいいかな?」
「・・・よろしいのですか?」
申し訳なさそうに頼む機桐さんに対して、草羽さんは眉をひそめる。
どうやら草羽さんは、機桐さんほどには、僕らのことを信用してはいないようだ。
・・・まあ、それが普通だろう。
あれだけの殺し合いを繰り広げておいて、ほんの一か月で和解とは、なかなかいかないものだ。
「いいんだよ。ボディガードがいない方が、『海沿保育園』の皆さんにも、信用してもらえると思うからね」
「・・・承知いたしました」
草羽さんが、渋々頷く。
「何かあれば、すぐにお呼びください」という草羽さんの一言を背に受けながら、僕ら三人は、事務所へと入る。
「・・・まずはもう一度、正式にお詫びしたい」
沖さんが紅茶を目の前に置くと、すぐに、機桐さんはそんな発言をした。
「脅迫電話のこと、『海沿保育園』を襲ったこと、莉々を誘拐したこと・・・それに、柳瀬君を殺そうとしたこと。本当に、申し訳なかった」
深々と、彼は頭を下げる。
額をテーブルにぶつけてしまうんじゃないかと思うほど、深々と。
「いえいえ、機桐さん・・・頭を上げてください」
沖さんは、慌てて手を横に振る。
「私たちだって、取り返しのつかないことをしました。あなた方の仲間の一人を死に追いやり、一人を行方不明にしてしまった・・・罪の重さでいえば、私たちの方が、よっぽど酷いことをしている」
・・・なんだか、謝罪合戦みたいだ。と、僕は、冷たい視線で彼らのやり取りを見守る。
見守れるほど他人事ではないのも、確かなのだが。なにせ、「一人を行方不明にしてしまった」のは、誰であろうこの僕である。
ただ、まあ、それを謝れるほど、僕は出来た人間じゃない。
仕方ない。自分の命が懸かっていたのだ。それくらいは、大目に見てほしい。
「あの・・・機桐さん。謝り合うのは、それくらいにしませんか?莉々ちゃんの様子を、見に来たんでしょう?」
「ああ・・・そうだったね」
このままでは永遠に謝罪合戦が終わらないと思い、僕が口を挟むと、機桐さんはようやく顔を上げた。
危ない危ない。
どれだけ謝罪し合うつもりだったんだ、この人たち。
「莉々は・・・元気にしているかな?『海沿保育園』の皆さんと、上手くやれているんだろうか?」
「ええ。元気に、子どもたちと遊んでくれていますよ。ここの大人と上手くやれているかと聞かれれば・・・はい、と即答することはできませんが」
そう言って、沖さんは苦笑いを浮かべる。
まあ、そこは正直に答えるしかないだろう。彼女は、子どもたちとは仲良くできるものの、大人と親しく接するのは苦手なのだ。僕や氷田織さんに関しては、露骨に怖がられている節がある。
それに、隠したところで、この人には伝わってしまうだろう。
なにせ、莉々ちゃんの、大人に対する恐怖心は。
この父親が、原因なのだろうから。




