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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第1章 柳瀬優の殺人
13/79

病名とめろんぱん その13

 

 それは・・・それは、あんまりじゃないのか?今まで機桐(はたぎり)さんを支えてきた草羽(くさばね)さんたちにそんな判断をさせるのは、あまりにも(こく)なんじゃないのか?

 いや、草羽さんたち使用人の気持ちなんて、僕には理解しきれないけれど。

 彼らの心情をきちんと理解できているなんて、そんな傲慢(ごうまん)なことは考えていない。誰かを尊敬したこともない僕には、彼らの気持ちは分からない。

 ただ、今まで支えてきた組織を「解散させろ」と言われて、「はい、そうですか」と呆気なく捨てることは、彼らにとっては難しいのだろう。確かに、組織のリーダーを失った以上は、それも致し方ないのだろうが・・・。


「自分に嘘はつくもんじゃねえな。草羽さん」


 と、(しん)(じょう)さんが口を開く。

 どんな人間の気持ちも完璧に理解することができる、彼女が。


「犯人を見つけたい。そして、報復したい。そんな気持ちが、あんたの中で溢れ返ってるぜ。主人の命令を守りたいのと同じくらいに、命令に背きたいって気持ちも強い。そうだろ?」

「・・・・・」


 草羽さんは、ジッと、信条さんの顔を見つめる。いや、見つめるというよりは、睨み付ける、という感じだろうか。

 「何を言いたい?」という風に、彼女に強い視線を向ける。


「ふん。『お前に何が分かるのか』ってか?分かるんだよ。何もかもな」


 その視線に怯むこともなく、彼女は言う。


「あんたらのご主人様が、どういう意図で『シンデレラ教会』を解散させようと言ったのかは分からねえ。自分のいない組織には意味がねえと思っていたのか、あんたらをいつまでも組織に縛りつけてはおけねえと思ったのか・・・。予想はできても、本当のところは分からねえ」


 死人の心は、さすがの私にも読めねえよ。


「でもよ、あんたの後悔は分かるぜ。分かりたくなくても、分かっちまうぜ。そんな後悔を残しながら『シンデレラ教会』を解散させちまったら、後で、もっと後悔することになるぜ?」


 死にたくなるほどの、後悔をな。


「背いちまってもいいんじゃねえのか?命令によ。別に、解散させなくたっていいだろ。報復したって、誰も文句は言わねえだろ。このまま終わるのが嫌なら、行動した方がいいんじゃねえのか?草羽さん」


 すべてを知ったように。

 いや。

 すべてを知りながら話す彼女に、草羽さんは、賛成するでも反対するでもなく、静かに瞬きをする。

 なんだろう・・・・・やけに熱心に、信条さんは語っている。普通に、草羽さんを勇気づけているとも見て取れる。

 確か、僕が『海沿(かいえん)保育園』を脱走しようとしたときも、こんな風に、信条さんは語っていたっけ。

 これも、彼女曰く「当然」のことなのだろうか?人間ならば、しなければならない当然の助言だと、そう考えているのか?


「それが出来たら、どれだけ良いか・・・」


 少しして、草羽さんが口を開く。


「あなたは、何もかも分かっていると言いましたが・・・多分、分かっていませんよ。私たちがあの方をどれだけ尊敬していたか、どれだけ大切にしていたか。そして、どれだけお世話になったのかを、あなたは分かっていない」

「分かってんだけどな・・・。まあ、伝わんねえもんか」


 と、信条さんは、両手を頭の後ろに回し、椅子に寄り掛かるという、()(そん)な態度をとる。

 ザ・反抗的、といった姿勢だ。


「いいぜ。好きなだけ葛藤して、好きなだけ後悔すりゃいい。私には、どうでもいいことだ」


 私には、どっちでもいい。

 それも、脱走を企んだあの夜に、信条さんから言われた言葉だ。


「ええ。そうしますよ。私は・・・ご当主様を信じます。あの方に従います。それが唯一、私の生きる意味ですから」


 今までも。そして、これからも。

 なんだかピリッとした空気が、その場に流れる。静かで激しい沈黙が、僕らを包み込む。


「・・・草羽さん」


 (おき)さんが、その沈黙を破りにかかる。


「あなたの考え方は、よく分かりました。ですが・・・犯人探しだけは、させてもらえないでしょうか?このまま放置しておけば、『シンデレラ教会』と『海沿保育園』、そして『白縫(しらぬい)病院』だけの問題ではなくなってしまう。無関係の人たちまで巻き込んでしまうかもしれません。それだけは、絶対に避けたいんです」


 絶対に、か・・・。

 無関係の人間が傷つくことを、絶対に許さない。

 そう言い切れてしまうところが、沖さんなのだろう。

 他人のことを全然考えられない僕には、分からない感覚だ。


「犯人を見つけたとしても、あなたたちには伝えません。そして、犯人を傷つけることもしません・・・。そういう約束で、犯人探しを許してはもらえないえしょうか?」

「・・・・・そうですね」


 少し思案顔をした後、草羽さんは言った。


「放置しておくわけにも、いきませんからね・・・・。『海沿保育園』の皆さんにお願いしても、よろしいでしょうか?」

「ええ。もちろんです」


 と、沖さんは微笑む。

 裏表のない明るい笑顔を、草羽さんに向ける。


「必ず、私たちが保護します」


 保護。

 どんな人も助ける。それが犯罪者であろうと、助ける。

 それが、『海沿保育園』なのだった。

 


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