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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第1章 柳瀬優の殺人
18/79

病名とめろんぱん その18

 

 蓮鳥(はすどり)(はと)()は、気付いたときには一人だった。

 親も兄弟も友人も、誰一人そばにはいなかった。自分の名前と命だけを持って、たった一人、町の外れでコソコソと暮らしていた。

 機桐(はたぎり)()()のように、家出をしたわけではない。

 (しん)(じょう)(じん)のように、親を殺したわけでもない。

 ただ、一人だった。

 理由も分からず、一人になった。

 親が彼女を捨てたのか、それとも彼女を手放さなければならない、何らかの事情があったのか・・・・・。今となっては分からないが、蓮鳥は、日本から遠く離れたどこかの国の、どこかの町で、一人で生きていた。

 蓮鳥にとって生きることは、奪うことでもあった。

 幼い蓮鳥には、「働く」とか「お金を稼ぐ」とか、そういう正常な生き方は出来なかった。日本語の通じない、まだ発展途上の国で、そんな生き方は不可能だった。

 他人から、食べ物を奪った。

 他人から、生きるために必要なものを奪った。

 ときに奪い。

 ときに殺した。

 幸い蓮鳥は「奪う」ことに関して、他人にはない才能があった。

 才能というよりは・・・『(やまい)』があった。

 『(とり)()(やまい)』。

 暗いところでは誰も、蓮鳥を見つけることは出来なかった。夜の闇の中ではもちろん、明かりのない室内や日陰など・・・とにかくそこに暗さがあれば、蓮鳥は姿を隠せた。蓮鳥の意志とは関係なく、彼女は消えた。

 その『鳥目の病』を活かして、彼女は生き長らえた。奪いに奪い尽くして、彼女はなんとか生きた。

 だが、周りの人間も、段々と蓮鳥に気付いていった。略奪と殺人を繰り返す彼女に、少しずつ気付いていった。

 彼らは蓮鳥を、悪魔と呼んだ。「血も涙もない悪魔だ」と。

 自分だけが生きるために他人から奪い、他人を殺す、どうしようもない極悪人だと言った。知らない国の言葉で、全部は理解できなかったけれど、彼らが自分をゴミのように嫌っていることは明白だった。

 そんなことを言われても蓮鳥は、奪うことをやめなかった。殺すことをやめなかった。

 だって彼女は、それしか知らなかったのだから。

 奪って殺す以外に、生きる方法なんて知らなかったのだから。死なないようにするには、そうするしかなかったのだ。


(ああ) 


 と、蓮鳥は思った。


(私は、悪い人なんだな)


 周りの人間にそう言われ、言われ慣れて、自分自身のことを悪人だと思うようになった。


(私は悪なんだ)

(私は間違っていて、周りのみんなは正しいんだ)

(いいなぁ。みんな、正しいことが出来て。私みたいに、悪いことをしなくて済むんだ。奪ったり、殺したりしなくていいんだ。助けたり、助けられたり、正しいことが出来るんだ)

(でも・・・私は生きなきゃ)

(死にたくないんだもん・・・・奪わなきゃ、殺さなきゃ)


 そんな蓮鳥に救いの手を差し伸べる者は、誰一人としていなかった。

 あいつを捕まえろ。

 奴を殺せ。

 八つ裂きにしてしまえ。

 そんな風に追われる身になった頃、彼女は、自分の居場所を完全に失っていた。ゴミの掃き溜めのような所にまで追い詰められ、彼女はブルブルと震えていた。

 悲しくはなかった。辛くはなかった。涙は、出てこなかった。

 けど、死にたくはなかった。

 死ぬのは怖かった。自分がこんなゴミまみれの中で死ぬんだと思うと、震えが止まらなかった。


(誰か、助けてくれないかなぁ・・・) 


 朦朧(もうろう)とする意識の中で、彼女はそんな風に願った。

 苦しんでいる人の元へと颯爽と駆けつけてくれる、ヒーローのような存在を願った。


(こんな悪人の私だけど、どうしようもない奴だけど・・・誰かが私を助けてくれたりしないかなぁ・・・)


 無理、なんだろうなぁ。

 ヒーローが助けるのは、正しい人たちだ。

 悪人を倒して、善人を救う。

 悪人を助けるのは、ヒーローの役割なんかじゃ・・・・・。


「ふむ・・・君かな?君が、噂の子かな?」


 虚ろな視線を向けると、男が立っているのが見えた。

 白い。

 真っ白な男だった。全身が白いのだから、派手、という言い方はおかしいかもしれないけれど、「派手な白さ」、という表現がしっくりきた。

 短めの白髪に、シミ一つない真っ白なコート。白いパンツに巻いているベルトさえ、白い。ブーツに至っても、まるで今朝買ったばかりの新品かのように真っ白だった。


「建物の陰になっている半身(はんしん)が消えている・・・・・『鳥目の病』、か」


 綺麗だ。そして、カッコいい。

 決して、若々しい男という風ではない。短く切り揃えた白鬚や顔のシワから、そこそこの高齢であることが(うかが)える。

 だが、彼の発するダンディな雰囲気、鍛え上げたような屈強な体つきは、カッコいいと評してもいいのだろう。

 なぜ自分の『病』のことを知っているのか気にならないくらいには、目を奪われた。

 輝かしかった。


「なるほど・・・確かに噂通りだ。掃き溜めに鶴とは、まさにこのことだな」


 ニッと、これまた白く輝く歯を光らせながら、男は微笑んだ。


「心配するな。安心したまえ。俺が、君を助けよう」


 その声に。

 自信と正しさに満ちた、その声に。

 蓮鳥は無意識のうちに、手を伸ばしていた。


「助けて・・・・・」


 人生で初めて、誰かに助けを求めた。

 そして初めて、彼女を助ける者が現れたのだ。悪行三昧を尽くしてきた蓮鳥を、正しさの名の下に、助ける者が現れたのだ。

 男は、その手を取った。

 


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