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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第2章 『白縫病院』の怪
39/79

病名とめろんぱん その39

 

 二度寝どころの話ではなくなってしまった。

 そのすぐ後に、事件は起こった。

 『白縫(しらぬい)病院』を出た僕たちは、『海沿(かいえん)保育園』へと帰るため、町の駅を目指していた。

 目指した・・・ところまでは良かったのだが。


「・・・変ですね」


 思案顔で、(おき)さんが呟く。


「駅は確か、こちらの方向だったと思うのですが・・・。(ゆう)くん。どこかで道を間違えてしまったでしょうか?」

「いや、そんなことはないと思うんですけど・・・」


 病院を出て一時間後。

 僕たちはまだ、駅に到着できていなかった。

 病院から駅までは本来、二十分程度で着けるはずなのだけれど・・・沖さんの言う通り、確かに何か変だ。


「似たような道に出てしまったっていうことはないんですか?(やな)()さん。この辺の路地、同じようなところが多いですし」

「うーん・・・仕事に行くときに、この辺の道はよく通っていたから、迷うことはないと思うんだけど・・・」


 似たような道が多いといっても、ここまでそっくりな路地が並んでいるとは思えない。実際、駅の屋根はすぐそこまで見えているのだ。なのに・・・近づけない。駅のある方向には進んでいるはずなのに、全然辿り着けない。

 これはもう、道に迷ったとか、方向音痴だとか、そういうレベルの話ではなくなってくる。一応、スマホのマップ機能で道を確認してみたり、道を変えて近づこうとしてみたが、残念ながら無駄な努力だった。

 気付けば、病院を出てから既に一時間半が経過してしまった。このままでは、いつまでたっても『海沿保育園』に戻れないだろう。・・・・・もちろん、二度寝などもってのほかだ。


「どうしますか?沖さん。隣町まで歩いて、そこから電車に乗るって手段もありますけど」

「そうですね・・・。試してみる価値は、あるかもしれませんが・・・」


 沖さんは、あまり乗り気ではなさそうだ。まあ言ってはみたものの、僕だって、「隣町まで行ってみる」という手段を、本当に実行してみようという気はあまりない。

 おそらく。おそらくだが。

 これは『白縫グループ』からの、何らかの「攻撃」であると見るべきなのだろう。『白縫病院』の人間の失踪と、この「迷い道」が、まったくの無関係であると考えるほど、僕も楽観的ではない。だとすれば、「隣町まで行く」なんて愚策は、とっくに対策されてしまっているだろう。その程度のことが予想出来ないほど、彼らもバカではないはずだ。


蓮鳥(はすどり)さん。道を複雑したり、人を迷わせたりする『(やまい)』を持っている『(やまい)()ち』の人って、いなかったかな?」

「さあ・・・。そんな『病』、聞いたことありません。少なくとも『白縫病院』には、そんな人はいなかったと思いますけど」

「そっか・・・」


 だとすれば・・・どう動くべきなんだ?蓮鳥さんに聞いても分からない『病』を持った人間が動いているとなれば、この「迷い道」を抜け出すのは至難の技だろう。そう簡単に、帰らせてもらえるとは思えない。

 いや・・・そもそも。

 そもそも彼らは何故、こんなことをしてきたんだ?何故こんな、ちょっかいを出すような真似を?

 考えられるのは、再び『白羽(しらはね)病院』が僕の命を狙ってきたというケース。正直、このパターンが一番あり得そうな気がする。けれどそれならば、粒槍(つぶやり)のときと同じように、僕が一人のときを狙ってくると思うのだけれど・・・。

 他に考えられるのは・・・。


「・・・沖さん。ひとまず手分けして、この周辺を散策してみませんか?もしも、人を迷わせる『病持ち』の人間がいるとすれば、その人を探し出せれば、この状況も打開できるかもしれませんし」

「手分けして散策、ですか・・・。しかし、バラバラになるのは、余計に危険な気もします。固まって動いた方が、安全に行動できると思いますが・・・」

「でも、それ以外に出来ることもないんじゃないですか?これ以上、駅の周りをウロウロしていても、打開策は見つからないような気がします」

「そうですね・・・」


 と、沖さんは、顎鬚に手を当てる。どういう判断を下すべきか迷っている、といった表情だろうか。


「・・・では少しの間、別行動をとることにしましょう。ただし、あまり遠くまでは行かず、危険な状況に遭遇した場合は、すぐにこの辺りに戻ってくると約束してください。三十分間捜索して何も見つからなかった場合は、もう一度、この場所に集合しましょう。・・・それでいいですか?優くん」

「ええ。了解しましたよ」

(はと)()さんも、それで大丈夫ですか?」

「はい。いざとなれば私は、『(とり)()の病』で姿を消すことも出来ますし」

「それでも・・・無理はしないでくださいね。本当に危険な状況になったときは、私が君たちの盾になりますから。いつでも、私を呼んでください」


 沖さんはそう言って、笑みを浮かべる。

 『(ぜっ)()の病』、ね・・・。それだけで僕らの盾になれるのかどうかは、甚だ疑問だけれど。

 だが確かに、蓮鳥さんには『鳥目の病』、沖さんには『絶死の病』がある。この別行動において最も危険なのは、僕ということになるのか・・・。

 しかし、それでも。

 この別行動には、意味はあるはずだ。


「それでは・・・また、三十分以内に会いましょう」


 そして僕たち三人は、それぞれ別方向に足を向けた。沖さんは、来た道を引き返すように『白縫病院』の方へ。蓮鳥さんは、駅周辺を取り巻くアーケード街の方へ。

 僕はといえば・・・。


「ふう・・・・・」


 駅周辺のカフェで、一息ついていた。

 うん、アイスコーヒーが美味しい。真夏の空の下を歩いて乾いた喉に、冷たいコーヒーが染み渡る。ついでに頼んだガトーショコラも、ちょうどいい甘さだ。そんなに広くない、昔ながらの外観のカフェだったけれど、こういうお店も良いものだ。

 沖さんと蓮鳥さんは今頃、この状況の打開策を探っているのだろうか?

 ・・・いや、僕だってサボっているわけじゃない。歩き回って疲れたからといって、カフェでボーっとしているわけではないのだ。

 もしも、僕の予想通りならば・・・。


「やあ、こんにちは」


 と。

 不意に、声を掛けられる。

 いや・・・不意ではなかったか。

 そういう展開になるかもしれないと、何となく予想できていたのだから。


「ここ、いいかい?」

「・・・ええ」


 僕の向かいの席を指差す男に、僕は応答する。

 男は、真っ白だった。

 頭の白髪から、足のブーツの先まで真っ白。この真夏だというのにピッシリと着ているスーツもまた、真っ白だ。けれどそのスーツ姿も、全然暑苦しそうではない。

 真っ白で綺麗で、それでいて輝かしい。

 目を覆ってしまいそうな、そんな輝かしさだ。

 男は言った。


「初めまして。柳瀬優くん」


 椅子に深く座り、彼は軽く微笑む。


「君に会えるのを、楽しみにしていたよ」

 


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