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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第1章 柳瀬優の殺人
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病名とめろんぱん その2


 やぁやぁ皆さん、こんにちは。

 僕は今、大切な仕事の真っ最中だ。お恥ずかしい限りだが、少し前に、仕事の最中に殺し損ねてしまったターゲットがいてね。そのターゲットを暗殺するため、今夜は動いているというわけだ。

 暗殺という言葉を聞くと、良くないイメージを浮かべる人もいるだろうけれど、なに、そんなに特別なことじゃない。ターゲットは有名人でもなければ、誰もが尊敬する善人というわけでもない。その辺にいる、普通の人間だ。

 うん?

 普通の人だって、殺してしまえば犯罪じゃないのかって?

 うーん・・・まぁ、そうなんだけれど、なんとかその辺りには目を(つむ)ってほしい。僕の所属する組織だって、真っ当な集団とはいえないのだ。このくらいの暗殺は日常茶飯事。いつものことだ。むしろ、こんなことでビクビクしていたら、仲間に笑われてしまうだろう。

 うん?なになに?

 そもそも、お前は誰なのかって?

 良い質問だね。しかし、僕はその質問に正直に答えることはできない。なにせ、秘密組織の人間だからね。おいそれと、名前を明かすことはできないんだ。でも、そうだね・・・・・名無しのままというのも、これからの僕の仕事を皆さんに伝える上では、不便だろう。

 仮に、「(やな)()(ゆう)」と名乗っておこう。

 とても良い名前だろう?うん。すごく良い名前だ。

 なになに?

 なんだって?

 急に考えた割には、あまりにも名前が具体的すぎるって?

 そりゃあ、具体的にもなるだろう。だって、本名だからね。「仮に」、なんて言ったけれど、これは紛れもなく本名だ。よくよく考えてみれば、名前くらい知られたところで、それほど大きな支障にはならないだろう。それに僕は、変な偽名を名乗るのは好きではないからね。

 さてさて、自己紹介はこのくらいにしておこう。

 そろそろ仕事の時間だ。

 実際、既にターゲットの住む建物の前までは来ているのだ。後は、建物内に潜り込み、ターゲットを暗殺し、戻ってくるだけである。ただ、それが難しい。侵入するところまでは上手くいったとしても、建物内のどこにターゲットがいるのかまでは、分からない。そこそこ大きな建物だから、探索には時間がかかりそうだ。

 面倒くさいが、やるしかないだろう。

 仕事だから、ね。

 なるべく静かに門を開き、建物の敷地内へと侵入する。見える範囲では、どうやら入り口は正面玄関ただ一つのようだ。探せば、裏口の一つや二つ、見つかるかもしれないが・・・。

 うーん・・・と、建物の周りを静かに歩きながら他の侵入口を探すが、それらしい入り口はない。


(まあ、入り口が見つかったとしても、鍵はかかっちゃってるんだろうけど・・・)


 今回の仕事では、それが一番の問題になるだろう。この侵入という工程が、今回の仕事における、最大の鬼門と言えるかもしれない。


(・・・うん?)


 と、ここで僕は気付いたことがあった。秘密の入り口とか、抜け道を発見したわけではない。一階の窓。その一つに、違和感を覚えたのだ。パッと見は、他となんら変わらない窓だが、ほんの少しだけ、「何か」が違うと見て取れる。


(多分あれ、クレセント錠が降りてないな)


 なぜ、少し観察しただけでそんなことが分かったかといえば・・・まあ、僕の才能だと思っていただければ、幸いだ。後は、長年の勘だともいえる。

 長年と言えるほど、この世界に携わっているわけでもないが。

 とにかく、本当に鍵がかかっていないならば、これほど幸運なことはない。


(・・・やっぱり、開いてる)


 窓際までこっそりと近づき、手をかけると、窓はすんなりと開いた。どうやら、運は僕の味方をしてくれているようだ。


(ここは・・・空き部屋かな?)


 物音を立てないように慎重に侵入したものの、その気遣いとは裏腹に、部屋の中は無人だった。ベッドやタンスが置いてあるのを見る限り、寝室のようだが、少し(ほこり)が被っていることから、あまり使われていない部屋のようだ。


(まあ、無人というなら、それはそれで好都合なんだけど)


 それにしても、寝心地の良さそうなベッドである。広い面積に(キングサイズというやつだろうか?)、触り心地の良さそうなシーツ。寝転んだら、すぐにでも眠りに落ちてしまいそうだ。

 だが、今は寝心地を試している場合ではない。時刻は真夜中だが、仕事中に眠れるほど、僕の心臓は強くない。

 部屋の出入り口である扉をそっと開け、廊下へと繰り出す。真夜中なだけあって、明かりは点いておらず、真っ暗だ。ただ、この暗闇も、僕にとっては都合が良い。周りが暗ければ暗いほど、僕の姿を隠してくれる。

 廊下には、ライトを持った警備員らしき人たちが数人、巡回していたが、彼らにとっては残念なことに、その程度では僕は見つからない。隠密行動には、自信があるのだ。柳瀬優をナメてもらっては困る。

 彼らの目を掻い(くぐ)りながら、奥へ奥へと足を進める。ターゲットの所在を明確に把握しているわけではないが、大抵、偉い人は奥にいるというのが定石だろう。

 というのも、彼は、とある小さな組織のリーダーを務めているのだ。組織名は忘れてしまったし、何を生業(なりわい)としている組織なのかも知らないが、リーダーである以上は、その辺の普通の部屋にいるということはないだろう。

 暗殺対象の所属している組織のことを何も知らないなんて、情報不足もいいところだが、突然の仕事だったので、それは仕方ないだろう。あとは、ターゲットの所属する組織になんか興味がなかった、というのもある。むしろ、それが本心だったとも。

 ターゲットを追い詰め、殺す。

 その行為だけが、魅力的だった。

 今は、それにしか興味がない。

 と、いよいよ僕は、奥の部屋まで辿り着いた。最奥(さいおう)部・・・かどうかは分からないが、ここは確認しておくべきだろう。

 (きし)む音を最小限に抑えながら、僕は扉を押し開ける。

 その先に、ターゲットがいることを願いながら。

 この高揚感は、一体、なんなのだろう?

 殺人衝動、というやつだろうか?

 

 よくわからないけれど。

 

 僕の心が躍っていることは、確かだった。

 


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