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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第3章 ねむれねむれ
44/79

病名とめろんぱん その44


「おやおや・・・そんな説明では、彼は納得してくれませんよ」


 と、別の声が部屋に響く。今度は、男の声だ。耳当たりの良い、透き通ったような声。

 もう一度出入り口の方に目をやれば、長身の男が立っていた。スラリと伸びた手足に、スリムな体型。後ろ手に扉を閉めながら、ゆったりとしたペースで、こちらに向かってくる。


「あ!風増(かざまし)くんじゃん!おはおはー!」

「おはようございます、院長。とはいっても、既に夕方ですけれどね」

「あ、もう夕方なんだ・・・じゃあ、こんばんはだね!グッドイブニング!」

「そうですね。こんばんは、です。院長」


 ・・・なんだか、カオスな会話をしているな、と僕は彼らの会話を聞いていた。会話の流れがテキトーすぎる。いくらなんでも、会話の中身がなさすぎるだろう。

 もちろん、聞き逃してはいない。

 あの、風増と呼ばれた男が発した言葉を、聞き逃してはいない。

 「院長」と、そう言った。二度ほど、そんな言葉を口にした。もう驚かないぞ・・・・・僕はすでに、『白縫(しらぬい)グループ』の代表に遭遇しているのだ。たとえ、目の前にいるこの女性が『白羽病院』の長だったとしても、この背の低い子どもっぽい女性が、院長という責任ある立場を任されているのだとしても、驚いてなんかやるもんか。


「失礼。自己紹介が遅れてしまいました」


 (うやうや)しく頭を下げながら、風増は言った。


「こちらの方は、『白羽(しらはね)病院』の院長を務めておられます、()()()(なぐさ)院長です」

「よろしくねー!(やな)()くん!ちなみに彼は、風増(きざし)くん!この病院の、副院長をしてくれてるんだよー!よろしくしてあげてね!いやー風増くん、今日もイケメンだね!逆に、君がイケメンじゃない日なんて、あり得ないんじゃないの?見てみたい見てみたい!風増くんのブサメン、見てみたい!いえーい!」

「本日十七回目のお褒めの言葉、恐れ入ります、院長。院長こそ、今日も可愛らしいですよ。天使が目の前にいるんじゃないかと、錯覚してしまうくらいです」

「本日二十四回目の可愛い、いただきました!いえーい!」


 ・・・・・。

 なんなんだ、この人たち。僕が完全に空気だ。別に構わないのだけれど、いい加減にこの馬鹿馬鹿しい会話を切り上げてもらわないと、話が前に進まない。


「あの、風増さん・・・でしたっけ?ちょっといいですか?」


 と、僕は、風増さんに話しかける。あくまで話しかける対象は、話が通じそうな、そっちのイケメンだ。こっちの意味不明院長に話しかけていたら、一生かかっても話が前進しないだろう。


「はい。なんでしょうか、柳瀬さん」


 一旦、話を切り上げ、彼はこちらに向き直る。


「えっと、聞きたいことがありすぎて、質問の山に埋もれてしまいそうなんですけれど・・・・・」

「お気持ち、お察しします。急にこんなところに連れて来られて、困惑するなと言う方が、難しい注文でしょう。まずは、あなたが最も疑問に思っている質問に、お答えいたしましょう」

「そりゃ、結構なことです。じゃあ・・・」

「何故、これほどまでに可愛らしい女性が、『白羽病院』の院長を務めているのか、ということでしょう?分かります。分かりますとも。その疑問に、いの一番にお答えしましょう」

「・・・・・」


 おいおい。

 この空間には、話の通じる人間が一人たりともいないのか?一体全体、どうやって、話を前に進めればいいんだよ。

 もう帰っていい?

 僕、疲れたんだけど。


「あれは五年ほど前のことになります。『白羽病院』の前院長が退職なされ、その後釜に誰を据えるかという話になった際・・・」

「あの、ちょっと待ってください。僕が最初に解消しておきたい疑問は、そういう話題じゃありません」

「おや?そうでしたか?」


 キョトンと、意外そうな顔をする、風増さん。

 なんで意外な風なんだよ。

 その話、絶対に、今するべき会話じゃないだろ。本筋から外れ過ぎていて、話の流れがわけ分かんなくなる。


「僕が聞きたいのは、何故、僕がここにいるのか、ということです。僕は、とある町で道に迷って、とある人と会話をしていたと思うんですが・・・」

「おっと、そちらでしたか」


 そちらでしたかって・・・そちらに決まっているじゃないか。そちらの木場木院長さんとやらが院長になるに至った経緯なんかよりも、よっぽどホットな話題だ。少なくとも、僕にとっては。


