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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第3章 ねむれねむれ
43/79

病名とめろんぱん その43


 ああ・・・まったく。

 このパターン、何回目だよ。と、僕は思う。

 「このパターン」というのは、「知らないうちに気を失っていた」というパターンだ。この一か月半という短い期間で僕は、どれだけ気を失えば気が済むんだ?

 一回目は、粒槍(つぶやり)伝治(つたうじ)の最初の襲撃を受けた、あの夜。『(やまい)』に関わる発端となった、あの事件。

 二回目は、粒槍の三度目の襲撃を受けた日。彼と直接的に対決した日であり、自分を生かすために彼を生かした、あの日。

 三回目は、機桐(はたぎり)()()との交渉に挑んだ、あの日。()()ちゃんを取り戻すために、なんの思い入れもなく、望んでさえいない交渉に臨んだ。

 じゃあ、今回で四回目になるのか。「一か月半で気を失った回数ギネス記録」なんてものがあったら、間違いなく、新記録を打ち立てているであろう回数だ。

 僕は、自分の周りの環境をぐるりと見渡す。

 やたらと真っ白な部屋だ。手入れと掃除が行き届いている・・・・・では、ちょっと足りない。真っ白すぎて気持ち悪くなってしまうくらいに、埃も汚れもない。天井、床、カーペット、ランプ、扉。どこもかしこも真っ白だ。

 窓はなく、出入り口は扉だけだ。造りとしてはかなり簡素な部屋で、中に置いてある家具といえば、小机と壁掛け時計、そして僕が寝ているベッドだけ。面積もそれほど広くない・・・・・僕が住んでいたマンションの一室より、少し広いくらいか?

 客人用の部屋としては、少々手狭な部屋だ。

 

(まあ・・・・・僕は、客人ってわけでもないんだろうけど)


 ベッドに縛り付けられているこの状況を見れば、それは火を見るよりも明らかだ。客人をベッドに縛り付ける風習がある家は、世界中のどこを探しても見つからないだろう。

 ただ、「拘束」と言うのにも、少し無理がある状況だ。ひとまず、僕を縛っておく、という形をとってはいるものの・・・。


(こんなゆるゆるの縛り方、拘束の役割を果たしてないよな・・・・・)


 僕をベッドの脚に縛り付けているのは、鎖や手錠といった冷たい金属類ではなく、ただの麻縄だ。細々く、ほんのちょっぴり抵抗すれば千切れてしまいそうな、頼りない拘束具。縛り方もかなり緩く、少し時間をかければ抜け出せてしまうだろう。決定的なのは、僕の両腕だけしか縛っていないという点だ。両腕以外は自由自在。頭も胴体も脚も、いつも通りに動かすことが出来る。

 全体的に、お粗末だ。やる気が感じれらないというか・・・・・僕の自由を奪おう、という意志がまったく感じられない。


(それは本来、僕にとっては都合の良い話のはずなんだけれど・・・)


 何となく、気持ち悪い。

 そのやる気のなさが、意志のなさが、変に余裕ぶったこの拘束方法が、僕に警戒心を抱かせている。いつでも逃げ出せる・・・・・僕の意識が覚醒して二十分ほどが経過し、すぐにだって逃げ出せるこの状況。それでも僕が逃げ出さない理由が、その「気持ち悪さ」にある。


(軽く、逃げ出す意志を示してみるか?いや、けれど・・・)


 逃げ易い状況だからこそ、逃げ辛い。

 昼間っからの誘拐をやってのけておいて、その後の処理がこれか?あんまりにも雑すぎるだろう。僕を誘拐して、やる気のない拘束をして・・・・・一体、何がしたいんだ?

