チートステータス
初投稿です。むしゃくしゃして書きました。気が向いたら続き書きます。
俺の名前は佐藤潤平。中学2年生のフツメン男子だ。
さっき学校からの帰宅途中でトラックに轢かれた。
財布を落としたのに気づき、慌てて横断歩道を引き返してしまった。
信号は赤だったのに。
死んだ、と思った次の瞬間、森の中に立っていた。
ペタペタと身体を触ってみたが、どこも痛くない。
着ている制服(うちの学校は学ランだ)も破けてすらいない。
カバンも傍らに落ちていた。
ポケットに入れていたスマホを確認して見ると、16:23と表示されている。電波は圏外であった。
辺りを見渡してみる。
もう11月のはずなのに、青々とした葉を揺らす木々に囲まれている。
日はまだ高く、木々の間から光が差し込んでいる。
トラックでの交通事故、そして次の瞬間見知らぬ風景。
俺にはこれらの現象に思い当たる所があった。
「もしかして…」
そんなことを考えていると、何かの視線を感じた。
辺りを見回すと、小さな茶色いウサギがこちらを見ていた。
しゃがんで手招きしてみると、
ぴょこぴょこと可愛らしく近づいてくる。
あと少しで手が届く、というところで変化が起こった。
茶色い毛並みがドロドロと溶けるように崩れ、
粘性を持った、透明なうごめく物体に姿を変えたのだ。
「スライムってやつか!」
慌てて飛び退いて体勢を立て直す。
「ということはやっぱりこれが異世界トリップってことか!」
普通の人ならパニックであろう。だが俺は予習バッチリである。
日本でも毎日異世界トリップもののWeb小説を読んでいた。
スキルやステータスがある剣と魔法の世界に来たに違いない。
毎日教室の隅で妄想していた通り、異世界に転移してしまったのだ。
しかしこういう最初の敵への対策も万全である。
ゲームのようにステータスを開いて有用なスキルにポイントを割り振るのだ。
攻撃系のスキルがあれば、その辺の雑魚など相手にならない。
さらに大抵はチート能力を持っているのがテンプレだ。
夢にまで見た異世界転移。
ここから冒険者ジュンペイの異世界ハーレムが始まるのだ!
そして俺は高らかに叫んだ。
「ステータスオープン!」
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僕の名前は佐藤潤平。中学2年生のフツメン男子。
手を握って開く。右足を出して左を…歩ける。
よし、頭も身体も問題はなさそうだ。
あれからかなり時間が経った。
既に日は落ち、森は不気味な静寂と闇に包まれている。
時間はかかってしまったが、非常に大きな成長を実感する。
知能もかなり高くなったように感じる。
武器や魔法で攻撃してくる厄介な相手だったらもっと苦戦していただろう。
それを警戒して、まずは右手に飛びかかって溶かし始めたのだが、
「ああぁぁ!熱い!痛い!…ステータスオープン!くそ、なんで…ステータス!」
と泣き喚いて転げ回るだけで、この佐藤潤平という人間は何もしてこなかった。
うるさいので頭から溶かしてやるとやがて静かになっていった。
「痛い…なんで…チートは…スキ…ル…」
最後までうわ言をつぶやいていたが、問題なく消化・吸収できた。
人間は初めて食べたが、ウサギなんかよりもずっと美味しかった。
僕は人間からスライムと呼ばれている種族の中でも、特殊な個体である。
他のみんなは緑や青、赤といった色を持ち、消化・吸収以外にも簡単な魔法を使うことが出来る。
対して、僕は透明であり、それらの魔法は使えない。
その上、他のみんなよりも消化・吸収に時間がかかる。
ただその代わりに、消化・吸収した生物の知能まで吸収し、その身体を構築することができた。
そして、溶かした生物の知識や記憶も吸収することが出来る。
今までは小さな動物を食べ、その姿になって同種の生物を油断させて食べてきた。
共通の餌場や、群れの居場所の知識を活用すれば簡単だった。
これからは美味しい人間を効率よく食べていきたいところだが、どうやら佐藤潤平は別世界から来たようなのである。
Web小説なるものの知識くらいしか持たず、この世界の常識は一切持っていない。
もちろんスライムである僕にはこの森以外のことはわからない。
「まずは『テンプレ』というやつに則って、人里を目指してみよう。」
いくら僕でも、複数の人間に囲まれたら殺されてしまう可能性がある。
核という、動物の心臓にあたる部分を砕かれたらスライムは身体を維持できずに死んでしまうのだ。
冒険者ギルドっていうのはあるのかな。
いつ死んでもおかしくない人達なら、こっそり食べてもバレないよね。
冒険者ジュンペイとして、美味しい人間にありつけると良いな。