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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第2章 『白縫病院』の怪
33/79

病名とめろんぱん その33


「恐怖心を(あお)る・・・」


 そうか・・・だからあんなに、強く恐怖を感じたのか。


「人間・・・なんですよね?あれは。姿が見えなかったし、声も聞こえなかったんですけれど・・・『(やまい)』ということは、それを持っている、『(やまい)()ち』の人間がいるはずですよね?」


 今までの『病』のパターンを考えれば、そういうことになる。

 だが彼女は、黙って目を瞑るだけだった。


「そうだ・・・とは、断言できないんだ。あれに関しては・・・」


 廊下の方を見つめたまま、彼女は言った。


「これも、私は多くを語れないんだけれどね。いやいや・・・組織の人間というのは、難しい立場だよ」


 こちらに視線を戻し、彼女は苦笑いを浮かべる。


「つまびらかに説明できない代わりに、きちんと謝罪しておくよ。怖い思いをさせて、すまなかった」

「いえ・・・まあ、それはいいんですけど」


 不法侵入したのは、こちらなのだ。命からがら逃れることが出来ただけでも、儲けものだろう。


「じゃあ、何故あんな奴がここにいるのかは、教えてもらってもいいですか?」

「うん、そうだね。それくらいは、教えてもいいだろう・・・。あいつは、ここの用心棒だったんだ」

「用心棒?」

「用心棒というか・・・防犯装置かな。侵入者を邪魔する、『白縫(しらぬい)病院』の防犯機能のようなものだよ。他人の恐怖心を増長させ、冷静さを失わせる。侵入者を妨害するには、ピッタリだろう?」


 ・・・確かに、ピッタリだ。実際、僕たちは、かなり冷静さを失っていたはずだ。恐怖によって相当、心を乱されていた。

 しかし、ならば尚更、僕たちがあの『病』に行き逢ったのは、仕方がないことだったのだろう。

 僕らはまさしく、その「侵入者」だったのだから。


「それ以上話せることは、私にはないな。あいつのことがもっと知りたいならば、上の人に聞いてくれ」

「いえ、そこまでして知りたいとは思いませんけど・・・」


 彼女がそこまでしか語れないと言うなら、さらに問い詰めるつもりは、僕にはない。

 話題を変えよう。

 というか・・・そろそろ、本題に入ろう。

 一番聞きたかったことを、聞くことにしよう。


(はま)()さん。さっき、『明日行われはずだった、君たちとの交渉』と言ってましたけど・・・ならば交渉は、ここで行うつもりだったと考えていいんですよね?」


 僕から手を引いてもらうための交渉。

 それを、今ここで行う。

 (おき)さんはいないが・・・侵入を発見され、『白縫病院』の職員の前に躍り出てしまった以上、交渉を先延ばしにすることは出来ないだろう。


「うん、そのつもりだよ・・・ただ、交渉と言うほど、大それたことをするつもりはないけれどね」

「・・・?どういうことです?」

「私たちと交渉する必要なんて、君たちにはないということさ。・・・そもそも君たちは少し、勘違いをしていないかな?」

「え?」


 勘違い?

 『白縫病院』と交渉するということの、何を勘違いしているというんだ?


「もっと根本的な話だよ。私たちは、君の命を狙ってなんかいない」

「・・・いや、それは嘘でしょう」


 実際、『白羽(しらはね)病院』の粒槍(つぶやり)伝治(つたうじ)は、僕を殺そうとしてきた。

 その事実がある以上、「君の命を狙ってなんかいない」とは言わせない。


「言い方が悪かったかな・・・。つまりさ、君たちは、『白縫グループ』全体の意志で、君を狙っていると、そう思っているんじゃないかな?」

「そうですけど・・・違うんですか?」

「ああ。その認識は間違っているよ。君を狙っているのは、あくまでも『白羽病院』だ。『白縫グループ』の偉い人の指示で動いているとか、そういうことじゃない。『白羽病院』が単体で、彼ら自身の意志で、君を狙っているんだよ」

「・・・・・」


 「狙っているんだよ」と、言われても。

 狙われる側からすれば、そんな違いは些細なことなのだけれど・・・。


「それは・・・どうにか止められないものなんですか?たとえば、上の人間の命令とか、あなたたち『白縫病院』の職員からの進言とか・・・そういう対処は出来ないんですか?」

「・・・残念ながら、難しいと思うよ」


 肩を(すく)めながら、彼女は言う。


「『白縫グループ』に属しているとはいえ、『白羽病院』は、かなり自由で、過激な組織だからね。私たちからの進言程度ではどうにもならないし、そこそこ階級の高い人間が命令したからといって、止まるような連中でもない」


 そうなのか・・・。

 なんだか、落胆を抑えきれない。

 せっかくここまで来たというのに、またしても振り出しか・・・。


「『白縫大病院』の院長・・・つまり、『白縫グループ』の代表なら、どうにか出来るかもしれないけれどね。さすがに組織のトップともなると、進言も難しい。・・・すまないね、力になれなくて」

「いえ・・・僕が勝手に、期待していただけですから」


 『白縫病院』との交渉が上手くいけば、それで全てが丸く収まると考えていた僕が甘かった・・・。残念ながら、そう簡単にはいかないようだ。

 まあ・・・・・仕方がない。

 切り替えるとしよう。

 実際、粒槍の件以来、『白羽病院』からの実害は受けていないわけだし・・・・・彼らが、僕を諦めていることを祈ろう。


「・・・・・(ゆう)くん。『白羽病院』の連中を止めることには、協力できないけれど・・・・・別の方面からならば、私は、君の力になれるかもしれない」

「・・・はい?」


 落胆を隠せずにいると、濱江さんは、そんな提案をしてきた。

 別の方面?

 一体・・・どういうことだ?


「優くん」


 と、彼女は顔を引き締め、テーブルの上で手を組む。

 まるで、「ここからが、私にとっての本題だ」と言わんばかりに。


「君・・・社会復帰、したくはないかい?」

 


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