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病名(びょうめい)とめろんぱん  作者: 雛まじん
第1章 柳瀬優の殺人
12/79

病名とめろんぱん その12

 

 心当たりはありますかと聞かれれば、ここは、説明するしかないだろう。

 僕は、()(ばた)さんから聞いた情報を、そのまま、草羽(くさばね)さんたちにも話した。

 『白縫(しらぬい)病院』から、脱走者が出たこと。

 『(やな)()(ゆう)』を名乗る謎の犯罪者が、その直後に出現したこと。

 そして、その犯罪者が、機桐(はたぎり)さんを殺した可能性が高いということを。


「そういうことでしたか。しかし、『白縫病院』から脱走者とは・・・」

「『白縫病院』のことを、何かご存知なんですか?」

「知っているというか、なんというか・・・少し、お待ちいただけますか?」


 立ち上がった草羽さんは、奥の方にある仕事机に近づき、書類を漁り始める。何か探し物だろうか?と、思っていたが、目的のものはすぐに見つかったらしく、彼はこちらへ戻って来た。


「・・・ご覧ください」


 草羽さんが持ってきたのは、一枚の名刺だった。氏名や所属の書かれた、あの名刺だ。


『白縫病院院長 機桐()()


「白縫病院・・・院長?」


 と、沖さんが目を丸くしながら声を上げる。

 そういえば・・・と、僕は思い出す。機桐さんとの、最初の会話を思い出す。


『私は少し前まで、とある病院の院長をしていてね』。


 確か、そう言っていたはずだ。

 ならば、白縫病院の院長という肩書きを、機桐さんは少し前まで持っていたということか。


「いや・・・ちょっと、待ってください」


 少し疑問に思ったことがあって、僕は口を開く。


「機桐さんは最初、『(やまい)』のことを知らなかったんですよね?」


 そのはずだ。

 ()()ちゃんの『治癒(ちゆ)()(じょう)の病』を、最初は、単なる才能だと思っていたと、彼は語っていた。

 だが、『白縫病院』のような、『病』に関わる組織の院長をしていたというならば、『病』のことを知らなかったというのは変じゃないのか?


「どうやらご当主様は、『白縫病院』の、『表向き』の院長を務めていたようなのです」

「表向き?」


 表向きって・・・病院に、表も裏もあるのか?


「『白縫病院』は、表向きには普通の病院ですから。普通の患者を入院させ、普通の治療を行う、どこにでもある病院です」


 まあ・・・それは、分かっている。身を持って、知っている。そうでなければ、僕があの病院に入院させられるわけがないのだ。


「なら、病院としての通常業務を行う裏で、『白縫病院』は『病持ち』の保護をしているということですか?機桐さんは、表向きの院長として務めていたから、裏向きの『病』については、何も知らなかったと?」

「そういうことに・・・・なるのでしょうね。『病』に関する情報は、かなり内密なもののはずですから。病院の一部の者しか、『病持ち』のことを知らなかったのでしょう。ご当主様を除く、一部の者しか」


 うーん・・・・どうやら、沖さんが言っていたように、彼らの組織構造は複雑なようだ。『病持ち』を保護する組織と一言に言っても、その中身は、それほど分かりやすいものでもないのか。


「もしも柳瀬さんのその仮説が正しいのならば、『白縫病院』は、その脱走者を、目を皿にして探していることでしょう。それでも見つかっていないとなると・・・・相当に厄介な敵なのかもしれません」

「ならば私たちも、早々に動かなければいけませんね。このままでは、次に誰が狙われるのか、分かったものではありません。それに最悪の場合、柳瀬くんが、無実の罪を押し付けられてしまうかもしれません」


 と、決意する沖さん。

 半分には同意。もう半分にはノーコメントだ。

 他の誰が狙われようと、僕はどうでもいい。

 ただ、僕を犯人に仕立て上げるのはやめてほしい。冤罪(えんざい)は勘弁だ。

 が、しかし、沖さんの決意を遮るかのように、草羽さんは「お待ちください」と声を上げた。

 

「犯人探しは・・・やめていただきたいのです」

「やめる・・・?何故です?」


 沖さんは、不思議そうな表情をする。僕もおそらく、似たような表情をしていることだろう。

 犯人は機桐さんの仇だ。その仇を、特定したくはないのか?自分の主人を殺した人間の正体を、知りたいはずでは?


「ご当主様は・・・望んでいません。犯人の特定も、私たちが報復に動くことも・・・あの方は、望んでいないんです」


 小さく頭を振りながら、草羽さんは言う。

 望まない。犯人の特定も、報復も、望まない。

 それは確かに、機桐さんの優しさが滲んだ判断であるとは思うけれど・・・。


「あの方は・・・たとえ、自分が殺されることがあったとしても、殺した相手に手を出すことは許さないと、そうおっしゃっていました」


 それは、罰なのだから。

 娘を傷つけた罰なのだから、と。

 草羽さんは、苦しそうに唇を噛む。


「自分が死ぬか、組織を支えられなくなったとき。そのときは・・・」


 苦しそうに。悔しそうに。悲しそうに。

 その言葉を、紡ぐ。


「『シンデレラ教会』は解散とすると、そう、おっしゃっていました・・・・・」

 


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