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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第1章 柳瀬優の殺人
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病名とめろんぱん その16


「あなたに、会いに来ました」

「僕は、会いたくなかったな。君のような犯罪者には、出会いたくなかったよ」


 『海沿(かいえん)保育園』で待ち構えていると、予想通り、彼女はやって来た。

 彼女と直面するにあたって、僕は、(しん)(じょう)さんと()(ばた)さんに協力を要請した。具体的には、彼女と戦わなければならないような状況になったときに、力を貸してもらえないかとお願いしたのだ。


「はあ?なんで私が、そこまで面倒見なくちゃならねえんだよ。お前の名前を名乗る犯罪者なんだから、お前がなんとかしろ。それくらい、自分で解決しろよ。私はこれから仕事だ。お前の命なんかより、よっぽど大切なお仕事なんだよ。・・・じゃあな」


 信条さんを味方につけるのは、失敗した。彼女にとって、僕の手助けは「当然」のうちには入らないらしい。

 相変わらず、勝手な人である。


「引き受けますけれど・・・私、喧嘩は苦手でして。身を隠したまま犯人を捕まえる、くらいなら出来ると思うんですが・・・」


 充分だ。充分すぎるよ、炉端さん。君が尊敬している信条さんよりも、よっぽど頼りになる。

 そんなわけで、僕は姿の見えない味方と共に、殺人犯である彼女と対面することになった。僕の合図と同時に、炉端さんが彼女を捕らえる()(はず)である。

 ・・・敵が女性だとは、思ってもみなかったけれど。

 こうして会ってみると、凶悪な犯罪者という感じはしない。見た目から判断するに、高校生くらいだろうか?炉端さんと同い年か、少し年下くらいに見える。


「僕の名前を使って犯罪をするのは、やめてもらえないかな?すごく迷惑だからさ」

「・・・・・」


 そんな僕の言葉に、彼女は黙ってしまう。なんだか、不満そうな表情だ。


「本当に、(やな)()(ゆう)さん・・・ですよね?」

「?・・・そうだけど?」


 今さら確認することか?

 確信も持たずに、「あなたに会いに来ました」なんて言ったわけでもないだろうに。


「逆に聞きたいんだけれど、君が犯人ってことでいいんだよね?つまり・・・『白縫(しらぬい)病院』を抜け出して、僕の名前を使って犯罪を犯し、機桐(はたぎり)()()を殺した殺人犯・・・なんだよね?」

「・・・ええ。その通りです。間違いないですよ」


 やけに堂々としている。数々の犯罪を犯しておいて、後ろめたい気持ちとかはないんだろうか?

 罪を犯すのに、抵抗はなかったのか?


「何故、そんなことを?」

「何故?何故ってそれは・・・あなたに会うためですよ、柳瀬さん。分かるでしょう?」

「いや、分かんないって・・・・・。そもそも、なんで僕に会おうとしたんだい?」


 僕は有名人でもなければ、著名人でもない。誰かに、「会いたい」と思われるような人間ではないはずなのだけど・・・。

 何か悪い噂でも、彼女の耳に伝わってしまったのだろうか?それとも、僕の知らないところで、恨みでも買ってしまったのか?

 ありそうな話である。

 だが・・・違った。彼女の耳に伝わっていたのは、悪い噂ではなかったのだ。

 逆だった。

 真逆だった。


「あなたは・・・あなたは、『正しい人』です」

「・・・正しい人?」


 何かを決心したかのように、彼女の顔はキュッと引き締まった。

 決心。

 覚悟。

 そんな思いが、彼女を奮い立たせているように見える。


「噂を聞いたときから、そう思っていました。あなたなら、きっと分かっているんだって。あなたなら、きっと私の疑問に答えてくれるはずだって」

「・・・・・」


 なんだ?一体、この子はなにが言いたいんだ?

 この子は。

 僕に、何を求めている?


「ねえ・・・ねえ、柳瀬優さん」


 彼女の目の奥で、何かがキラリと光ったような気がした。


「正しいことって、なんですか?」


 ・・・・・・は?

 そんなことを、聞きたかったのか?

 そんなくだらないことを聞くために、僕に会おうとしたのか?

 僕の気を引こうとして、僕に関係のある事件を起こしたっていうのか?

 『白縫病院』を抜け出したのも。僕の名前を名乗ったのも。マンションを燃やしたのも。少女を誘拐したのも。機桐さんを殺したのも。

 全部、そんなどうでもいいことを聞くため?


「知らないよ」


 僕は冷たく答える。意識したわけではなかったが、自然と冷たい声が出てしまった。そんなつもりはなかったのに、彼女を軽蔑(けいべつ)してしまった。

 いや。

 軽蔑、していたのだろう。それも、思い切り。

 このときの僕は、彼女の若さを、心底馬鹿にしていたのだと思う。

 軽率さを。

 浅はかさを。

 心の底から、見下していたのだと思う。


「正しさなんて、僕は知らない。さっきも言ったけれど、正しさが何かなんて、考えたこともないと思う。そんなどうでもいいこと、考える機会がなかったからね」


 僕は言い放つ。これでもかとばかりに言い放つ。

 この感情は多分、怒りじゃない。僕は別に、怒っているわけではないのだ。

 ただ単に、呆れているだけである。

 子どもの、子どもらしい思考に、呆れ返ってしまったのだ。


「満足したかな?」


 満足、できたはずがない。

 だけど残念ながら、そういう質問がしたかったならば、僕を訪ねてきたのは間違いだった。

 大間違いだった。


「悪いけど・・・君の期待には応えられないね」


 謝罪の気持ちも、申し訳ないという気持ちもなく。

 ただただ無感情に、僕はそう言った。

 

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