 なんか最近、こんなことばっかりだな・・・。

 理解の及ばないことが起きるたびに、「こいつは一体、何がしたいんだ?」、「こいつらは、何が目的なんだ?」と、脳味噌を回転させて・・・・・それでも、何も分からなくて。

 まったく。

 僕に理解できないことが、最近は多すぎる。そろそろパニックになっちゃいそうだよな、これ。

 いい加減に。

 いい加減にしろと言いたい。

 と、そこそこのストレスが溜まってきたところで。


「・・・お?おおっ!?起きてる起きてる!起きてたんだねー!」


 ガチャン!と派手に扉を開く音と共に、女性の大声が響く。そちらに顔を向けると、満面の笑みを浮かべながら駆け寄って来る、女性の姿が見えた。


「いやー良かった良かった!君、なかなかぐっすりと眠っちゃってたからさー!死んじゃったんじゃないかと、ヒヤヒヤだったよー!起きてるなら起きてるって、ちゃんと言ってくれなきゃー!」


 あははは!と、やけにハイなテンションで話しかけてくる女性。

 腰まで届く長髪と、丸眼鏡。小柄な体型に、白衣を(まと)った女性だ。一見、知的なイメージだが、その振る舞いや大声がイメージを完全に払拭している。ピョンピョン跳ねながら落ち着きなく話すその姿は、子どもそのものだ。


「あの、ちょっと・・・・・」

「君、なかなか良い寝顔するんだねー!いい感じいい感じ!私の好みですよーん!でも、ヨダレを垂らしてたのがちょっとなー・・・・・いや、うそうそ!ヨダレなんて垂れないよー!なーんちゃって、って感じ!?」

「えっと・・・・・」

「私は寝てるときに、よくヨダレを垂らしちゃうんだよねー!なんでだろ?お腹、空いちゃってるのかな?晩御飯は、たっぷり食べてるはずなんだけどねっ!」

「・・・・・」


 駄目だ。日本語が通じない・・・じゃなくて、話を聞いてくれない。僕が苦手とするタイプの人だ。こういう人、ホントに苦手。()()(おり)さんや(しん)(じょう)さんのような危険な人たちも苦手だが、こういうハイテンションな人とも、仲良くなりたくはない。

 なんで僕、意味の分からない環境下に置かれて、意味の分からない人と話してるんだ?一体、なんの茶番なんだ。これは。


「あの・・・あの!ちょっと、聞きたいことがあるんですけど!」

「お?なになに!?何が聞きたいの?おねーさんが、なんでも答えてあげるよ!さぁさぁ、質問してごらん!分からないことは、人に聞く!大事なことだよね!一人で(もん)(もん)と悩むのは、心と体に良くないよ!」

「あ、はい。それで・・・」

「あ!でもでもー、その態勢じゃ、話を聞き辛いかな?話し合いをするときは、面と向かって、目を見て話すべきだよね!会話は言葉じゃなくて目でするものだって、誰かが言ってたような気がするよー!えっと・・・誰が言ってたんだっけ?」

「・・・・・」

 

 あー・・・何なんだろう、この感じ。この、一を話したら十が返ってくる感じ。苦手だ・・・・・この人と永遠に話が通じなかったら、どうしたらいいんだろう?


「はい!縛ってた縄を外したよ!これで、面と向かって話せるね!さぁ、お喋りをしよう!」

「じゃあ、質問・・・・・」

「質問があるときは、手を上げる!」

「はい」


 手を、上げてしまった。なんだか屈辱だが、仕方ない。今は素直に従って、話を進めることが優先だろう。

 僕は体を起こしながら、手を上げっ放しにしながら、質問を口にする。


「はい!(やな)()(ゆう)くん!」

「ここはどこですか?」


 授業中の教師のように、彼女は僕を指差す。もしこれが授業だったとしても、生徒は僕一人なのだから、指名する必要はないと思うけれど・・・・・。いずれにせよ僕は、間髪入れずに質問する。変に話の腰を折ってしまうと、またしても会話が停滞してしまいかねない。これ以上、無駄話は御免だ。


「あ、そっか!君にはまだ、ここがどこなのかを教えてなかったね!ごめんごめん!」


 大げさに手を合わせながら、彼女は言う。


「ここは『白羽(しらはね)病院』!『白縫(しらぬい)グループ』統括の病院の一つ、『白羽病院』だよ!」

「・・・・・ありがとうございます」

 

 それは、結構。実に結構。まったく・・・・・上々だ。

 僕は、手を下ろした。

 


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