「そちらの意図は、明確です。もちろん、あなたをスカウトするためですよ、柳瀬さん。あなたの経験と才能を見込んで、『白羽病院』で働いてほしいと、そう考えたのです」

「・・・明確、ですね。これが、本当にスカウトならば」

「ええ。それ以外には本当に、なんの意図もありませんよ。回してもひっくり返しても、それ以外の事実はありません」

「誘拐、もしくは拉致、と言うんじゃありませんか?こういうのは。少なくとも、スカウトではないでしょう。あまりにも、無理矢理が過ぎる」

「かもしれませんね、あなたの立場から見れば」


 二コリと、彼は清々しい笑顔を浮かべる。表面的にはとても整っていて、いっそ気持ちがいいくらいの笑顔だが・・・しかし。どう甘く見積もったところで、その笑顔は、この誘拐を有耶無耶に出来るほどのものではない。

 一応、まとめておこうじゃないか。まとめるほどの情報は出てきていないが、一応。

 彼らは僕を、『白羽病院』で働かせようと考えた。

 だから、僕を攫った。

 ・・・いろいろ、工程を飛ばし過ぎだ。「起承転結」で言えば、「承」と「転」が完全に抜け落ちてしまっている。「僕を(さら)う」という結論に至る前に、もっと踏むべき工程があるだろう。

 ・・・いや。

 少なくとも一つだけ、工程を踏んではいるのか。

 代表による交渉、という形で。


「代表の指示、ですか?白縫(しょう)(いち)(ろう)代表が、僕を拉致するように指示したんですか?」

「いえいえ・・・まさか。あの白縫代表が、そんな直接的な命令をするわけがありません。この誘拐・・・もとい、スカウトは、私たち『白羽病院』の、勝手な判断です」


 誘拐って、言っちゃってるじゃないか。

 勝手な判断?

 誘拐って、勝手な判断でやっていいものだったっけ?


「僕には手を出すなと、白縫代表からあなたたちに、指示があったと聞いていましたが。あれは、嘘だったんですか?」

「それは、紛れもない真実ですよ。ただし、その指示は、『柳瀬(ゆう)を殺すな』というものであって、『拉致をするな』とは、一言も言われていないんです。むしろ代表も、あなたを攫うことには前向きなはずです。具体的な指示をしていないだけで、ね」

「・・・無茶苦茶な理屈ですね。ただの屁理屈だ」

「組織の中で生きるためには、屁理屈も必要なのですよ。優しさや人情なんかより、よっぽどね」

「勝手な判断で動いたあなたたちに、白縫代表が処分を下すかもしれませんよ。これだけの暴挙をやっておいて、なんのお咎めなしとはいかないでしょう?」

「処分という判断が下される可能性は低いと、私どもは考えていますよ。代表にとっても、あなたがここで働くという流れは、都合が良いはずですから」


 ・・・くそ。

 さりげなく脅しをかけてみたけれど、やっぱり駄目か。まあ、こんな脅し、彼らにとっては痛くも痒くもないのだろう。僕にとっては、遺憾ながら。


「それでも僕が、こんなところでは働かないと言ったら?誘拐されようが拉致されようが、こんな意味不明な人たちの下では働けないと、そう言ったら?どうするつもりなんです?」

「それはね!それはね!」


 と、木場木院長が、唐突に会話に入ってきた。

 唐突とはいっても、ここまでの風増さんとの会話の最中、彼女が大人しく黙っていたのかといえば、もちろん、そんなことはない。僕らが真剣な話をしている間、彼女は、まったく無関係の話をまくし立てていたのだ。その一つ一つを拾っていたらキリがないし、風増さんとの会話に集中できないので、なるべくシャットアウトするようにしていたけれど。


「君が労働を拒絶するならね!拷問しちゃうんだ!」


 満面の笑みで。

 穢れを知らない素直な笑顔で、彼女は言った。


「働かせてくださいって、君が()びへつらうまで!いっそのこと殺してくれって、君が懇願するまで!君の精神が崩壊するまで永遠と、拷問し続けちゃうんだよ!すっごいでしょ!」


 ・・・うん。

 すっごいですね。

 


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